2009/11/27

「Day and Night」ファンタスマゴリア

Day and Night(2009年)

Fantasumagoria(ファンタスマゴリア)


Day and Night」は日本のプログレッシヴ・ロックバンド、ファンタスマゴリア(Fantasmagoria)の2009年発売のデビューアルバムである。

2004年9月に「FANTASMAGORIA live demo CD」を発表。 2005年にメキシコで行われた世界最大のプログレフェスティバル、BAJA PROG FESTIVALで聴衆を熱狂させた。 2007年にはフランスで行われたヨーロッパのプログレフェスティバルPROG SUD FESTIVAL にて演奏し、ここでも絶賛される。

そして満を持して発表されたのが、このファーストフルアルバム「Day and Night」である。

本アルバムは世界のレビュー評から高い評価をもらい、イタリアで開催される世界プログレ大賞「 Prog Awards 2009」の「Best Foreign Record(ベスト海外レコード)」部門に、日本バンドとして唯一ノミネートされたという。まさに実力で台頭してきたバンドなのだ。

   藤本 美樹:バイオリン
   尾崎 淳平:ギター
   小谷 竜一:キーボード
   北尾 直樹:ベース
   諏訪 昌孝:ドラム

まず大きな特徴として上げられるのが、女性ヴァイオリニストがフロントのバンドであるということ。これは世界的に見ても珍しいんじゃないかと思う。それも完 全 なインスト・バンドである。そしてトラッド系の音楽ではなく、王道プログレッシヴ・ロックである。それだけでも貴重な存在だし、バンドとしての見た目の華 がある。これはかなり大きいことだ。そしてもちろんそのサウンドもオリジナリティ豊かなもの。


日本でもヴァイオリンが活躍するバンドとしては、アウター・リミッツ、KBBなどが思い浮かぶが、どちらも近年素晴らしい作品を発表している。

アウター・リミッツは英語のボーカル入りのシンフォニック色の強いバンド。したがって1980年代の作品も2007年の復活作も、オーケストラで活躍する川口貴のヴァイオリンは、まさに切れ味の凄まじく音の深みも抜群のクラシック奏法だ。

KBBはギターレスなので壷井彰久のヴァイオリンが前面で活躍するが、比較的ジャズ・ロック色が濃く、キーボードとの絶妙な絡みやインタープレイなどもあって、ヴァイオリン・プレイはテクニカルで力強く、安定感がある。

ではFantasmagoriaの藤本美樹のヴァイオリンはどうか。バンド編成や目指すサウンドの違いも当然あるわけだが、ヴァイオリンとしてはクラシックを基礎として持ちながら、必要以上にクラシカルな厳格さみたいな縛りから解放されている感じがするのだ。

編成上、ギターやキーボードも活躍するし、全員テクニック的には文句なく素晴らしい。リズム隊も抜群のプレーをする。しかしどちらかと言えばヴァイオリンが常に中心に存在していて、ギターもキーボードも非常に巧みにヴァイオリンをサポートしているような印象を受ける。

では常にヴァイオリンがフロント立つことで、次第に耳障りになったり、曲が単調に聴こえ出したりしないのか。これがしないのである。

どの曲も構成がしっかりしていて、非常にドラマチックに展開していくので、思わず聴き入ってしまうのだ。これにはメンバー以外に作曲者が2名、曲作りに参加していることも大きく貢献していると思われる。

そしてなによりその中心にいるヴァイオリンに大きな魅力がある。まず音の入り方が優しい。空気を切り裂くような鋭い入り方ではない。そのため激しい曲でもヴァイオリンの音が豊かな膨らみを持つ。女性的な音と言えるのかもしれない。

正直なところテクニック的にはピッチが揺れたりして、若干不安定な面もある。しかしそれがまた味なのだ。そのヴァイオリンを聴いていると、わたしは女性のシ ンガーが歌っているような感じがしてしまうのだ。だから終始ヴァイオリンが鳴っていても、“シンガー”なんだから良いのだ、という気がしてしまう。つまり ヴァイオリンが歌っているということなんだろう、それもロックを。

そして彼女のヴァイオリンが、ヘヴィーなサウンド、スリリングなプレイの中でも、曲をぐいぐい引っ張っていく。ピッチ の揺れはクラシックではなくロック的な視点で見た時の、“ロックシンガー”としての情感の表現とすら言えるかもしれない。

