2012/02/11

「トレスパス(侵入)」ジェネシス

原題:Trespass(侵入) (1970)
■Genesis

「Trespass(侵入)」はイギリスのバンドGenesis(ジェネシス)が1970年に発表した第2作目。次作の「Nursery Cryme(怪奇骨董音楽箱)でスティーヴ・ハケット(ギター)とフィル・コリンズ(ドラムス)が加入し、いわいる黄金期のメンバーになり、傑作アルバムを次々に発表するため、この「Trespass」は相対的に評価があまり高くないように思われるが、内容は充実しており非常に魅力的なアルバムである。アンソニー・フィリップスがメンバーだった最後の作品。

Peter Gabriel:リードボーカル、フルート、アコーディオン、
          タンバリン、バスドラム
Anthony Phillips:アコースティック12弦ギター、
          リードエレクトリックギター、ダルシマー、ボイス
Anthony Banks:オルガン、ピアノ、メロトロン、ギター、ボイス
Michael Rutherford:アコースティック12弦ギター、
          エレクトリックベース、ナイロンギター、チェロ、ボイス
John Mayhew:ドラムス、パーカッション、ボイス


このアルバムの魅力は何と言ってもビーター・ガブリエルのボーカルである。彼のボーカリストとしての力が全編にみなぎっている。そして個性的な歌い回しや独特な声質とともに、ストレートに訴えかけてくる切ないメロディーが良いのだ。もちろんピーターの表現力も素晴らしい。

そしてバックの演奏も、決してピーターのバックバンドに甘んじているわけではない。後の作品のように分厚い音の洪水こそないが、アコースティックギターやピアノの繊細な音は活かされており、ピーターのフルートと相まってアコースティックな雰囲気が色濃い曲が並ぶ。

インストゥルメンタル・パートになるとドラムスがやや単調な感じを受けるが、逆にボーカルを中心とした曲では安定感のある音でもある。メンバー全体のバランスはとても良い。バンドとしての一体感がある。ピーターのボーカルに拮抗するのではなく、その世界を押し広げるかのような演奏が美しいのだ。曲はドラマチックさを増しながら、次作から濃厚になる怪奇趣味的雰囲気よりも繊細さや人懐っこさが勝っている。

実際マイクラザフォードは1985年のインタビューで、他のアルバムは少なくとも1〜2曲は個人的に作られた曲が含まれていたが、このアルバムだけは全ての曲作りに全員が等しく参加していると述べてる(Wikipediaより)。

曲的にはインストゥルメンタルパートが充実しているシンフォニックな「ザ・ナイフ」が注目されがちだが、核戦争後の世界を描いた「スタグネーション」が素晴らしい。主人公の悲しみや孤独が幻想的な演奏の中に浮かび上がってくる。

こうした曲の深みも含めて、「Trespass(侵入)」は他のアルバムにはない魅力にあふれた傑作だと思う。インストゥルメンタル・パートのテクニカルな比較だけでこのアルバムを下に見るのは間違っているだろう。そもそもGenesisの魅力はテクニカルな部分よりも全体の楽器のバランスや繊細なプレイにあったはずだから。


2012/01/20

「ライヴ」バークレイ・ジェイムス・ハーヴェスト

原題:Live(1974)
■Barclay James Harvest


Barklay James Havest(バークレイ・ジェイムス・ハーヴェスト)は1970年にアルバムデビューしたイギリスのバンドである。美しく叙情的なメロディーや、メンバー4人中3人がボーカルを担当して美しいハーモニーを聴かせる点などから、ポップさとシンフォニックさが絶妙にブレンドされた曲を特徴とする。

バンドの活動歴は長いが、初期はオーケストラを取り入れた曲作りが一つの特徴となっており、その時のオーケストラアレンジを後にThe Enidを結成するRobert John Godfreyが担当していた。2ndアルバム発売後には彼の率いるオーケストラとツアーを行なっていたという。

本作は彼らの第6作にして初のライヴ。初出のLPは2枚組だった、収録時間75分を超える大作だ。そして「Summer Soldier」、「Galadriel」、「She Said」、「Mocingbird」などの名曲がひしめいているのも大きな魅力。

