2009/08/25

「フォックストロット」ジェネシス

Foxtrot(1972年)

Genesis(ジェネシス)

 
「Foxtrot」(邦題は「フォックストロット」)は英国の代表的プログレッシヴ・ロックバンドGenesis(ジェネシス)が1972年に発表した名作。

ジェネシスは強烈なボーカリスト、Peter Gabriel(ピーター・ガブリエル、あるいはピーター・ゲイブリエル)と、彼をサポートするバックバンドのようなかたちでスタートした。初期の頃はメンバーもそれほど楽器の演奏レベルが高くなく、ライヴではPeter以外は皆座って演奏に専念していたという。

しかし当初から強烈なオリジナリティを放っていた。マザーグース風な奇怪さと幻想性、ファンタジーとドラッグによるトリップの間を行き来するような不思議さと危うさ。そしてそこに薫るイギリスらしさ。

 Tony Banks:オルガン、メロトロン、ピアノ、12弦ギター、ボーカル
 Steve Hackett:エレキギター、12弦&6弦アコースティックギター
 Phil Collins: ドラムス、ボーカル、パーカッション
 Peter Gabriel:リードボーカル、フルート、ベースドラム、
        タンバリン、オーボエ
 Michael Rutherford: ベース、ベースペダル、12弦ギター、ボーカル、
        チェロ

アルバムはKing Crimsonから譲り受けたというメロトロンで壮大に幕を開ける。まずこの音が素晴らしい。暗く雲が立ちこめた空のような重苦しくも美しい音が、波のように折り重なって響く。

そしてシンコペーションを多用した難しいリズムで突っ走るバック。そこに登場する個性的なPeterのボーカル。「Watcher of the Skies」はこうして、壮大なシンフォニック・ロックをかたち作っていく。

Peterはライヴにおいて様々な衣装に身を包み、物語を語るなど、かなり演劇的な要素の強いパフォーマンスを行っていたが、彼のボーカルだけでも、その個性の強さ、ユニークさ、表現力の高さが伝わってくる。

そして他のメンバーが一生懸命Peterをサポートするかのように、彼の思い描く世界を音にしようとしている姿が目に浮かぶのだ。

この時期のGenesisの魅力は実はそこにあると思う。個性豊かなボーカル。しかしそれを殺さずに、生真面目に精一杯演奏しようとするメンバー達という、危うさを秘めた絶妙なバランス。

メンバーの力量はアルバムごとに上がっていき、次作「月影の騎士(Selling England by the Pound)」では、ボーカルを圧倒するほどのインストゥルメンタルパートを聴かせるレベルにまで達する。しかし、アルバムとしての完成度は高くなり、聴 きやすくもなったが、この「Foxtrot」や、一つ前のアルバム「Nursery Cryme」で描いたような独特な妖しさは薄れたと言える。

このバックの演奏のどことなく感じられる拙さ、しかし決してテクニカルなバンドではないけれど、テクニックギリギリであっても何か新しいことをやってやろうとする意気込み、細かなアンサンブルの工夫、とても真剣で端正な演奏。そんなものが実は大きな魅力となっていたのだ。

そしてそうしたものが、Genesisが持っていた妖しい世界やPeterの独特な声やシアトリカルなボーカルスタイルに、とてもマッチしていたのだと思うのだ。

2曲目の「タイム・テーブル」のバロック音楽風な静かで気品のある展開。3曲目、4曲目のシアトリカルなボーカルを守り立てるような、12弦ギターや各種キーボードなど、様々な楽器によるインストゥルメンタルパート。どの曲も曲としての完成度がとても高い。

旧LPではA面最後の曲となったのが、「Horizon's」というSteveのクラシカルなアコースティック・ギターソロ。B面の大曲に移る間奏曲のような役割を持たせた見事な構成だが、この曲がまたとても美しい。

そして23分近くに及ぶ超大作「サパース・レディ」。Peter GabrielがLSD体験中の幻覚を元に書き上げたと言われる曲だが、自ら「命をかけて歌った」と言っているように、目まぐるしく変化する曲調に合わせ てボーカルスタイルも変わっていく、予断を許さない展開。インストゥルメンタルパートも単なるバックバンドの域を超えて、Genesisサウンドを作り出 そうとするような勢いを感じる。

