2012/01/20

「ライヴ」バークレイ・ジェイムス・ハーヴェスト

原題:Live(1974)
■Barclay James Harvest


Barklay James Havest(バークレイ・ジェイムス・ハーヴェスト)は1970年にアルバムデビューしたイギリスのバンドである。美しく叙情的なメロディーや、メンバー4人中3人がボーカルを担当して美しいハーモニーを聴かせる点などから、ポップさとシンフォニックさが絶妙にブレンドされた曲を特徴とする。

バンドの活動歴は長いが、初期はオーケストラを取り入れた曲作りが一つの特徴となっており、その時のオーケストラアレンジを後にThe Enidを結成するRobert John Godfreyが担当していた。2ndアルバム発売後には彼の率いるオーケストラとツアーを行なっていたという。

本作は彼らの第6作にして初のライヴ。初出のLPは2枚組だった、収録時間75分を超える大作だ。そして「Summer Soldier」、「Galadriel」、「She Said」、「Mocingbird」などの名曲がひしめいているのも大きな魅力。

    John Lees:リードギター、リコーダー、ボーカル
    Les Holroyd:ベース、リズムギター、ボーカル
    Stuart "Wooly" Wolstenholme:メロトロン、エレクトリックピアノ、
          ムーグ、ボーカル
    Mel Pritchard:ドラムス

まず特出すべきは演奏の完璧さである。アルバムでオーケストラが担当していた部分はギターやキーボードで見事にカバーし、逆にロック的な躍動感が増している。オーケストラに替わって大活躍しているのがキーボード群だ。Wolstenholme(ウルステンホルム)のメインキーボードはメロトロンじゃないかというくらい、メロトロンが鳴っており、それをバックにギターやボーカルが切々と歌う。

オーケストラ入りだった曲も、4人というバンド・ユニットだけの演奏なのに、その叙情美や雄大な世界観は微塵も崩れない。それどころかメロトロンが活躍することでむしろシンフォニック色が強まり幻想性が増した。

だからと言って大仰な演出や超絶テクニックや超人的アンサンブルで聴く者を圧倒するタイプではないので、繊細なパートのプレイも大切なのだが、これがまた実に丁寧に演奏されていて素晴らしいのだ。

この“静”の部分はまたボーカルの上手さが引き立つ場でもある。いかにもイギリス的な落ち着いた声のボーカルが心地よい。さらに3人ともがリードボーカルを取れるほど安定して歌えるので、ボーカルハーモニーがまた美しい。

ボーカルのバッキングに回ったギターも巧みに曲をサポートする。もちろんソロパートもブルースフィーリングあふれるプレイが印象的だ。気づくとメロトロンが見事にギターソロをサポートしている。という具合に、超絶テクニカルアンサンブルとは違う意味で、4人が見事なアンサンブルを見せている。痒いところに手が届くほどに。
  

こうして叙情的な世界に浸りつつ甘美が時間が過ぎていく。 これがBarclay James Harvestの魅力である。さらにこのアルバムにはスタジオ盤とはまた違ったライヴならではの荒々しさや、緊張感が漂っている。現在のプログレバンドのライブでよく見られるような弾き倒し系のプレイや分厚いサウンドとは違い、音数は少なく音圧も低いけれど、それぞれの音やプレイに存在感のある、まさに1970年代の職人的なワザを感じられる傑作。

ちなみに今でもそうだけれど、日本での知名度は決して高いとは言えない。プログレッシヴ・ロックに含めるかどうかという点でも微妙かもしれない。それは当時も同じであって、バンドの情報がほとんどなく、プログレっぽいけど一体どういう音なんだろうと想像しながら、レコード屋でずっとジャケットを眺めて、結局リアルタイムには買えなかったという思い出がある。でも当時買ってもこの良さはわからなかったかもしれないなぁ。

 

