原題:Mauro Pagani
Mauro Pagani(マウロ・パガーニ)
「地中海の伝説」(原題は「Mauro Pagani」)は、イタリア最高のバンドの一つPFM(Premiata Forneria Marconi)のオリジナル・メンバーであったマウロ・パガーニの1stソロアルバムである。
Mauro Pagani(マウロ・パガーニ)
「地中海の伝説」(原題は「Mauro Pagani」)は、イタリア最高のバンドの一つPFM(Premiata Forneria Marconi)のオリジナル・メンバーであったマウロ・パガーニの1stソロアルバムである。
フルートとヴァイオリンを 担当し、PFMが繊細さと大胆さを併せ持っていた初期の頃には、クラシカルで牧歌的なサウンド作りに大きく貢献。「Cook」や「Chocolate Kings」では、よりジャズロック的なテクニカルなプレイを披露し、常にPFMのイタリアらしさを担い続けていた存在であった。
特にライヴアルバム「Cook」におけるPFM屈指の名演「Alta Loma Five Till Nine」での、叙情さを残した鬼気迫るヴァイオリン・インプロヴィゼーションは凄まじいの一言。
その彼が1975 年の「Chocolate Kings」発表後に脱退、2年の期間をおいて1978年に発表したのが本アルバムである。
Mauro Pagani:ヴァイオリン、ヴィオラ、ブズーキ、マンドリン、
リード・フルート(葦笛)
<参加ミュージシャン>
Mario Arcari:オーボエ
Walter Calloni:パーカッション
Giulo Capiozzo:ドラムス
Patrizio Fariselli:ピアノ
Pasquale Minieri:パーカッション
Ares Tavolazzi:エレクトリック・ベース
Giorgio Vivaldi:パーカッション、トーキング・ドラム
Teresa de Sio:ヴォイス
Roberto Colombo:ポリムーグ
Franz Di Cioccio:ドラムス
Patrick Djivas:エレクトリック・ベース
Franco Mussida:ギター
Demetrio Stratos:ヴォイス
Luca Balbo: ギター
最初に聴いた時は、とにかくアコースティックで民族音楽的な要素の大きさにびっくりした記憶がある。PFMが持っていたクラシカル・ロック、あるいはジャ ズ・ロック的な音とは目指しているものが決定的に違う。それはある意味、ポピュラリティーを得ることとは正反対な、音楽的な深みに向って進んでいるような、極めて真摯な音だった。
そしてこのアルバムが凄いところは、実は地中海周辺の民族音楽のアコースティックな魅力を大きく取込みながらも、それをロックと見事に融合させているところである。参加ミュージシャンもそうそうたる顔ぶれで、 キーボードのPremoliを除くPFMのメンバー全員、そしてAreaの全メンバー。Demetrio Stratosの超個性的なヴォイスも聴ける。
こうしたメンバーの参加を得て作られた音は、 Teresaという女性歌手(後にポップス歌手として成功、逆にマウロ・パガーニがアルバムでサポートすることもあった)の地声を活かした歌唱法や、過剰に音処理されたヴァイオリン・ソロ、Area風変拍子ナンバーなど、雑多な要素を含みながら、極めて静謐な空間を作り上げている。アコースティック色が強いにも拘らず、民族音楽的緩やかさに加え、どの曲にも音そのものにこだわった高いテンションが宿っている。
マウロ・ パガーニは各曲でヴァイオリン、フルート、ブズーキなどをプレイするが、前面に出るわけではなく、あくまで 他の楽器、他のメンバーと一緒に、この世界を作り上げている。しかしどの楽器のプレイも非常に高度で魅力的だ。結果的に見事に全体をトータルなマウロ・パ ガーニ色に染めている。
わたしが何より魅入られてしまったのは、彼のアコー スティック・ヴァイオリンのプレイである。恐ろしく切れのあるプレイ。テクニカルに弾きまくるでもなく、雄大な調べを奏でるでもない。しかし込められた集中力が並でない。PFM時代のインプロヴィゼーショ ンとは違った意味で、鬼気迫るプレイなのだ。
PFMのメンバー とAreaのメンバーが参加していると聞くと、叙情とテン ションと実験性に溢れたドラマチックな音楽を連想するかもしれない。しかしそれはある意味裏切られる。その代わり、その両バンドとも違った、さらにはイタリア的な甘美なメロディー、クラシカルな楽曲、情熱的なボーカルなどの特徴とも一線を画した、非常に豊穣な音楽に触れることができる。
「ミュージシャンでありつづけるということは、ある意味でたくさんの生き方があるが、私にとってPFM時代は、恐らく100%の可能性のうち、たった1% しか発揮出来なかったように思う。そのため、本来の自分を取り戻すのに2年という歳月が必要だった…。」
(1979年発売の邦盤LPのライナーノートより)
その言葉通りに見事に新しい世界を切り開き、PFM時代には発揮し切れなかったマウロ・パガーニの魅力を縦横に詰め込んだ、イタリアン・ロックにおける唯一無二な傑作中の傑作。