原題:Cunning Stunts(1975)
■Caravan
イギリスのカンタベリー派を代表するバンドと位置づけられているCaravanのスタジオ第6作。ジャズロック・テイストが強かった初期からポップな小品の完成度の高さは折り紙付きだったが、プログレッシヴ・ロックも成熟期〜混迷期に入りつつあったこの頃、まさにそのポップさとテクニカルなアンサンブルを絡めて一気に聴かせるCaravanワールドは、絶頂期に達したと思わせる1枚。
Pye Hastings:ギター、ボーカル
Dave Sinclair:キーボード
Mike Wedgwood:ベース、ボーカル、コンガ
Richard Coughlan:ドラムス
Geoff Richardson:ヴィオラ、ギター、フルート
《ゲスト》
Jimmy Hastings: ブラス・アレンジ、アルト&テナー・サックス
クラリネット
当時のLPで言えばA面が5つのポップソング。これが80年代のパワー・ポップとは違って、いかにもイギリスという感じの線の細い、フォーキーな美しさに満ちた曲ばかりなのだ。
ゆったりしたピアノとオクターブを移動するベースが印象的な「Show of Our Lives」では、本作から参加するウェッジウッドのボーカルがさっそく聴ける。乗りの良い「Stuck in a Hole」ではリチャードソンのヴィオラからシンクレアのムーグソロが愛らしい。波打つストリングスが美しい「Lover」(ちなみにloverという単語は、正式には結婚も同棲もしていないが、性的関係を強く暗示させる言葉)、そのままストリングスが「Backstage Pass」へと続き、メランコリックな歌が始まる。パーカッション入りのギターソロが素晴らしい。そしてソウルフルな異色作「Welcome the Day」。ボーカルのウェッジウッドの声質がパワフルでないため、これもアルバムに馴染んでしまう。
そしてLPB面で展開される「Dabsong Conshirtoe」。5つのパートからなる組曲ともメドレーとも取れるが、A面の雰囲気を引き継ぐような甘いボーカルとうっとりするようなメロディーに導かれて始まり、ロック・テイスト、ジャズ・テイストを経て、渦巻くようなインストに様々なSEが被さる混沌とした狂気すら感じさせるクライマックス、そしてアルバム冒頭曲「Show of Our Lives」がリプライズする感動のラストという、もう文句なしの傑作大曲だ。
夢見るようなポップス風のスローな出だしから、次第にテンポが速くなっていくが、思いの外ドラムスが重く、リズムが走り出すのを抑えている感じがする。このタメがいい。そして世界がどんどん広がり移り変わり、聴き手は音の洪水に心地よく飲み込まれていく。
興奮の余韻を冷ますかのようなアコースティックな小曲「The Fear And Loathing In Tollington Park Rag」で、このアルバムは幕を下ろす。でもまた最初から聴きたくなっちゃうのである。 傑作。
ちなみにWikipediaによれば、タイトルの「Cunning Stants」はspoonerismと呼ばれる頭音転換による言葉とのこと。英国のSpooner牧師がこのような間違えを良くすることから付けられた。例えば「book case」を「cook base」、「cold butter」を「bold cutter」というような言い間違えだ。つまりここで示唆されている言葉はセクシーな意味合いの「Stunning Cunts」。「最高のアソコ(女性性器)=名器」、あるいは「最高のsex(の女性相手)」ぐらいの感じでしょうか。
さらに大曲「Dabsong Conshirtoe」も辞書にはない言葉。これは裏付けはないのだが、「Lovesong Concerto」(ラヴソング協奏曲)を、酔っぱらったようなだらしない口調で言ったものではないかと思うのだけれど、どうであろうか。