非常に緩急、動と静の動きの激しい曲だが、澱みなく最後まで突き進む。まさにGenesisシンフォニックロックの完成形。

「Foxtrot」は、Peterを中心に、演奏面で飛び抜けたスターはいないが、個性的な音色、フレーズ、アンサンブルと、アイデアを重ねて作り上げた独特の濃密さにあふれた作品となった。それはまさにこの時期のGenesisにしか作れなかった傑作である。

 

2009/08/20

「醒めた炎」

原題:Out of the Mist(1977年)

Illusion(イリュージョン)


「Out of the Mist」(邦題は「醒めた炎」)は、イギリスのクラシカルなフォーク・ロックバンド、Illusion(イリュージョン)が1977年に発表した1stアルバム。

Illusionは、オリジナル・ルネッサンス(Renaissance)が解散した後に、再びオリジナルのルネッサンスを復活させるべく結成されたバンド。

オリジナル・ルネッサンス再建に動いていたキース・レ ルフ(Keith Relf)が、自宅で作曲中にギターの感電で死亡するという事故がおきる。その後、兄の意志を受け継ぐべく、妹のジェーン・レルフをフロントに、オリジナ ルルネッサンスの4人が集結。そこにギターとドラムが新たに加わり、6人編成のバンドとしてルネッサンスは復活する。

しかし活動を開始するにあたって、すでにバンド名の使用権がアニー・ハズラム(Annie Haslam)を擁する別バンドに移っていたことにより、オリジナル・ルネッサンスの2ndアルバムのタイトル「Illusion(幻影)」をバンド名とする。

 John Hawken:ピアノ、ムーグ、メロトロン、オルガン
 Louis Cennamo:ベース
 Jane Relf:ボーカル
 Jim McCarty:ボーカル、アコースティック・ギター、パーカッション
 John Knightbridge:ギター
 Eddie McNeil:ドラムス、パーカッション

アルバムはJim McCarty(ジム・マッカーティー)とJane Reff(ジェーン・レフル)のデュエットによる「イザドラ(Isadora)」で始まる。無理のない美しい発声による二人のフォーキーな歌は、それだけでとても優しく聴き手を包んでくれる。

バックもロックバンド形式ではあるが、フォークギターとクラシカルなピアノをメインに、歌の美しさを最優先したアレンジだ。John Hawkenのピアノ・アルペジオが印象的。間奏に入るエレキギターソロも地味ながら感動的。終盤は静かにメロトロンフルートが鳴り響く。

2曲目「自由への道」ではJaneがメインボーカルで歌う。華やかさはないがいかにもブリティッシュな落ち着いた歌い方、そして低めの声質がとても大人の女 性を思わせる。フォークタッチな歌い方ながら、音程も安定しており高音も低音も美しい。清楚にしてどこか醒めたような彼女のボーカルは、聴けば聴くほど味 わいが増す。

本アルバムは本当に良い曲が多く、3曲目の「ビューティフル・カントリー」の、冒頭の静かなムーグの調べから引き込まれる言葉にならない美しさ、途中で聴かれるメロトロン・フルートの効果的な使い方など素晴らし過ぎる。

またオリジナル・ルネッサンス時代の曲に再録にあたる「フェイス・オヴ・イェスタデイ」も、Janeの魅力爆発な名曲。スキャット部分も思わず過去を振り 返ってしんみりしてしまう程に美しい。曲自体に大きな起伏を作るというより、ある種の感情を切り取って歌にしたような淡々としながら心に染み入る曲だ。

しかし4曲目「ソロ・フライト(Solo Fight)」などは、McCartyがボーカルを取るロック寄りの7拍子の曲だし、5曲目の「エヴリホエア・ユー・ゴー(Everywhere You Go)」はオーケストラをバックにJaneが歌うノリのよい曲だし、ラスト曲はツインボーカルにハーモニーが重なるダイナミックな曲。展開も多く、本アル バム中では一番プログレッシヴ・ロック的だ。そうした音楽的な幅の広さやそれに対応できるメンバーの実力も伴っていたと言えるし、そうして曲調が変わって もどこかしら醒めたような格調高さが不変なのもいい。

全体として、美しいメロディー、ピアノを活かしたシンプルなアレンジ、Janeのメ インボーカルに、淡く絡み付くハーモニーが特徴。その中で終始美しい調べを奏で続けるピアノが特に印象的で、音楽面でJohn Hawken(ジョン・ホウケン)の存在がとても大きいことが伺える。

プログレッシヴ・ロックに分類されることが多いが、フォーク系のブリティッシュ・ロックとしても傑作。

Janeの声、いいなぁ。うん、スゴくいい。

 

