原題:Sommerabend(1976年)
■Novalis(ノヴァリス)
「Sommerabend(邦題は『過ぎ去りし夏の幻影』」は、ドイツのバンドNovalis(ノヴァリス)が1976年に発表した3rdアルバム。タイトルの「Sommerabend」は英語にすると「Summer Evening」、つまり「夏の夕暮れ」。
ドイツのプログレッシヴ・ロックというとTangerine Dream(タンジェリン・ドリーム)やKraftwerk(クラフトワーク)などのシンセサイザー系なイメージが強かった当時、その詩情豊かな音楽性に 圧倒された覚えがある、まさにドイツ・シンフォニックロックの名作。
バンド名の「Novalis」は、18世紀〜 19世紀にかけて活動したドイツ・ロマン主義の詩人・小説家であるNovalis(本名フリードリヒ・フォン・ハルデンベルク Friedrich von Hardenbergのペンネーム)から取ったとされる。“Novalis” という言葉はラテン語で“新開墾地”を意味するという。
Detlef Job:ギター、ボーカル
Lutz Rahn:キーボード
Heino Schünzel:ベース、ボーカル
Hartwig Biereichel:ドラムス
アルバムは全3曲という大作で占められる。しかし仰々しさやテクニカルな派手さはなく、むしろ堅実な演奏と魅力的なメロディー、そして自然な曲展開で、聴く者をまさに“夏の日の夕暮れ時”へと誘ってくれる。
何と言っても曲が良い。そして楽器のバランスがいいのだ。キーボードも派手なオーケストレーションはしないし、ギターも弾き倒すわけでもない。アンディー・ ラティマーとピーター・バーデンスがいた頃のCamel(キャメル)のように、サウンドの絶妙なバランスの上に情感豊かな世界が広がっていく。
しかし例えばCamelが名作「Snow Goose(スノーグース)」で表現した、物語に沿った人物やその心情の見事な描写とは異なり、このアルバムでは、夏の夕暮れという自然の時間と空間から 生まれる切ない心情が表現されているのだ。それは昼間の暑苦しい太陽が沈んで、祭の後のようなちょっとした寂しさと、けだるいく物憂い夜の始まり。様々な記憶が浮かんでは消えていくような時間だ。
さらにこのアルバムでノヴァリスは、避暑地で静かに日が暮れ行くのを 見つめているような、情景を演出している。ボートをこぐオールが軋むような音、カエルの鳴き声、波が打ち寄せる水音。それらとバンドの、決して音数は多くな い演奏が見事に解け合い、遠い記憶を呼び覚まされるかのようだ。
とは言ってもいわゆる環境音楽とかヒーリング・ ミュージック的なものではなく、しっかりと“ロック”しているところがまた魅力である。美しいメロディー、ドイツ語による実直なボーカル、タイトなリズ ム、そして時にハードロック的に疾走する展開。つまり、“間”の取り方や音のバランス感覚が優れているんだろうと思うのだ。ここには、詰め込み過ぎないこ とで生まれる、聴き手の感情を引き出す力がある。
元来プログレッシヴ・ロックというのは、こうしたある種の“非日常 的”な世界を見せてくれる音楽であった。超絶テクニカルプレイだとか、壮大なオーケストレーションだとか、泣きのギターだとかは、そのための手段に過ぎな かったはずなのだ。それが今やヘタをするそれ自体が目的になったかのような音楽が“プログレッシヴ・ロック”になってしまった。
メ ンバー全員が超絶テクニシャンであるとか、シンフォニックであるとか、クラシックとの融合であるとか、「ハケット風ギター」であるとかいう前に、そこに別 の世界を垣間見せてくれる音楽的魅力があるかどうか。一聴すると特別革新的なことも目新しいこともないように思われるこのこのアルバムには、そんなことま で考えさせられる強い“音楽の力”を持っている。
感情を抑え気味に歌うギター、 静かに爪弾かれるアコースティックギター、メロトロンよりもストリングス・アンサンブル主体にオルガン、シンセサイザー、エレクトリックピアノなど多彩ながら的確に使い分けられるキーボード。そしてドラムの締まった音がまた良いのだ。
ある種のあか抜けなさというか生真面目さが、熟達し洗練することで逆に失ってしまう大事なものを残してくれている感じ。そういった点では、タイプはまったく違うけれどイタリアの「Le Orme(レ・オルメ)」の魅力に通じるものがある。
これだけの映像喚起力のある作品はちょっと他にはないんじゃないだろうか。聴くほどに世界が開けていく、ジャーマン・プログレッシヴ・ロックの名作中の名作。
ちなみに日本でも日が沈む「黄昏時(たそがれどき)」は別名「逢魔が時(おうまがどき)」と呼ばれて、魔物に出会う一種不思議な時間帯とされていた。夕暮れ(abend)はようの東西を問わず、何か不思議で特別な時間帯なのかもしれない。その美しくも神秘的な雰囲気が、このアルバムにもある。
なおサウンドに見事にマッチしたジャケットの絵は、アルバムにはLord's Gallery, Londonとしか書かれていないが、アメリカの画家・イラストレーターであるMaxfield Parrish(マックスフィールド・パリッシュ:1870-1966)の作品。「Scribner's」というイラスト雑誌の表紙に使われた「森の少女」(1900)。