    John Lees:リードギター、リコーダー、ボーカル
    Les Holroyd:ベース、リズムギター、ボーカル
    Stuart "Wooly" Wolstenholme:メロトロン、エレクトリックピアノ、
          ムーグ、ボーカル
    Mel Pritchard:ドラムス

まず特出すべきは演奏の完璧さである。アルバムでオーケストラが担当していた部分はギターやキーボードで見事にカバーし、逆にロック的な躍動感が増している。オーケストラに替わって大活躍しているのがキーボード群だ。Wolstenholme(ウルステンホルム)のメインキーボードはメロトロンじゃないかというくらい、メロトロンが鳴っており、それをバックにギターやボーカルが切々と歌う。

オーケストラ入りだった曲も、4人というバンド・ユニットだけの演奏なのに、その叙情美や雄大な世界観は微塵も崩れない。それどころかメロトロンが活躍することでむしろシンフォニック色が強まり幻想性が増した。

だからと言って大仰な演出や超絶テクニックや超人的アンサンブルで聴く者を圧倒するタイプではないので、繊細なパートのプレイも大切なのだが、これがまた実に丁寧に演奏されていて素晴らしいのだ。

この“静”の部分はまたボーカルの上手さが引き立つ場でもある。いかにもイギリス的な落ち着いた声のボーカルが心地よい。さらに3人ともがリードボーカルを取れるほど安定して歌えるので、ボーカルハーモニーがまた美しい。

ボーカルのバッキングに回ったギターも巧みに曲をサポートする。もちろんソロパートもブルースフィーリングあふれるプレイが印象的だ。気づくとメロトロンが見事にギターソロをサポートしている。という具合に、超絶テクニカルアンサンブルとは違う意味で、4人が見事なアンサンブルを見せている。痒いところに手が届くほどに。
  

こうして叙情的な世界に浸りつつ甘美が時間が過ぎていく。 これがBarclay James Harvestの魅力である。さらにこのアルバムにはスタジオ盤とはまた違ったライヴならではの荒々しさや、緊張感が漂っている。現在のプログレバンドのライブでよく見られるような弾き倒し系のプレイや分厚いサウンドとは違い、音数は少なく音圧も低いけれど、それぞれの音やプレイに存在感のある、まさに1970年代の職人的なワザを感じられる傑作。

ちなみに今でもそうだけれど、日本での知名度は決して高いとは言えない。プログレッシヴ・ロックに含めるかどうかという点でも微妙かもしれない。それは当時も同じであって、バンドの情報がほとんどなく、プログレっぽいけど一体どういう音なんだろうと想像しながら、レコード屋でずっとジャケットを眺めて、結局リアルタイムには買えなかったという思い出がある。でも当時買ってもこの良さはわからなかったかもしれないなぁ。

 

2011/12/10

「ターミナル・トゥワイライト」ホワイト・ウィロー

原題:Terminal Twilight(2011)

■White Willow(ホワイト・ウィロー)


 ノルウェーのバンドであるWhite Willowの活動歴は古く、メンバーも流動的でサウンドもアルバムごとに変化してきた。1st アルバムは1995年発表の「Ignis Fatuus(邦題:「鬼火」)で、それ自体が1992年から94年にかけて録音されたもので、曲ごとにメンバーや曲調が異なるものであった。

その後もボーカルを含めメンバーチェンジを繰り返しながらも、ギターのJacob Holm-Lupoを中心にフォーク・トラッド路線を基調としたシンフォニックな作品を送り出してきた。そして前作から5年のインターバルを経て発表されたのが第6作となる本作「Terminal Twilight」である。

まず前作から再びメンバーチェンジがあり、2ndで参加していた元ÄnglagårdのドラマーMattias Olssonと、2nd〜4thでリードボーカルを取っていたSylvia Erichsenが復帰した。そしてキーボードにはWobblerのメンバーとしても活躍しているLars Fredrik Frøislieが、4th以降参加していることもあり、腕達者かつ個性的なメンバーが揃っての完成度の高い作品となった。

   Sylvia Erichsen:ボーカル
   Lars Fredrik Frøislie:キーボード
   Ketil Einarsen:フルート
   Jacob Holm-Lupo:ギター
   Ellen Andrea Wang:ベース
   Mattias Olsson:ドラムス
 

まず特筆しなければならないのは、オフィシャル・ホームページでは担当が「drums and everything」と書かれているMattias Olssonのドラムスだろう。
かつてキーボードプレーヤーの難波弘之氏から

