キング・クリムゾン(King Crimson)
プログレッシヴ・ロックを代表するイギリスのバンドで、キング・クリムゾン(King Crimson)が、衝撃的なデビュー作にして永遠の名作「In the Court of Crimson King(クリムゾン・キングの宮殿)」に続いて、1970年に発表した2ndアルバム。
Robert Fripp:ギター、メロトロン、デバイス
Greg Lake:ボーカル
Michael Giles:ドラムス
Peter Giles:ベース
Keith Tippett:ピアノ
Mel Collins:サックス&フルート
Gorden Haskell:ボーカル
Peter Sinfield:作詞
メンバーは上記の通り大所帯だが、これはパーマネントなものではなく、むしろフリップ(Fripp)とシンフィールド(Sinfield)を核にしたプロジェクト的な状況だった。1stアルバムの中心人物であったイアン・マクドナルド(Ian McDonald:フルート、サックス、クラリネット、キーボード、メロトロン、ボーカル)はマイケル・ジャイルズ(Michael Gile)とともに脱退し、McDonald&Giles(マクドナルド&ジャイルズ)を結成、アルバム制作を行なおうとしていたし、グレッグ・レイク(Greg Lake)も脱退しEL&P(エマーソン、レイク&パーマー)結成に向けて動いていた。
つまりここでのメンバーは、フリップがまさにこのアルバムのためにだけ再び集めた、元メンバーの集合体だったのである。
しかしだからと言ってこのアルバムが中途半端なものであるとか、プレイに精彩を欠くいうことでは全くない。むしろフリップがその強靭な統制力で、イアン・マクドナルド抜きで1stに匹敵するような、重厚でさらにフリーフォームな広がりを持った作品を作り上げたと言える。
LPではA面にあたる最初の3曲は、まさに1stを意図的になぞるかのような曲が並ぶ。ギターとサックスが荒々しいヘヴィーな1曲目。途中でリズムチェンジするところまで似ている。フルートが美しいフォーキーな2曲目。ゴードン・ハスケル(Gordon Haskell)のつぶやくようなボーカルとメル・コリンズ(Mel Collins)のフルートが印象的だ。そしてメロトロンが唸りグレッグの渾身の絶唱が光るシンフォニックな3曲目。
それはまるでフリップが、イアンの力に負いながら奇跡のように「出来てしまった」アルバムである1stを、今度は自分の力で「意識的に作る」作業を試みたかのようである。それはちょうど「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」の関係のように。
2ndでは「Peace」という曲をアルバムの最初(ボーカル)、中間部(アコースティックギターのみ)、最後(ボーカル)に持ってきて、全体のトータル性を高めている。またタイトルの海神Poseidon(ポセイドン)に合わせて、アルバムジャケットのインナーデザインは水面のようなブルーを基調としたものになっているし、タイトル曲「ポセイドンのめざめ」でのメロトロンの響きは、深い海の神秘的な姿を思い起こさずにはいられない。
さらに新たにジャズピアニストであったキース・ティペット(Keith Tippett)の奔放なピアノが、演奏全体にフリーフォームな雰囲気を与えているのも大きな特徴だ。「ポセイドンのめざめ」で、メロトロンが鳴り響きグレッグが歌う中、フリップがコード弾きでもソロ弾きでもなく、思うがままにアコースティックギターを爪弾くような部分にも、それは聴いて取ることができるだろう。
さらにインストゥルメンタル大作「デヴィルズ・トライアングル」では、ホルストの「惑星」の中の「火星」からのメインメロディーから始まって、やがて各プレーヤーバラバラの演奏に、コラージュ風に様々な音が重ねられるという、コスモス(cosmos)からケイオス(chaos)へ至るような展開を見せる。そこで鳴り響くメロトロンも、ストリングスだけでなくブラスやフルートまで使われ、1stに比べ非常に荒々しく暴力的である。そして一瞬1stの「クリムゾン・キングの宮殿」の印象的なメロディーが響く。それはまるでリプライズのようだ。
そうなのだ。この2ndアルバムは1stを敢えて踏襲し、乗り越えようとした作品なのではないかと思う。そして意図的に前半の構成を似せたのは、1stと2ndで一つの作品としようという意図があったのではないか。2ndの前半は言わば1stの変奏曲である。そして全体のラストを飾るのが、壮大で実験的な大作「デヴィルズ・トライアングル」であり、「クリムゾン・キングの宮殿」のメロディーは、1stから繋がるトータルな流れの中でのリプライズなのではないだろうか。
残念ながらアルバム単体で見た時には、2ndは1stを越えることは出来なかったと言えるかもしれない。個人的には「21st Century Schizoid Man」の、ねじれるようなギターソロや、「Epitaph」で聴けるGreg Lakeのアコースティック・ギターなど、記憶に残るソロプレイに欠ける点が惜しい。
しかし各メンバーはまさにプロジェクト状態とは思えないほどに、全力を叩き付けるようなプレイを聴かせてくれるし、これ以上ないほどの美しいメロトロン(「ポセイドンのめざめ」の間奏部)と凶暴で圧倒的なメロトロン(「デヴィルズ・トライアングル」)の両方を聴くことができる希有な作品。
1stと比較され、その影に隠れがちであるけれど、紛れもなくKing Crimsonにしか作り得なかった傑作。
ちなみに邦題の「ポセイドンのめざめ」は「wake(目覚める)」から勘違いしたと思われる誤訳。「in the wake of ...」で「...の跡を追って」という慣用句なので、タイトルは「海神ポセイドンの跡を追いて」というような意味。あるいは「海神ポセイドン出現の後に」 とも取れるかもしれない。
