「Halloween」(邦題は「ハロウィーン」)はフランスのバンドPulsar(ピュルサー、パルサー)が1977年に発表した3rdアルバムである。
前作「The Strands of the Future」(邦題は「ストランズ・オブ・ザ・フューチャー/終着の浜辺」では、フランス語のボーカル、くぐもったシンセサイザー、渦巻くようなギターなどによる浮遊感のあるPulsar独特の異次元的な音世界を作り上げた。そうしたSF的世界という点では前作に軍配が上がる。
しかし2ndで完成させた特徴も残しながら、テーマを人間の内面に持ってきた本作は、前作と異なるベクトルを持った内省的な深みのある作品となっている。
Jacques Roman:キーボード、シンセサイザー、メロトロン、特殊効果
Gilbert Gandil:エレクトリック&アコースティックギター、ボーカル
Victor Bosch:ドラムス、パーカッション
Roland Richard:フルート、クラリネット、アコースティックピアノ
Michel Masson:ベース
[ゲストミュージシャン]
Xavier Dubuc:コンガ
Sylvia Ekström:冒頭曲のスキャット・ボイス
Jean-Louis Rebut:ラスト曲のソロボーカル
Jean Ristori:チェロ
冒頭、ピアノ伴奏により清らかなボーイ・ソプラノがスキャットで歌う「ハロウィーンの歌」。このメロディーはイギリス民謡だが、アメリカでは「ダニー・ボー イ」として有名な曲。「ぼのぼの」の映画「クモモの木のこと」にも使われていた味わい深い曲だ。そしてまさにこの曲の暗さ、悲しさ、憂い、美しさを壊すこ となく、アルバムでは「Halloween part 1」「Halloween part 2」という大曲が展開されていくのである。
スキャットが終わった瞬間からメロトロン・フルートのゆったりした物悲しいメロディーが始まる。聴く者を深く内側へ引込んで行くようなメロトロン・フルートのハーモニー。
しかし同時にシンセサイザーが通奏低音のようにボトムでなり続けている。メロトロンが静かにコードチェンジする時に、地の底から頭をもたげてくるかのよう に、そのシンセサイザーがベースパートとして全体のハーモニーを構成していることがわかる瞬間がいい。この音響空間はまさしくPulsarならではだ。
さらにメロトロン・フルートによる主題を、次に生のフルートが繰り返す。この展開もゾクゾクする。バックで鳴っているのはソリーナ系のストリングス・アンサンブル。このフルートも良く歌っていて引込まれる。曲構成と楽器の使い方が見事だ。
歌詞も英語、リズム陣も音がクリアになり、SF的効果音はかなり控えめ。それでもこの作品はPulsarを代表するアルバムと言ってよい。
1977年という 年代ながら、太く妖しさを残したシンセサイザーの魅力あふれる音色、突然入ってくるストリングス系キーボードやパーカッションの異質感、そして耳に残るアコースティック・ギターの美しさ。
レコーディングの際に、直前までジョン・マクラフリンが使っていたアコースティック・アルバム用のセッティングが残っていたそうで、粒立ちの良い理想的な音が活かされている。
英語の発音はややアヤシイところもあるが、声質が全体の重苦しい雰囲気にマッチしているために違和感はない。リズムが疾走しギターやキーボードが弾きまくるパートもあるのだが、動と静のパートが自然に繋がり、おしなべて重苦しく物悲しいのが本作の最大の魅力。
当初は「フランスのPink Floyd」 と呼ばれていたこともあるようだが、初期の作品はともかくも本作においてはサウンド的には似てはいない。もっと構築的でシンフォニック。しかし音の使い方、こだわり方はPink Floyd並と言ってもいいかもしれない。
少ない音数を絶妙に配置し、ビブラフォン、パーカッション、チェロ、フルート、クラリネットなども加え、場面転換のサウンド・イフェクトも効果的に挿み、聴き手の心の動きを自然に導いていく流れは秀逸。だから「part 2」のボーカル・パートで聴かれるハーモニーもとても新鮮に響く。
その「part 2」のボーカル・パートで、やっと「暗」から「明」へと、暗闇に光が射したかのような後に、力強いドラムの乱打とテープの逆回転のような音が入り、一気に 妖しく渦巻く疾走パートへなだれ込んでいく。アルバムはその後の終章「Time」で、神聖な雰囲気を持ちつつ静かに終わるが、聞き終えた時の重苦しさと妖 しい美しさ、心地よさは聴き手の中で後を引く。
技巧的に突出しているわけでもないし、エモーショナルなソロがあるわけでも、劇的な展開が待っているわけでもない。丁寧に音を積み重ね、良いメロディーと端正な演奏と、緻密なサウンド構成で、これほどまでに深い世界を築き上げることができた、音楽の魔力を感じさせる1枚。
その音世界に入り込めないと変化の乏しい凡庸な作品に聴こえてしまうかもしれないが、入り込めると迷宮をさまようような快感に浸れる作品。個人的には超傑作です。