「私はいつもこの手のユーロ/シンフォニック系リズム・セクション(特にドラム)の稚拙さと、演奏の色っぽさの欠如が気に入らない。(中略)ビート感と艶は天性のもので、前者は訓練によりいくらか良くなる事もあるが、後者の欠如は自分には華がないとあきらめるしかない」
 (「Marquee」vol.047、1993年、マーキームーン社、
アングラガルド『ザ・シンフォニック組曲(Hybris)』のアルバムレビューより)

と、手厳しく批評されたMattiasのドラミングは、確かにグルーヴしないし歌わない。 Änglagårdのアルバムでもそうであるが、テクニカルでありながらいわゆるプログ・メタル系ともも異なる、張りつめたような、どこか殺気漂うようなプレイが特徴である。

しかしそれがÄnglagårdにおける強烈な個性になっていたことも確かであるし、Änglagårdの複雑で終始緊張感に満ちた楽曲には、必要不可欠なものだったとも言える。彼のドラミングなしにはÄnglagårdの傑作群は生まれなかったと言っても過言ではない。

そして彼のそうした特徴は、女性メインボーカルによるフォークタッチを持ち味とするWhite Willowの本作でも、異質な響きを放っている。そしてそれが本作を、フォーク/トラッド風な甘く柔らかな世界へ留まらせずに、硬質なシンフォニックな世界と同居させることに成功していると言えるのである。

冒頭の曲の出だしではSunday All Over The World(vo.Toyah Willcox)かと思うような雰囲気に驚かされるが、Sylvia Erichsenのボーカルは基本的にフォーク/ポップス系の、ちょっとAnnie Haslam風で、もう少しコケティッシュな感じなもの。歌モノのメロディーも良いし、ボーカルも安定していて声にも魅力がある。

だからアルバムとしてもっとフォーク/ ポップス路線に傾いてもおかしくないのだが、ドラムスがそれを拒んでいるかのように、およそ歌をサポートしているとは思えないような、金属的な固い音と、聴く者に緊張感を強いるようなプレイをしているのだ。

そのギャップと言うかミスマッチな組み合わせが、結果的に曲に深みと奥行きを出す空間を生み、ギターやヴィンテージ・キーボードやフルートが、時に雄大に時に幽玄に、シンフォニックな世界を作り出すことができているのである。

だから逆にまた歌モノのメロディーの良さやボーカルの魅力も際立つことになる。

シンフォニックとかプログレッシヴとか言うには、良質のポップスに匹敵する歌の存在感が強く(耳について離れないメロディーが多い!)、同時にまた歌モノとしては気軽に聞き流せない異質な要素が多過ぎる。それが中途半端なのではなく、自然に共存してオリジナルな魅力になっているところが、本作の凄さではないだろうか。

わたしはその音に、吹雪吹き荒れる極寒の大地に、ポツンと存在する、暖炉の火で部屋中が暖かく照らされた一軒家を想像する。やがて吹雪に埋もれてしまうかもしれない一軒家を。

中心人物のJacob Holm-Lupoは次のように語っている。

「一種のコンセプトはある。どの曲も、ある種の黙示録的なシナリオを物語っている。ちょうど黙示録の辞書みたいな感じだね。(中略)僕はドラマと闇、それに崩壊と腐敗の美しさと魅力の両方をとらえたかったんだよ。」
(「Euro-Rock Press vol.51」、マーキー・インコーポレイティド、2011、インタヴューより)

美しくも静かな悲壮感をたたえた傑作。
No-ManのTim Bowness(ボーカル)が歌う一曲も素晴らしい。

ホームページに書かれた次の文章が、彼らの音楽をうまく捉えている。

「White Willow is considered Norway's foremost exponent of art-rock - by which people tend to mean pop songs stretched to pointless lengths and crammed with weird-sounding instruments. And that happens to be pretty much what we do.
(ホワイト・ウィローはノルウェーのアートロックを代表するバンドのように思われている - つまりポップソングがその領域を際限なく広げられ、風変わりな音を出す楽器をたんまり詰め込まれたものというわけだ。それは偶然にもわれわれがやっていることそのものなんだよ。」

この表現には、Gentle Giantの1stアルバムに載せられていた“宣言”に近いものを感じる。