イギリス最強プログレッシヴ・ロックバンドの一つYesの、10年ぶりのニューアルバムが発売された。
出入りの激しいメンバー交替を続けながらも精力的に活動を続けていたYesであるが、メンバーの年齢的にもバンドとしての創作意欲の面でも、かつての輝きはもはや取り戻せないのかという印象が少なからずあった。
しかし、その表看板と言えるボーカルのジョン・アンダーソンの体調不良による不参加すら乗り越えて、全曲新曲というまさに奇跡の新譜を届けてくれたのである。
Chris Squire:ベース、ボーカル
Steve Howe:ギター、ボーカル
Alan White:ドラムス
Geoff Downes:キーボード
Benoît David:リード・ボーカル
“全曲新曲”と言っても、実はほとんど1980年発表の「ドラマ(Drama)」期に作られたものが元になっている。この時もジョン・アンダーソンがいない、いわゆるバグルズ(トレヴァー・ホーン&ジェフ・ダウンズ)合体Yes期である。
確かに曲調は「ドラマ」の曲に似ている。そういう意味ではYesのアルバムの中では、メンバー的にも「ドラマ」の続編的なサウンドと言えなくもない。
ところがそのサウンドから受ける印象は「ドラマ」のものとも違うのである。その大きな要因はやはり新加入のリード・ボーカリスト、ベノワ・デイヴィッドによるところが大きいと思うのだ。
「ドラマ」はYesの歴史の中では異色作である。唯一ボーカルがジョン・アンダーソンではない。今回の作品で全面的にプロデュースを行なったトレヴァー・ホー ンが代役を努めている。しかし私的には紛れもなくYesのアルバムであり、それも傑作アルバムである。それはトレヴァーがジョンの世界を壊さないようにし ながら、新しいポップ感覚を持ち込み、もともと持っていたロック的躍動感を取り戻すことに成功していたからだ。
その躍動感や緊張感は、プログレッシヴ・ロックへの批判や否定が強まった当時、インストゥルメンタル・パートの縮小とともにイエスの音楽がジョンのソロアルバム化していく流れを、一瞬断ち切った爽快感だったとも言える。
Yesはそもそも超個性派集団である。そのメンバーが自己主張をぶつけ合うことで、独特の複雑なのにノリの良い音世界が築かれていた。しかし時代的・年齢的な面からそのバランスが崩れ、音楽はジョンのソロアルバムにメンバーがバックバンドとして参加しているような感じになってしまっていた。ジョンのカリスマ的存在感だけは衰えを見せなかったからだ。
その結果新曲はジョン主導、旧曲は往時の勢いは失われ、どこまで近い形で再現できるかが関心の的になることとなった。メンバーを入れ替えたりオーケストラと競演したりしても、基本的にそうした“懐メロ”バンド的な印象は、わたしの中ではぬぐえなかった。
新ボーカリスト、ベノワ・デイヴィッドはジョンほどの存在感はない。声や表現力、立ち居振る舞いにしても、ジョンにはどうしても劣ると言わざるを得ない。しかしである。彼のストレートな声の若々しさや未熟さそのものが魅力的なのだ。ジョン同様にノン・ビブラートで、さらにトレヴァーのようにちょっと高音が辛そうっていう感じを微塵も見せずに、全体の支配者ではなく、一人のリードボーカリストとして非常に爽やかに力強く歌う。一生懸命に歌う。これが良いのだ。
ジョンの呪縛からの解放。これがこのアルバムのキモである。
ジョンのカリスマ性が消え、バンドメンバーの現時点での力量に合ったバランスがここで築き直されたのだ。つまり現役バンドとして再生したのである。クリス・スクワイアもリードボーカルを取る。スティーヴ・ハウも、いつものソロともバックともつかないような演奏を流麗 に聴かせてくれる。今流行のギターやキーボードの超絶ソロなどはない。むしろ全員が一丸となって、Yes的な前向きでカッコイイ音楽を、楽しみながら作り 出している感じがするのだ。
この新鮮さや躍動感は1976年の焼き直しではない、確かに今の音であると共に、 1970年代のロックが持っていた多様性を含む音でもある。あるいはプログレッシヴ・ロックというイメージの中で作られた音ではなく、プログレッシヴ・ ロック世界を広げてきたバンドによる自由な音である。
メンバーのプレイが激突する名作期のYesを期待しても、「ドラマ」の再現を期待しても、肩すかしを食うことになるだろうし、ジョンの声あってこそYesだというのであれば、評価は自ずと厳しいものになるだろう。
しかしそうした思い入れとは別に、このアルバムは現在のYesの魅力を伝えてくれているのだ。力強いメロディー、美しいハーモニー、ドラマチックな楽曲。バンドの歴史が持つ存在感と新鮮さが絶妙に共存している。傑作である。今のわたしのヘビーローテーション・アルバムだ。
ちなみに「Fly From Here」で一瞬リードボーカルを取るのは、トレヴァー・ホーンか?「ドラマ」でジョンの代役という難しい役目をこなした彼が、Yesで再び歌うなんて、なんか感無量な感じである。
追記:ボーナストラックとして入っている「Hour Of Need」(Full Length Version)は、スティーヴ・ハウのエレキギターソロが最初と最後に入り、曲の長さも倍以上の大作になっている。本編収録ヴァージョンより遥かにシンフォニックでドラマチックな曲になっている。掟破りで、わたしは本編と差し替えてこのヴァージョンを9曲目に入れて聴いている。
