原題:Are(A)zione(1975)
■Area(アレア)
強烈なオリジナリティーと圧倒的な演奏力でイタリアが世界に誇るバンドArea(アレア)による、1975年に発表された4枚目にあたるライヴアルバムである。
タイトルの「Are(A)zione」は「Areazione(自由な討論・議論、感情の表出)」という単語であるが、中央部のAを強調することで、「Area」+「Azione(行動・活動:英語のaction)」という意味を持たせたとも言えるだろう。コミュニズムに傾倒していた当時のイタリアの若者たちの集会で、Areaは数多く演奏していたと言われる。まさにそんなAreaライヴにふさわしいタイトルである。
Giulio Capiozzo:ドラムス、パーカッション
Patrizio Fariselli:ピアノ、エレクトリック・ピアノ、
バス・クラリネット、ARPシンセサイザー、パーカッション
バス・クラリネット、ARPシンセサイザー、パーカッション
Demetrio Stratos:ボーカル、オルガン、スチールドラム、パーカッション
Ares Tavolazzi:エレクトリック&アコースティックベース、
トロンボーン、ポケット・トランペット
トロンボーン、ポケット・トランペット
Paolo Tofani:ギター、EMSシンセサイザー
曲目は1st、2nd、3rdから代表曲を1曲ずつ取り上げられ、続いてライヴ用インプロヴィゼーション「Are(A)zione」、そしてアレア版「インター」(International:万国労働者の歌であり、共産主義国家における革命歌、資本主義国家における労働組合の団結意識を高める際にも歌われた)で終わるという、ライヴらしさを取り入れた構成になっている。
ちなみにLPでは代表曲がA面、あとの2曲がB面となっていて、ベスト盤的な面とライヴならではの面が、CD以上に明確に意識できるようになっていた。
ライブ感覚を盛り上げるのはそれだけではない。「オデッサのリンゴ」では実際にリンゴを食べるパフォーマンスが入る。そのザラザラした音像が妙にライブっぽい。トータルにバランスが取られた演奏時の音像とは異なり、そこだけ生録っぽい感じなのだ。リンゴを齧る音が良い。背後でざわめく聴衆の雰囲気が良い。
もちろん演奏も素晴らしい。アルバムは1stの一曲目で聴く者の度肝を抜いたArea代表曲「7月、8月、9月(黒)」で演奏は始まる。1stアルバムとはメンバーが異なるのでサックスが入らないが、音の分厚さや勢いはアルバムを凌ぐ。
アレア独特なシンセサイザーの音色によるアラビア風メロディーが強烈だ。ネイ(nay)というアラブの葦笛の音を真似ているようだが、民族楽器的雰囲気を残しつつも、シンセサイザーの暴力性が前面に出ている点がアレアらしい。
バルカン地方の伝統的ダンスミュージック特有の複雑なリズムと強烈なスピードが、凄腕メンバーのテクニカルな演奏によってジャズロックのパワーを得る。15分に渡る熱演「Are(A)zione」など、部分的にはマハヴィシュヌ・オーケストラを思い出すほどだ。弾けるエレクトリック・ピアノ、繊細かつパワフルなドラムス、負けじと動き回り自己主張するアコースティック・ベース。
しかしデメトリオ・ストラトスのボーカル&ボイス・パフォーマンスが入ると、エスニック・ジャズロックの域を軽々と飛び越え、現代音楽、実験音楽的要素まで取り入れて、まったく新しい“アレアとしての音楽”が作り出される。アルバム以上にデメトリオの声の太さにも魅了される。
そして静動どちらのパートにおいても常に緊張感を孕み続けている。そこがまたクラシックに根ざした美しいメロディーを情感豊かに歌い上げる他の多くのイタリアのバンドとは、大きく一線を画しているところだろう。「インター」の解体具合も凄まじい。
収録曲の少なさや収録時間の短さは残念であるが、アレアのライヴバンドとしての魅力が凝縮された傑作。
ちなみにより多くのライヴ演奏を堪能したいなら、音質は劣るが「Parigi - Lisbona(パリ―リスボン)」というアーカイヴ音源がある。