日本が誇るべき、非常に完成度の高い傑作。

ちなみにFantasmagoriaは“phantasmagoria”(走馬灯、あるいは次から次へと変わってゆく走馬灯的光景、幻想)と同義。

なお、このCDは輸入版としてAmazonで手に入るが、国内版はMusic Termで取り扱っている。


2009/11/15

「サンヒローのオリアス」ジョン・アンダーソン

原題:Olias of Sunhillow(1976年)

 Jon Anderson(ジョン・アンダーソン)


Olias of Sunhillow」(邦題は「サンヒローのオリアス」)はYes(イエス)のボーカリストJon Anderson(ジョン・アンダーソン)が1976年に作り上げたファースト・ソロアルバムである。

この時期YesはキーボードにPatrick Moraz(パトリック・モラーツ)を迎え壮絶な世界を作り上げた「Relayer」を発表し一段落、各メンバーが次々とソロ作を発表していた時期だ。

そしてまさに最後にトリを飾るように発表されたのが、このYesの顔とも言うべきJonのソロアルバムであった。アルバムはJonが作り上げたSF的な物語 に沿ったコンセプトアルバムであるが、Yesの歌詞さながらに抽象的、観念的な物語なので、逆にそこに神話的神秘さを感じさせる、壮大な音絵巻となった。

アルバムにサポートメンバーのクレジットは無く、「music written and performed by Jon Anderson」とあるだけなので、基本的には彼1人が20種類以上の楽器を使い作り上げたものだと言われる。実際音的にもバンド的な演奏というより は、彼の唯一無二な声を活かした、フォーキーなメロディーにシンフォニックな色づけをした感じで、演奏技術の高さでテンションの高い世界を作り上げていく Yesとは異なっている。

そういう点ではやはりと言うか当然と言うか、彼の声あってのYesを再確認できるとともに、彼の声だけではYesにならないという、当たり前の印象を強く持ったのを覚えている。

しかしさすがにその声は美しく、さらに複雑に組み合わさった多重録音によるハーモニーの素晴らしさはYesで「もっと彼の声を聴きたい」という思いを満たしてくれるものだった。

物語の大筋は次のようなものだ。

オリアス、ランヤート、コクヤクという3人の飛行者が「ゲダの庭」に集まる。 サンヒローという場所には4つの部族が住んでいたが、サンヒローの地が危機に瀕していたことを知り、3人は人々を救うべく集まったのだ。

ランヤートとオリアスは「ムアグレード」という船を作り上げる。4つの部族は始めはバラバラだったが、コクアクの歌によって一つのハーモニーを作ることがで きるようなり、心を一つにしてムアグレードに乗り込む。そしてムアグレードが旅立った時、凄まじい音とともにサンヒローは大爆発してしまう。

旅を続けるうちに部族の者たちが不安と恐れから「ムーン・ラ」と叫び始め、混乱が広がり始める。しかし崩壊寸前にオリアスが愛の歌を歌い始め、人々の苦痛を消し去ってしまう。

最終的に人々は一つの意志、一つの魂となり、宇宙と一つになっていく。仕事を終えた3人は山に登り、星を見ながら太陽に向って漂い始めるのであった。

わたしはどことなくイタリアのLe Orme(レ・オルメ)の「Felona e Sorona(フェローナとソローナの伝説」を思い出してしまうのだが、「Felona e Sorona」が悲劇的な最後を迎えるのとは異なり、音楽、愛によって宇宙という高次元の存在へと一体化する物語は、Yesに通じるプラス志向の物語であ り、神話的スケールを感じさせるJonワールドである。

最初聴くと意外とボーカルが普通に聴こえてしまうのだが、良く聴くと非常に多くの声を重ね、厚みのあるハーモニーが随所に出てくる。

Yes的世界を持ちつつJonのボーカルの魅力を詰め込んだ点では、その後のソロアルバムにはない特別な作品だと言える。

ちなみにLPで豪華に描かれたイラストレーションはDave Roeというアーティストによるもの。Roger Deanに似ているが、緻密な描写はぜひLPサイズで味わいたい。