■Novalis(ノヴァリス)
「Sommerabend(邦題は『過ぎ去りし夏の幻影』」は、ドイツのバンドNovalis(ノヴァリス)が1976年に発表した3rdアルバム。タイトルの「Sommerabend」は英語にすると「Summer Evening」、つまり「夏の夕暮れ」。
ドイツのプログレッシヴ・ロックというとTangerine Dream(タンジェリン・ドリーム)やKraftwerk(クラフトワーク)などのシンセサイザー系なイメージが強かった当時、その詩情豊かな音楽性に 圧倒された覚えがある、まさにドイツ・シンフォニックロックの名作。
バンド名の「Novalis」は、18世紀〜 19世紀にかけて活動したドイツ・ロマン主義の詩人・小説家であるNovalis(本名フリードリヒ・フォン・ハルデンベルク Friedrich von Hardenbergのペンネーム)から取ったとされる。“Novalis” という言葉はラテン語で“新開墾地”を意味するという。
Detlef Job:ギター、ボーカル
Lutz Rahn:キーボード
Heino Schünzel:ベース、ボーカル
Hartwig Biereichel:ドラムス
アルバムは全3曲という大作で占められる。しかし仰々しさやテクニカルな派手さはなく、むしろ堅実な演奏と魅力的なメロディー、そして自然な曲展開で、聴く者をまさに“夏の日の夕暮れ時”へと誘ってくれる。
何と言っても曲が良い。そして楽器のバランスがいいのだ。キーボードも派手なオーケストレーションはしないし、ギターも弾き倒すわけでもない。アンディー・ ラティマーとピーター・バーデンスがいた頃のCamel(キャメル)のように、サウンドの絶妙なバランスの上に情感豊かな世界が広がっていく。
しかし例えばCamelが名作「Snow Goose(スノーグース)」で表現した、物語に沿った人物やその心情の見事な描写とは異なり、このアルバムでは、夏の夕暮れという自然の時間と空間から 生まれる切ない心情が表現されているのだ。それは昼間の暑苦しい太陽が沈んで、祭の後のようなちょっとした寂しさと、けだるいく物憂い夜の始まり。様々な記憶が浮かんでは消えていくような時間だ。
さらにこのアルバムでノヴァリスは、避暑地で静かに日が暮れ行くのを 見つめているような、情景を演出している。ボートをこぐオールが軋むような音、カエルの鳴き声、波が打ち寄せる水音。それらとバンドの、決して音数は多くな い演奏が見事に解け合い、遠い記憶を呼び覚まされるかのようだ。
とは言ってもいわゆる環境音楽とかヒーリング・ ミュージック的なものではなく、しっかりと“ロック”しているところがまた魅力である。美しいメロディー、ドイツ語による実直なボーカル、タイトなリズ ム、そして時にハードロック的に疾走する展開。つまり、“間”の取り方や音のバランス感覚が優れているんだろうと思うのだ。ここには、詰め込み過ぎないこ とで生まれる、聴き手の感情を引き出す力がある。
元来プログレッシヴ・ロックというのは、こうしたある種の“非日常 的”な世界を見せてくれる音楽であった。超絶テクニカルプレイだとか、壮大なオーケストレーションだとか、泣きのギターだとかは、そのための手段に過ぎな かったはずなのだ。それが今やヘタをするそれ自体が目的になったかのような音楽が“プログレッシヴ・ロック”になってしまった。
メ ンバー全員が超絶テクニシャンであるとか、シンフォニックであるとか、クラシックとの融合であるとか、「ハケット風ギター」であるとかいう前に、そこに別 の世界を垣間見せてくれる音楽的魅力があるかどうか。一聴すると特別革新的なことも目新しいこともないように思われるこのこのアルバムには、そんなことま で考えさせられる強い“音楽の力”を持っている。
感情を抑え気味に歌うギター、 静かに爪弾かれるアコースティックギター、メロトロンよりもストリングス・アンサンブル主体にオルガン、シンセサイザー、エレクトリックピアノなど多彩ながら的確に使い分けられるキーボード。そしてドラムの締まった音がまた良いのだ。
ある種のあか抜けなさというか生真面目さが、熟達し洗練することで逆に失ってしまう大事なものを残してくれている感じ。そういった点では、タイプはまったく違うけれどイタリアの「Le Orme(レ・オルメ)」の魅力に通じるものがある。
これだけの映像喚起力のある作品はちょっと他にはないんじゃないだろうか。聴くほどに世界が開けていく、ジャーマン・プログレッシヴ・ロックの名作中の名作。
ちなみに日本でも日が沈む「黄昏時(たそがれどき)」は別名「逢魔が時(おうまがどき)」と呼ばれて、魔物に出会う一種不思議な時間帯とされていた。夕暮れ(abend)はようの東西を問わず、何か不思議で特別な時間帯なのかもしれない。その美しくも神秘的な雰囲気が、このアルバムにもある。
なおサウンドに見事にマッチしたジャケットの絵は、アルバムにはLord's Gallery, Londonとしか書かれていないが、アメリカの画家・イラストレーターであるMaxfield Parrish(マックスフィールド・パリッシュ:1870-1966)の作品。「Scribner's」というイラスト雑誌の表紙に使われた「森の少女」(1900)。