2011/12/10

「ターミナル・トゥワイライト」ホワイト・ウィロー

原題:Terminal Twilight(2011)

■White Willow(ホワイト・ウィロー)


 ノルウェーのバンドであるWhite Willowの活動歴は古く、メンバーも流動的でサウンドもアルバムごとに変化してきた。1st アルバムは1995年発表の「Ignis Fatuus(邦題:「鬼火」)で、それ自体が1992年から94年にかけて録音されたもので、曲ごとにメンバーや曲調が異なるものであった。

その後もボーカルを含めメンバーチェンジを繰り返しながらも、ギターのJacob Holm-Lupoを中心にフォーク・トラッド路線を基調としたシンフォニックな作品を送り出してきた。そして前作から5年のインターバルを経て発表されたのが第6作となる本作「Terminal Twilight」である。

まず前作から再びメンバーチェンジがあり、2ndで参加していた元ÄnglagårdのドラマーMattias Olssonと、2nd〜4thでリードボーカルを取っていたSylvia Erichsenが復帰した。そしてキーボードにはWobblerのメンバーとしても活躍しているLars Fredrik Frøislieが、4th以降参加していることもあり、腕達者かつ個性的なメンバーが揃っての完成度の高い作品となった。

   Sylvia Erichsen:ボーカル
   Lars Fredrik Frøislie:キーボード
   Ketil Einarsen:フルート
   Jacob Holm-Lupo:ギター
   Ellen Andrea Wang:ベース
   Mattias Olsson:ドラムス
 

まず特筆しなければならないのは、オフィシャル・ホームページでは担当が「drums and everything」と書かれているMattias Olssonのドラムスだろう。
かつてキーボードプレーヤーの難波弘之氏から

「私はいつもこの手のユーロ/シンフォニック系リズム・セクション(特にドラム)の稚拙さと、演奏の色っぽさの欠如が気に入らない。(中略)ビート感と艶は天性のもので、前者は訓練によりいくらか良くなる事もあるが、後者の欠如は自分には華がないとあきらめるしかない」
 (「Marquee」vol.047、1993年、マーキームーン社、
アングラガルド『ザ・シンフォニック組曲(Hybris)』のアルバムレビューより)

と、手厳しく批評されたMattiasのドラミングは、確かにグルーヴしないし歌わない。 Änglagårdのアルバムでもそうであるが、テクニカルでありながらいわゆるプログ・メタル系ともも異なる、張りつめたような、どこか殺気漂うようなプレイが特徴である。

しかしそれがÄnglagårdにおける強烈な個性になっていたことも確かであるし、Änglagårdの複雑で終始緊張感に満ちた楽曲には、必要不可欠なものだったとも言える。彼のドラミングなしにはÄnglagårdの傑作群は生まれなかったと言っても過言ではない。

そして彼のそうした特徴は、女性メインボーカルによるフォークタッチを持ち味とするWhite Willowの本作でも、異質な響きを放っている。そしてそれが本作を、フォーク/トラッド風な甘く柔らかな世界へ留まらせずに、硬質なシンフォニックな世界と同居させることに成功していると言えるのである。

冒頭の曲の出だしではSunday All Over The World(vo.Toyah Willcox)かと思うような雰囲気に驚かされるが、Sylvia Erichsenのボーカルは基本的にフォーク/ポップス系の、ちょっとAnnie Haslam風で、もう少しコケティッシュな感じなもの。歌モノのメロディーも良いし、ボーカルも安定していて声にも魅力がある。

だからアルバムとしてもっとフォーク/ ポップス路線に傾いてもおかしくないのだが、ドラムスがそれを拒んでいるかのように、およそ歌をサポートしているとは思えないような、金属的な固い音と、聴く者に緊張感を強いるようなプレイをしているのだ。

そのギャップと言うかミスマッチな組み合わせが、結果的に曲に深みと奥行きを出す空間を生み、ギターやヴィンテージ・キーボードやフルートが、時に雄大に時に幽玄に、シンフォニックな世界を作り出すことができているのである。