プログレッシヴ・ロックを代表するイギリスのバンドで、キング・クリムゾン(King Crimson)が、衝撃的なデビュー作にして永遠の名作「In the Court of Crimson King(クリムゾン・キングの宮殿)」に続いて、1970年に発表した2ndアルバム。
Robert Fripp:ギター、メロトロン、デバイス
Greg Lake:ボーカル
Michael Giles:ドラムス
Peter Giles:ベース
Keith Tippett:ピアノ
Mel Collins:サックス&フルート
Gorden Haskell:ボーカル
Peter Sinfield:作詞
メンバーは上記の通り大所帯だが、これはパーマネントなものではなく、むしろフリップ(Fripp)とシンフィールド(Sinfield)を核にしたプロジェクト的な状況だった。1stアルバムの中心人物であったイアン・マクドナルド(Ian McDonald:フルート、サックス、クラリネット、キーボード、メロトロン、ボーカル)はマイケル・ジャイルズ(Michael Gile)とともに脱退し、McDonald&Giles(マクドナルド&ジャイルズ)を結成、アルバム制作を行なおうとしていたし、グレッグ・レイク(Greg Lake)も脱退しEL&P(エマーソン、レイク&パーマー)結成に向けて動いていた。
つまりここでのメンバーは、フリップがまさにこのアルバムのためにだけ再び集めた、元メンバーの集合体だったのである。
しかしだからと言ってこのアルバムが中途半端なものであるとか、プレイに精彩を欠くいうことでは全くない。むしろフリップがその強靭な統制力で、イアン・マクドナルド抜きで1stに匹敵するような、重厚でさらにフリーフォームな広がりを持った作品を作り上げたと言える。
LPではA面にあたる最初の3曲は、まさに1stを意図的になぞるかのような曲が並ぶ。ギターとサックスが荒々しいヘヴィーな1曲目。途中でリズムチェンジするところまで似ている。フルートが美しいフォーキーな2曲目。ゴードン・ハスケル(Gordon Haskell)のつぶやくようなボーカルとメル・コリンズ(Mel Collins)のフルートが印象的だ。そしてメロトロンが唸りグレッグの渾身の絶唱が光るシンフォニックな3曲目。
それはまるでフリップが、イアンの力に負いながら奇跡のように「出来てしまった」アルバムである1stを、今度は自分の力で「意識的に作る」作業を試みたかのようである。それはちょうど「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」の関係のように。
2ndでは「Peace」という曲をアルバムの最初(ボーカル)、中間部(アコースティックギターのみ)、最後(ボーカル)に持ってきて、全体のトータル性を高めている。またタイトルの海神Poseidon(ポセイドン)に合わせて、アルバムジャケットのインナーデザインは水面のようなブルーを基調としたものになっているし、タイトル曲「ポセイドンのめざめ」でのメロトロンの響きは、深い海の神秘的な姿を思い起こさずにはいられない。
さらに新たにジャズピアニストであったキース・ティペット(Keith Tippett)の奔放なピアノが、演奏全体にフリーフォームな雰囲気を与えているのも大きな特徴だ。「ポセイドンのめざめ」で、メロトロンが鳴り響きグレッグが歌う中、フリップがコード弾きでもソロ弾きでもなく、思うがままにアコースティックギターを爪弾くような部分にも、それは聴いて取ることができるだろう。
さらにインストゥルメンタル大作「デヴィルズ・トライアングル」では、ホルストの「惑星」の中の「火星」からのメインメロディーから始まって、やがて各プレーヤーバラバラの演奏に、コラージュ風に様々な音が重ねられるという、コスモス(cosmos)からケイオス(chaos)へ至るような展開を見せる。そこで鳴り響くメロトロンも、ストリングスだけでなくブラスやフルートまで使われ、1stに比べ非常に荒々しく暴力的である。そして一瞬1stの「クリムゾン・キングの宮殿」の印象的なメロディーが響く。それはまるでリプライズのようだ。
そうなのだ。この2ndアルバムは1stを敢えて踏襲し、乗り越えようとした作品なのではないかと思う。そして意図的に前半の構成を似せたのは、1stと2ndで一つの作品としようという意図があったのではないか。2ndの前半は言わば1stの変奏曲である。そして全体のラストを飾るのが、壮大で実験的な大作「デヴィルズ・トライアングル」であり、「クリムゾン・キングの宮殿」のメロディーは、1stから繋がるトータルな流れの中でのリプライズなのではないだろうか。
残念ながらアルバム単体で見た時には、2ndは1stを越えることは出来なかったと言えるかもしれない。個人的には「21st Century Schizoid Man」の、ねじれるようなギターソロや、「Epitaph」で聴けるGreg Lakeのアコースティック・ギターなど、記憶に残るソロプレイに欠ける点が惜しい。
しかし各メンバーはまさにプロジェクト状態とは思えないほどに、全力を叩き付けるようなプレイを聴かせてくれるし、これ以上ないほどの美しいメロトロン(「ポセイドンのめざめ」の間奏部)と凶暴で圧倒的なメロトロン(「デヴィルズ・トライアングル」)の両方を聴くことができる希有な作品。
1stと比較され、その影に隠れがちであるけれど、紛れもなくKing Crimsonにしか作り得なかった傑作。
ちなみに邦題の「ポセイドンのめざめ」は「wake(目覚める)」から勘違いしたと思われる誤訳。「in the wake of ...」で「...の跡を追って」という慣用句なので、タイトルは「海神ポセイドンの跡を追いて」というような意味。あるいは「海神ポセイドン出現の後に」 とも取れるかもしれない。