出入りの激しいメンバー交替を続けながらも精力的に活動を続けていたYesであるが、メンバーの年齢的にもバンドとしての創作意欲の面でも、かつての輝きはもはや取り戻せないのかという印象が少なからずあった。
しかし、その表看板と言えるボーカルのジョン・アンダーソンの体調不良による不参加すら乗り越えて、全曲新曲というまさに奇跡の新譜を届けてくれたのである。
Chris Squire:ベース、ボーカル
Steve Howe:ギター、ボーカル
Alan White:ドラムス
Geoff Downes:キーボード
Benoît David:リード・ボーカル
“全曲新曲”と言っても、実はほとんど1980年発表の「ドラマ(Drama)」期に作られたものが元になっている。この時もジョン・アンダーソンがいない、いわゆるバグルズ(トレヴァー・ホーン&ジェフ・ダウンズ)合体Yes期である。
確かに曲調は「ドラマ」の曲に似ている。そういう意味ではYesのアルバムの中では、メンバー的にも「ドラマ」の続編的なサウンドと言えなくもない。
ところがそのサウンドから受ける印象は「ドラマ」のものとも違うのである。その大きな要因はやはり新加入のリード・ボーカリスト、ベノワ・デイヴィッドによるところが大きいと思うのだ。
「ドラマ」はYesの歴史の中では異色作である。唯一ボーカルがジョン・アンダーソンではない。今回の作品で全面的にプロデュースを行なったトレヴァー・ホー ンが代役を努めている。しかし私的には紛れもなくYesのアルバムであり、それも傑作アルバムである。それはトレヴァーがジョンの世界を壊さないようにし ながら、新しいポップ感覚を持ち込み、もともと持っていたロック的躍動感を取り戻すことに成功していたからだ。
その躍動感や緊張感は、プログレッシヴ・ロックへの批判や否定が強まった当時、インストゥルメンタル・パートの縮小とともにイエスの音楽がジョンのソロアルバム化していく流れを、一瞬断ち切った爽快感だったとも言える。
Yesはそもそも超個性派集団である。そのメンバーが自己主張をぶつけ合うことで、独特の複雑なのにノリの良い音世界が築かれていた。しかし時代的・年齢的な面からそのバランスが崩れ、音楽はジョンのソロアルバムにメンバーがバックバンドとして参加しているような感じになってしまっていた。ジョンのカリスマ的存在感だけは衰えを見せなかったからだ。
その結果新曲はジョン主導、旧曲は往時の勢いは失われ、どこまで近い形で再現できるかが関心の的になることとなった。メンバーを入れ替えたりオーケストラと競演したりしても、基本的にそうした“懐メロ”バンド的な印象は、わたしの中ではぬぐえなかった。
新ボーカリスト、ベノワ・デイヴィッドはジョンほどの存在感はない。声や表現力、立ち居振る舞いにしても、ジョンにはどうしても劣ると言わざるを得ない。しかしである。彼のストレートな声の若々しさや未熟さそのものが魅力的なのだ。ジョン同様にノン・ビブラートで、さらにトレヴァーのようにちょっと高音が辛そうっていう感じを微塵も見せずに、全体の支配者ではなく、一人のリードボーカリストとして非常に爽やかに力強く歌う。一生懸命に歌う。これが良いのだ。
ジョンの呪縛からの解放。これがこのアルバムのキモである。
ジョンのカリスマ性が消え、バンドメンバーの現時点での力量に合ったバランスがここで築き直されたのだ。つまり現役バンドとして再生したのである。クリス・スクワイアもリードボーカルを取る。スティーヴ・ハウも、いつものソロともバックともつかないような演奏を流麗 に聴かせてくれる。今流行のギターやキーボードの超絶ソロなどはない。むしろ全員が一丸となって、Yes的な前向きでカッコイイ音楽を、楽しみながら作り 出している感じがするのだ。
この新鮮さや躍動感は1976年の焼き直しではない、確かに今の音であると共に、 1970年代のロックが持っていた多様性を含む音でもある。あるいはプログレッシヴ・ロックというイメージの中で作られた音ではなく、プログレッシヴ・ ロック世界を広げてきたバンドによる自由な音である。
メンバーのプレイが激突する名作期のYesを期待しても、「ドラマ」の再現を期待しても、肩すかしを食うことになるだろうし、ジョンの声あってこそYesだというのであれば、評価は自ずと厳しいものになるだろう。
しかしそうした思い入れとは別に、このアルバムは現在のYesの魅力を伝えてくれているのだ。力強いメロディー、美しいハーモニー、ドラマチックな楽曲。バンドの歴史が持つ存在感と新鮮さが絶妙に共存している。傑作である。今のわたしのヘビーローテーション・アルバムだ。
ちなみに「Fly From Here」で一瞬リードボーカルを取るのは、トレヴァー・ホーンか?「ドラマ」でジョンの代役という難しい役目をこなした彼が、Yesで再び歌うなんて、なんか感無量な感じである。
追記:ボーナストラックとして入っている「Hour Of Need」(Full Length Version)は、スティーヴ・ハウのエレキギターソロが最初と最後に入り、曲の長さも倍以上の大作になっている。本編収録ヴァージョンより遥かにシンフォニックでドラマチックな曲になっている。掟破りで、わたしは本編と差し替えてこのヴァージョンを9曲目に入れて聴いている。