原題:The Enid Hammersmith Odeon
Friday 2nd March 1979
The Enid(エニド/イーニッド)
今回は特別にDVDの紹介である。
エニド(The Enid:正式な発音は“ズィ・イーニッド”)は1976年というパンク・ロックが雄叫びを上げた年にレコード・デビューした。
Friday 2nd March 1979
The Enid(エニド/イーニッド)
今回は特別にDVDの紹介である。
エニド(The Enid:正式な発音は“ズィ・イーニッド”)は1976年というパンク・ロックが雄叫びを上げた年にレコード・デビューした。
いわゆるプログレッシヴ・ロックのビッグバンド達は、最高傑作となる作品を発表した後に、解散あるいは迷走し始めた時期であり、パンク・ロック・ムーヴメン トからはその複雑で長大で思わせぶりな楽曲が絶好の批判の的となっていた時期。
しかしエニドだけは違った。本国イギリスで「パンクを聴いている若者もエニドのコンサートには行っていた」と言われるほど、今プログレッシヴ・ロックと一括りにされるバンドの中では別格であり、カルト的な人気を誇ったバンドだったのだ。
このDVD「ハマースミス1979」は、そんなエニドの絶頂期、初期の傑作3枚の3枚目「Touch Me(タッチ・ミー)」のレコード発売記念ツアーから、ロンドンのロックの殿堂、ハマースミス・オデオンでの貴重なライヴ映像である。ハマースミス・オデ オンは、スタンディングで5,000人、シートで3600人という大きなライブ会場である。しかし客席も映されるがスタンディングで満杯状態。
その音楽はまさに6人のミュージシャンによるロック・シンフォニー。80年代以降の再録や新作にはない、分厚く繊細なアナログキーボードの波と、情感豊かなギターの音色、そしてパーカッションやオーボエ、トランペットなどが自然に溶け込んだロマンティックでダイナミックなクラシカル・ロック。唯一無二な音楽である。
このハマースミス・オデオンのライヴはライヴCD化されており、日本でも「ライヴ・アット・ハマースミス vol.1」と「同 vol.2」として紙ジャケットで2006年に発売された。
CDは1997年3月3日のライヴ・ステージを完全収録したもの。しかし今回のDVDパッケージの表には3月2日(金)に収録されたものと書かれている。日付が正しければ内容も別物ということになる。以前 YouTubeに一部がアップされていて度肝を抜かれたが、これはその完全版である。
Robert John Godfrey:キーボード
William Gilmour:キーボード
Francis Lickerish:ギター
Stephen Stewart:ギター、パーカッション、キーボード
David Storey:ドラムス、パーカッション
Terry Pack:ベース
Tony Freer:オーボエ、キーボード
Tonyはアルバム「Touch Me」では「Special Thanks」とゲスト扱いであったので、ここでもツアー用ゲストメンバーなのかもしれない。しかし美しいオーボエが見事にエニドのサウンドにマッチし、 さらにキーボード、パーカッションと大活躍する。
さて、何よりもエニドがライヴであの緻密で表情豊かなインストゥル メンタル楽曲を、キーボードをどう駆使して再現するのかに興味津々だったのだが、これが見ていて震えるほど素晴らしかったのだ。というよりスゴいと言った 方がいいかもしれない。
ステージは中央にベースのTerry、その左右にFrancis とStephenの二人のギタリストが並ぶ。その左手にドラムのDavid、逆側右手にキーボードが山のように2列に詰まれ、その間の通路にRobert とWilliamがいるという配置だ。ステージ後方には「Touch Me」のジャケットの3本指を示した手のアートワークとアンプの山!
中央にギタリストが二人いるが、決して派手なアクションはない。しかし思いのほかノリノリでプレイするので地味ながら、やっぱりエニドはロックだなぁと思ってしまう。
そして驚愕のキーボード・プレイ。なんとプレーヤーによって楽器を分けるなどということをしていないの だ。つまり二人が一体となって、“通路”の両側にセッティングされたキーボードを前後左右に動きながら弾く。時に連弾のように、時に素早く担当楽器をスイッチしながら。それはもうそれ自体でマジックである。4本の手が交錯する。このような演奏方法は他のバンドでは見たことがない。
それはまるで一流シェフの厨房のようだ。絶妙なタイミングで作業を交代し、弾いているそばから別の手が音色を変化させ、あうんの呼吸で二人が流れるように動きながら、キーボード群を操って美しいキーボードアンサンブルを紡ぎ出して いく。それもリズムに乗ってカラダを揺らせながら。
そしてあの繊細でダイナミックなシンセサイザー・オーケストレー ションが作られていくのだ。極めてアナログな職人技的世界。
さらに圧巻なのは中盤からオーボエのTonyもキーボー ドに加わり、3人が入り乱れてのプレイ。さらにさらに、名曲「Fand」後半のスローに盛り上がっていく叙情的なパートでは、ギタリストのStephen Stewartも加わって、4人によるコンビネーションプレイ。意外にもメインメロディーを、そのStephenが弾いていたりしてビックリ。
残念ながら「Touch Me」ツアーながら肝心の「Touch Me」収録の大作「Albion Fair」は“technical reasons(技術的な問題)”で収録されていないのが惜しいが、それ以外はほぼフルステージ収録という、内容的には大満足な1枚である。
ジェントル・ジャイアント(Gentle Giant)のライヴDVDも凄かったが、それとは違った凄さを感じたライヴDVDであった。バンドサイトあるいは Garden Shedで購入可能である。