2009/08/18

「ザ・シンフォニック組曲」

原題:Hybris(1992年)

Änglagård(アングラガルド)


「Hybris」(邦題は「ザ・シンフォニック組曲」または「ヒブリス」)は、1990年代に入り、まさに彗星のごとくスウェーデンから登場した90年代屈指のシンフォニック・ロックグループÄnglagård(アングラガルド:正しい発音は“エングラゴー”)の、1992年のデビューアルバム。

2ndアルバムと、もう1枚ライヴアルバムを残して解散するが、その後現在に至る北欧プログレッシヴ・ロック、あるいは世界的な新しいタイプのプログレッシヴ・ロック興隆の狼煙を上げた作品と言ってもいいかもしれない。

Thomas Jonson:キーボード
Jonas Engdegard:エレクトリック&アコースティックギター
Tord Lindman:ボーカル、エレクトリック&アコースティックギター
Johan Hogberg:ベース、メロトロン
Anna Holmgren:フルート
Mattias Olsson:ドラムス、パーカッション

彼らが新しかったのは、1980年頃にイギリスで興ったプログレッシヴ・ロック・リヴァイヴァル・ムーヴメンにおいて、ポンプ・ロック(pomp rock:華麗なロック、仰々しいロック)と、半ば揶揄されながら、オリジナリティに欠けるジェネシスタイプのバンドを多数輩出した流れとは異なり、北欧という離れた場所から、90年代的オリジナリティーを打ち出しつつ、1970年代の息吹きを直接引き継ぎついだ音を作り出した点にある。

まず第一に、ハモンド・オルガンやソリーナ、メロトロンなど、1970年代のヴィンテージ楽器への強い思い入れと深い愛情がある。それらの楽器の持つ魅力を1990年という時代に甦らせ、現代でも十分に楽器としてのパワーを持っていることを再認識させてくれたのだ。

しかし、その曲調にはポンプ・ロックが持っていた甘ったるさ、ヌルさを微塵も感じられない。むしろリスナーを突き放すような冷徹さ。それはKENSOから ロックの熱さを抜き取ったような潔い音のぶつかり合いと、先の読めない、全体像が掴みにくい曲展開。しかしそこに宿る幽玄な叙情。そこに第二の、まさに 90年代ならではの特徴があるのだ。

ボーカルパートは少ないが、貴重な清涼剤的役割を担い、インストゥルメンタル・パートはグルーヴしない律儀でテクニカルなドラムスの上で、ギターやハモンド・オルガンが力強く歌い、メロトロンが神秘のベールをかける。

一聴すると聴く者を拒絶するかのような展開も、聴き慣れるに従ってグッとリズムやメロディーが浮き出て感じられるのが不思議だ。翌年スウェーデンからデ ビューするAnekdoten(アネクドテン)ほどギターリフを多用したラフでラウドなパワーで押していくタイプではなく、複雑に構築された曲を気合いで 演奏しているようなイメージ。

このパーカッション的でグルーヴしない、メリハリのはっきりしたドラミングには好き嫌いが分かれるかもしれないが、1970年代のドラマーの多くがジャズのプレイに影響されていたのとは異なる、90年代的な潔さを感じる。それでいてプログレ・メタル的なツーバス叩きまくりではない、表情をしっかり持ったプレイであるところに、独特な魅力があるように思う。

メンバーは皆テクニシャンである。しかし時にキング・クリムゾン的なパワーで押しまくりながら、ふっとフルートやメロ トロンなどが醸し出すフォーク・トラッド的な面も大きな魅力だ。曲展開の強引さと静と動の極端な落差は、このバンドが作り出す曲の大きな特徴である。スウェーデン語のボーカルも良い味を出している。

1970年代のプログレッシヴ・ロックの影響を受け、あふれる愛情に満ちあふれながら、情や雰囲気に流されない独自の孤高なる世界を描いた傑作。音に込められたエネルギーはロック的な熱さとも異なるオリジナルな音だ。

ちなみにオリジナルタイトルの「Hybris(“ハイブリス”と発音するようだ)」は英語の「hubris」、つまり「自信過剰、ごう慢」という意味。確かにリスナーに媚びず、メンバー同士も自信を持って個性をぶつけ合い作り上げられたであろう傑作。さらに付け加えるとÄnglagårdとはHouse of Angels(天使達の家)という意味である。