2009/12/09

「太陽と戦慄」キング・クリムゾン

原題:Larks' Tongues in Aspic(1973年)

King Crimson(キング・クリムゾン)


Larks' Tongues in Aspic」(邦題は「太陽と戦慄」)はKing Crimson(キング・クリムゾン)の1973年の作品。

ギターのRobert Fripp(ロバート・フリップ)を核としながら、目まぐるしくメンバーチェンジを繰り返しながらも、1969年の鮮烈なデビューから4作目の 「Island(アイランド)」まで、作詞&照明担当として常に活動を共にしていたPeter Shinfield(ピート・シンフィールド)ともついに袂を分かち、Robert以外のメンバーを一新して再スタートを切った記念碑的作品だ。

   David Cross:ヴァイリン、ヴィオラ、メロトロン
   Robert Fripp:ギター、メロトロン
   John Wetton:ベース、ボーカル
   Bill Bruford:ドラムス
   Jamie Muir:パーカッション、もろもろ混ぜ合わせ(allsorts)

全6曲中、ボーカル曲3曲を挿む形で、アルバムの最初と最後に強烈なインストゥルメンタル・ナンバーが配置されているという構成。メンバーにヴァイオリニストとパーカッショニストが加わるという変則的な編成が、すでにインストゥルメンタル重視を物語っている。

作詞はJohn Wettonの旧友で一時期Supertrump(スーパートランプ)に籍を置いていたRichard Palmer James(リチャード・パーマー・ジェイムズ)が担当した。歌詞も含めてそれまでの詩的、幻想的な面は消え去り、よりパーカッシヴで扇情的なインストゥ ルメンタルパートと、美しく引き締まったボーカル曲による、新しい世界が築かれたのであった。


当 時人気絶頂だったYes(イエス)からやって来たBillのタイトなドラミングとJohnの力強いベースの上に、独特の緊張感をはらむRobertのギター が絡み付き、繊細なDavidのヴァイオリンが美しさを加える。そしてJamie Muirの異様なパーカッションの嵐が全体を包み込む。

その後の「Starless and Bible Black(暗黒の世界)」や「Red(レッド)」を生み出す新世界の扉を開いた作品だが、特にこのアルバムの持つ大きな特徴は2つ。

1つはDavidのヴァイオリンが、インストゥルメンタル曲でもボーカル曲でも、かなりの比重で活躍していること。彼のプレイはピッチが不安定なのだが、はかなくも美しい世界を描き出す。

もう一つはこの一作のみで脱退するJamie Muirのパーカッション。派手なプレイでもテクニカルなプレイでもない。呪術的な世界と予測不能な緊張感を曲にもたらす野性的なプレイ。その音色の多様 さと、音の強弱の振幅の広さは、元々テクニカルで攻撃的なプレイヤーでないDavidのヴァイオリンともマッチし、大胆さと繊細さを兼ね備えたアルバムを 生むことに繋がっている。

余談だけれど、Jamie Muirの多彩なパーカッションの存在が、鉄壁のリズムと荒々しいギターとは異質な、繊細で演奏も危ういDavidのヴァイオリンを上手く結びつけていた んだろうと思う。DavidはThe Mahavishunu Orchestra(マハヴィシュヌ・オーケストラ)のJerry Goodman(ジェリー・グッドマン)とは全く異なったプレーヤーなのだ。このアルバムにはそんな、静かに耳を傾けたくなる瞬間が、あちこちに散りばめ られている。

しかしJamie Muirが脱退することで、バンドは急速に自信に満ちたメタリックな音へと向っていく。Davidのヴァイオリンはその力強さに対抗することはできなかった。そしてすでに次作からヴァイオリンの出番は少なくなる。

そういう点からも、5人のメンバーが均等に力と個性をぶつけ合い、手探りで新しい音楽を作り出そうとする意気込みが結実したこのアルバムは、以降の圧倒的な パワーが炸裂するアルバムとは一線を画し、微妙な均衡を保ちながら独特な輝きを持っていると1枚と言える。もちろん傑作。