「アクワイアリング・ザ・テイスト(Acquiring the Taste)」はイギリスのロックバンドの中でも異彩を放ち続けクオリティーの高い作品を出し続けた希有なバンドGentle Giant(ジェントル・ジャイアント)の2ndアルバムである。
まさにその後の方向性を決定づける記念碑的なアルバムであるし、有名な
という文言がジャケットに記されている。
Gary Green:6弦&12弦ギター、12弦ワウワウギター、
まさにその後の方向性を決定づける記念碑的なアルバムであるし、有名な
「It is our goal to expand the frontiers of contemporary popular music at the risk of being unpopular.(現代のポピュラーミュージックの境界を、ポピュラーミュージックとは呼べなくなる危険を冒しつつ押し広げることが、われわれの目指すところなのだ。)」
という文言がジャケットに記されている。
Gary Green:6弦&12弦ギター、12弦ワウワウギター、
ロバのあごの骨(キハーダquijadaという打楽器のことか)、
ネコの鳴き声(をまねたヤジ)、声
Kerry Minnear:エレクトリック・ピアノ、オルガン、
メロトロン、ヴィブラフォン、ムーグ、ピアノ、チェレスタ、
クラヴィコード、ハープシコード、ティンパニ、
シロフォン(木琴)、マラカス、リードボーカル
Derek Shulman:アルトサックス、クラヴィコード、カウベル、
Derek Shulman:アルトサックス、クラヴィコード、カウベル、
リードボーカル
Phil Shulman:アルト&テナーサックス、クラリネット、トランペット、
ピアノ、クラヴェス、マラカス、リードボーカル
Ray Shulman:ベース、ヴァイオリン、ヴィオラ、
Ray Shulman:ベース、ヴァイオリン、ヴィオラ、
エレクトリック・ヴァイオリン、スパニッシュ・ギター、
タンバリン、12元ギター、オルガン・ベース・ペダル、
頭蓋骨、ボーカル
Martin Smith:ドラムス、タンバリン、ゴング、サイド・ドラム
<ゲスト>
Paul Cosh:トランペット、オルガン
Paul Cosh:トランペット、オルガン
Tony Visconti:リコーダー、バス・ドラム、トライアングル
Chris Thomas:ムーグ・プログラミング
Chris Thomas:ムーグ・プログラミング
(ジャケットにクレジットがなかったので
メンバー及び担当楽器はWikipediaによる)
いつもながらに担当楽器の多彩さに圧倒されるが、ティンパニーやリコーダーなどのロック的ではない楽器が、同じ曲の中でロック的な楽器と違和感なく同居しているのがGentle Giantらしい。
4作目の「Octopus(オクトパス)」でドラムスがJohn Weathersに替わってから、リズムにパワフルなグルーヴが加わり、より洗練された緻密さと大胆さを兼ね備えたサウンドになっていくのだが、このアル バムではむしろ洗練される前の混沌とした薄暗さが大きな魅力となっている。
初めて導入されたというシンセサイザーの響きもウネウネと妖しい。全体的にミディアム/スローテンポな曲が多いこともあって、音とコーラスの迷宮に引きずり 込まれていくような独特の魔力を持つ。アレンジ面でもエコーが比較的強調されていることも、幻想性・幻惑性を高めている要因と言える。
多彩な楽器の使用法、曲展開、リズムチェンジ、コーラス・ワーク、全てが予想を裏切りつつ曲は進んでいくのに、聴いていると不自然さや無理矢理さがなく、むしろ音やハーモニーの美しさに耳を奪われる。
しかしそこに込められた音楽性の多彩さは、聴き込むほどに深みを増してくる。プログレッシヴ・ロックである以前に、ロックという音楽があらゆるジャンルを取り入れることが可能なミクスチャー・ミュージックとして存在していたことを思い知らされる感じだ。
まさにバンドが宣言するポピュラリティーと実験精神のせめぎ合いが、絶妙なバランスで1枚のアルバムとして結実している。「ポピュラーでない音楽になる危険 を冒してでも…」という意気込みが、Gentle Giantの作品群の中でも特異なミステリアスな雰囲気をこの作品にもたらしたのではないだろうか。
突出した個性的なプレーヤーや強烈な印象を残すソロプレイなどはない。だからこそ、そのサウンド・アンサンブルの暗闇へと知らず知らずに落ちていくのである。こんな強烈な音楽を演奏しながらスタープレーヤーがいないというところがGentle Giantの個性であり、他のバンドとは根本的に音の作り方やバンドの在り方が違っているように思うのだ。あらためて非常に不思議な、まさにプログレッシ ヴなバンドであることを感じさせられる1枚。
後期のロック色が増し、整然と複雑なことをやってのけるGentle Giantとも、楽器を取り替えながら観ているものを唖然とさせながら楽しそうに演奏するアクロバティックなGentle Giantとも違った魅力がここにはある。1971年の作品とは思えない、まったく古さを感じさせない初期の大傑作。
ちなみに「aquire the taste」は、「美味しさを堪能する」、あるいは「鑑賞力・審美眼を獲得する」というような意味かな。つまり「オレたちの音楽の奥深さが君たちにわかるかい?」っていう挑戦的・挑発的な含みのあるタイトルなのかもしれない。やっぱり自信と意気込みが違う。