Jon Anderson(ジョン・アンダーソン)
「Olias of Sunhillow」(邦題は「サンヒローのオリアス」)はYes(イエス)のボーカリストJon Anderson(ジョン・アンダーソン)が1976年に作り上げたファースト・ソロアルバムである。
この時期YesはキーボードにPatrick Moraz(パトリック・モラーツ)を迎え壮絶な世界を作り上げた「Relayer」を発表し一段落、各メンバーが次々とソロ作を発表していた時期だ。
そしてまさに最後にトリを飾るように発表されたのが、このYesの顔とも言うべきJonのソロアルバムであった。アルバムはJonが作り上げたSF的な物語 に沿ったコンセプトアルバムであるが、Yesの歌詞さながらに抽象的、観念的な物語なので、逆にそこに神話的神秘さを感じさせる、壮大な音絵巻となった。
アルバムにサポートメンバーのクレジットは無く、「music written and performed by Jon Anderson」とあるだけなので、基本的には彼1人が20種類以上の楽器を使い作り上げたものだと言われる。実際音的にもバンド的な演奏というより は、彼の唯一無二な声を活かした、フォーキーなメロディーにシンフォニックな色づけをした感じで、演奏技術の高さでテンションの高い世界を作り上げていく Yesとは異なっている。
そういう点ではやはりと言うか当然と言うか、彼の声あってのYesを再確認できるとともに、彼の声だけではYesにならないという、当たり前の印象を強く持ったのを覚えている。
しかしさすがにその声は美しく、さらに複雑に組み合わさった多重録音によるハーモニーの素晴らしさはYesで「もっと彼の声を聴きたい」という思いを満たしてくれるものだった。
物語の大筋は次のようなものだ。
オリアス、ランヤート、コクヤクという3人の飛行者が「ゲダの庭」に集まる。 サンヒローという場所には4つの部族が住んでいたが、サンヒローの地が危機に瀕していたことを知り、3人は人々を救うべく集まったのだ。
ランヤートとオリアスは「ムアグレード」という船を作り上げる。4つの部族は始めはバラバラだったが、コクアクの歌によって一つのハーモニーを作ることがで きるようなり、心を一つにしてムアグレードに乗り込む。そしてムアグレードが旅立った時、凄まじい音とともにサンヒローは大爆発してしまう。
旅を続けるうちに部族の者たちが不安と恐れから「ムーン・ラ」と叫び始め、混乱が広がり始める。しかし崩壊寸前にオリアスが愛の歌を歌い始め、人々の苦痛を消し去ってしまう。
最終的に人々は一つの意志、一つの魂となり、宇宙と一つになっていく。仕事を終えた3人は山に登り、星を見ながら太陽に向って漂い始めるのであった。
わたしはどことなくイタリアのLe Orme(レ・オルメ)の「Felona e Sorona(フェローナとソローナの伝説」を思い出してしまうのだが、「Felona e Sorona」が悲劇的な最後を迎えるのとは異なり、音楽、愛によって宇宙という高次元の存在へと一体化する物語は、Yesに通じるプラス志向の物語であ り、神話的スケールを感じさせるJonワールドである。
最初聴くと意外とボーカルが普通に聴こえてしまうのだが、良く聴くと非常に多くの声を重ね、厚みのあるハーモニーが随所に出てくる。
Yes的世界を持ちつつJonのボーカルの魅力を詰め込んだ点では、その後のソロアルバムにはない特別な作品だと言える。
Yes的世界を持ちつつJonのボーカルの魅力を詰め込んだ点では、その後のソロアルバムにはない特別な作品だと言える。
ちなみにLPで豪華に描かれたイラストレーションはDave Roeというアーティストによるもの。Roger Deanに似ているが、緻密な描写はぜひLPサイズで味わいたい。