だから逆にまた歌モノのメロディーの良さやボーカルの魅力も際立つことになる。

シンフォニックとかプログレッシヴとか言うには、良質のポップスに匹敵する歌の存在感が強く(耳について離れないメロディーが多い!)、同時にまた歌モノとしては気軽に聞き流せない異質な要素が多過ぎる。それが中途半端なのではなく、自然に共存してオリジナルな魅力になっているところが、本作の凄さではないだろうか。

わたしはその音に、吹雪吹き荒れる極寒の大地に、ポツンと存在する、暖炉の火で部屋中が暖かく照らされた一軒家を想像する。やがて吹雪に埋もれてしまうかもしれない一軒家を。

中心人物のJacob Holm-Lupoは次のように語っている。

「一種のコンセプトはある。どの曲も、ある種の黙示録的なシナリオを物語っている。ちょうど黙示録の辞書みたいな感じだね。(中略)僕はドラマと闇、それに崩壊と腐敗の美しさと魅力の両方をとらえたかったんだよ。」
(「Euro-Rock Press vol.51」、マーキー・インコーポレイティド、2011、インタヴューより)

美しくも静かな悲壮感をたたえた傑作。
No-ManのTim Bowness(ボーカル)が歌う一曲も素晴らしい。

ホームページに書かれた次の文章が、彼らの音楽をうまく捉えている。

「White Willow is considered Norway's foremost exponent of art-rock - by which people tend to mean pop songs stretched to pointless lengths and crammed with weird-sounding instruments. And that happens to be pretty much what we do.
(ホワイト・ウィローはノルウェーのアートロックを代表するバンドのように思われている - つまりポップソングがその領域を際限なく広げられ、風変わりな音を出す楽器をたんまり詰め込まれたものというわけだ。それは偶然にもわれわれがやっていることそのものなんだよ。」

この表現には、Gentle Giantの1stアルバムに載せられていた“宣言”に近いものを感じる。

 

2011/11/21

「祈り」赤い鳥

原題:「祈り」(1973)

■赤い鳥

1969年に結成、「竹田の子守唄」(第3回ヤマハ・ライトミュージック・コンテスト、フォーク部門1位)や「翼を下さい」(今は合唱曲としても有名)などのヒットを飛ばしたことで有名なバンドだ。

後に「紙風船」と「ハイファイセット」に分裂するほどに、メンバー 全員がボーカルを取れる力量と音楽性を持っていたが、逆に言えばフォーク指向の後藤・平山と都会的ポップス指向の山元夫妻・大川という異質な要素が、常にぶつかり合って分裂の危機にあったと言われる。

赤い鳥のサウンドは、そんな中で生まれた、フォークソングの枠に収まり切らない独特で幅の広いものだった。

そして第8作目(スタジオライヴ含む)となる本作では、前作「美しい星」からメンバーとなっていた大村憲司(ギター)、村上“ポンタ”秀一(ドラムス)が引き続き全面参加し、二人がさらにロック的要素を持ち込んだことで、シングルヒット作のフォーキーなイメージとは異なるが、赤い鳥の持つ魅力が一つの頂点に達したトータルアルバムとなった。

 後藤悦治郎(ボーカル、ギター)
 平山泰代(ボーカル、ピアノ)
 山本潤子(ボーカル、ギター)※旧姓:新居潤子
 山本俊彦(ボーカル、ギター)
 大川茂(ボーカル、ベース)
 大村憲司(リード・ギター)
 村上“ポンタ”秀一(ドラムス)

大村&村上は「美しい星」では他のメンバーと一緒にジャケットに写っていたが、このアルバムでは発売の2ヶ月前に脱退していたため、ジャケット写真には写っていない。

しかしボーカル曲の11曲中、大村が8曲を作曲するなど、アルバムへの貢献度と影響力はとても大きい。全体的にエレキギターが多用され、それが見事に赤い鳥サウンドに溶け込んでいるのも特徴だ。村上のドラムスもタイトで正確なリズムで、全体のサウンドを引き締める。  