ちなみにpulsarとは「脈動星:秒またはミリ秒の短い周期で電波を放射する電波天体で、強い磁場をもち、自転する中性子星」を指すとのこと。
前作「The Strands of the Future」(邦題は「ストランズ・オブ・ザ・フューチャー/終着の浜辺」では、フランス語のボーカル、くぐもったシンセサイザー、渦巻くようなギターなどによる浮遊感のあるPulsar独特の異次元的な音世界を作り上げた。そうしたSF的世界という点では前作に軍配が上がる。
しかし2ndで完成させた特徴も残しながら、テーマを人間の内面に持ってきた本作は、前作と異なるベクトルを持った内省的な深みのある作品となっている。
Jacques Roman:キーボード、シンセサイザー、メロトロン、特殊効果
Gilbert Gandil:エレクトリック&アコースティックギター、ボーカル
Victor Bosch:ドラムス、パーカッション
Roland Richard:フルート、クラリネット、アコースティックピアノ
Michel Masson:ベース
[ゲストミュージシャン]
Xavier Dubuc:コンガ
Sylvia Ekström:冒頭曲のスキャット・ボイス
Jean-Louis Rebut:ラスト曲のソロボーカル
Jean Ristori:チェロ
冒頭、ピアノ伴奏により清らかなボーイ・ソプラノがスキャットで歌う「ハロウィーンの歌」。このメロディーはイギリス民謡だが、アメリカでは「ダニー・ボー イ」として有名な曲。「ぼのぼの」の映画「クモモの木のこと」にも使われていた味わい深い曲だ。そしてまさにこの曲の暗さ、悲しさ、憂い、美しさを壊すこ となく、アルバムでは「Halloween part 1」「Halloween part 2」という大曲が展開されていくのである。
スキャットが終わった瞬間からメロトロン・フルートのゆったりした物悲しいメロディーが始まる。聴く者を深く内側へ引込んで行くようなメロトロン・フルートのハーモニー。
しかし同時にシンセサイザーが通奏低音のようにボトムでなり続けている。メロトロンが静かにコードチェンジする時に、地の底から頭をもたげてくるかのよう に、そのシンセサイザーがベースパートとして全体のハーモニーを構成していることがわかる瞬間がいい。この音響空間はまさしくPulsarならではだ。
さらにメロトロン・フルートによる主題を、次に生のフルートが繰り返す。この展開もゾクゾクする。バックで鳴っているのはソリーナ系のストリングス・アンサンブル。このフルートも良く歌っていて引込まれる。曲構成と楽器の使い方が見事だ。
歌詞も英語、リズム陣も音がクリアになり、SF的効果音はかなり控えめ。それでもこの作品はPulsarを代表するアルバムと言ってよい。
1977年という 年代ながら、太く妖しさを残したシンセサイザーの魅力あふれる音色、突然入ってくるストリングス系キーボードやパーカッションの異質感、そして耳に残るアコースティック・ギターの美しさ。
レコーディングの際に、直前までジョン・マクラフリンが使っていたアコースティック・アルバム用のセッティングが残っていたそうで、粒立ちの良い理想的な音が活かされている。
英語の発音はややアヤシイところもあるが、声質が全体の重苦しい雰囲気にマッチしているために違和感はない。リズムが疾走しギターやキーボードが弾きまくるパートもあるのだが、動と静のパートが自然に繋がり、おしなべて重苦しく物悲しいのが本作の最大の魅力。
当初は「フランスのPink Floyd」 と呼ばれていたこともあるようだが、初期の作品はともかくも本作においてはサウンド的には似てはいない。もっと構築的でシンフォニック。しかし音の使い方、こだわり方はPink Floyd並と言ってもいいかもしれない。
少ない音数を絶妙に配置し、ビブラフォン、パーカッション、チェロ、フルート、クラリネットなども加え、場面転換のサウンド・イフェクトも効果的に挿み、聴き手の心の動きを自然に導いていく流れは秀逸。だから「part 2」のボーカル・パートで聴かれるハーモニーもとても新鮮に響く。
その「part 2」のボーカル・パートで、やっと「暗」から「明」へと、暗闇に光が射したかのような後に、力強いドラムの乱打とテープの逆回転のような音が入り、一気に 妖しく渦巻く疾走パートへなだれ込んでいく。アルバムはその後の終章「Time」で、神聖な雰囲気を持ちつつ静かに終わるが、聞き終えた時の重苦しさと妖 しい美しさ、心地よさは聴き手の中で後を引く。
技巧的に突出しているわけでもないし、エモーショナルなソロがあるわけでも、劇的な展開が待っているわけでもない。丁寧に音を積み重ね、良いメロディーと端正な演奏と、緻密なサウンド構成で、これほどまでに深い世界を築き上げることができた、音楽の魔力を感じさせる1枚。
その音世界に入り込めないと変化の乏しい凡庸な作品に聴こえてしまうかもしれないが、入り込めると迷宮をさまようような快感に浸れる作品。個人的には超傑作です。
ちなみにpulsarとは「脈動星:秒またはミリ秒の短い周期で電波を放射する電波天体で、強い磁場をもち、自転する中性子星」を指すとのこと。