不思議なインストゥルメンタル「無の世界〜誕生」でアルバムは幕を開け、続く「めざめ」で山本潤子がその美しいボーカルを聴かせる。まるでピンク・フロイドの「狂気」の「生命の息吹き」のようだ。

その後、曲は様々なタイプのものが続く。神秘的なもの、コミカルなもの、ハードなもの。そしてスキャット、語りなどを含みながら、どの曲も美しく力強いボーカル(後藤、平山、山元潤子)がストレートなメロディーを歌い、メンバーによる分厚いハーモニーがそこに力強さと迫力と音の複雑さを加える。

「マリブー」(歌:後藤)のロック的ダイナミズム、「虹を歌おう」(歌:山元潤子)の心にしみる伸びやかな声、「星」(歌:平山)に漂う情念、そして大村&村上二人だけによる即興的インストゥルメンタル「大地の怒り」のアナーキーさ。「石」では最初から最後までコーラスワークで歌い切る。そして最後はなんと大胆にも全員アカペラによるヘンデル作曲の「メサイア」コーラスで終る。この多彩さ、そして濃さ。

良く聴けば歌声のピッチがちょっと危ない部分などもあるが、これだけ多彩なボーカル&ハーモニーを聴かせ、ポップでありながらそれを邪魔せずにハードな世界も溶け込ませたこのアルバムは、奇跡的なバランスの上に作られた作品だと言える。赤い鳥のスゴさを実感できるアルバムだ。


女性二人の特徴も良く出ていて、声楽を学び情感を込める“努力の人”的な平山と、自然な発声が最高の癒しをもたらしてくれる“才能の人” 的な山元の違いがよくわかる。

前作「美しい星」ではメインボーカルと言ってもいいくらい山元が歌っていたが、その不世出な素晴らしい歌声を承知の上で、本アルバムの白眉は後藤の歌う「マリブー」と平山の歌う「星」であろうと思う。

大 村のギター・カッティングがロックな疾走感を生み、そこに赤い鳥コーラスが厚みを増して行く「マリブー」は前半(A面)の山場。さらに冒頭から大村のギターが歌いまくるロックバラード「星」の情念あふれる美しさ。終盤で聞かれるブルガリアンボイス風スキャットも耳に残る。アルバム全体にも言えることだが、こうした細かなバッキング・ボーカルも実に凝っているのだ。

そしてアルバム全体のメインボーカルがリーダーである後藤である(語りを含め5曲でリードボーカルを取っている)点も、本アルバムの特徴だ。「美しい星」が女性的であるとしたら、「祈り」は男性的なアルバム、あるいは全員参加・全力投入的なアルバムなのである。

二人の女性リードボーカリストを擁しながら、敢えて後藤・大村が全体をまとめたことで、非常に奥の深い作品ができあがったのだろう。現在はボックスセットでしか手に入らない(廃盤)のが実に惜しい傑作。

プログレの様式に縛られないで聴くと、そのプログレッシヴさがわかってくる作品だ。

前作「美しい星」は山上路夫・村井邦彦コンビの楽曲が中心、「祈り」は赤い鳥メンバーのオリジナル曲が中心という点でも、与えられたイメージを脱した赤い鳥らしさが開花し、技術的にもメンバー的にも最高の状態で作り上げられた作品であったと言えよう。
 
ちなみにこのアルバム、レコード会社との契約でアルバムを制作しなければならない中、リーダーの後藤がメンバーを映画館連れて行って「この映画を観た印象から、各自曲を作ること」と言い渡したことから出来上がったそうな。その映画とはモーゼ役でチャールストン・ヘストンが主演する「十戒」だったという。