■Garden Shed(1977)
England
Englandは1977年という、プログレッシヴ・ロックのブームが次第にパンク&ニューウェーヴに飲み込まれようとしていた頃に登場したバンドである。Aristaレーベル唯一と言えるプログレ・バンドでありながら、満足なプロモーションはされず「Aristaのマーケティング担当者は、アルバムが発売される週には揃って休暇を取ってどこかに行っていたんだ。」という有様であったという(Robert Webb インタビューより)。
King Crimsonはすでに1974年に解散している。1977年という年には、Yesは「Going for the One(究極)」を、Genesisは「Wind & Wuthering(静寂の嵐)」、そしてEL & Pは「Works Volume I(ELP四部作)」を、さらにPink Floydは「Animals」発表したが、いずれも悪いアルバムではないものの、従来の冒険に満ちた姿勢や刺激的な音は消え、その後のポップな路線に向う転換点となったアルバムである。
しかしそれまでシーンを強力に牽引していたバンドに翳りが見えて履いたものの、Camelの「Rain Dances(雨のシルエット)」が1977年、UKのデビューアルバム「UK(憂国の四士)」が1978年、The Enidの名作「Aerie Faerie Nonsense」が1977年、Illusionの「Out of Mist(醒めた炎)」が1977年など、まだまだ力のあるバンドが音楽シーンと格闘しながら魅力的な作品を出している時期であった。
Englandはそこに登場したのである。それまでの活動を縮小/変更したのではなく、まさにその時期のプログレシーンにダイレクトに向けた音を携えて。
Martin Henderson - Bass, Vocals
Franc Holland - Guitars, Vocals
Jode Leich - Percussion, Bass, Vocals
Robert Webb - Keyboards, Vocals
左からRobert Webb, Martin Henderson, Jode Leigh, Frank Holland
UKはパンクへの挑戦という姿勢で、ジョン・ウェットンのポップな感覚を強めながらも、強烈なテクニックと変拍子満載の複雑な楽曲で対抗しようとした。しかしEnglandはハナからパンクなどのシーンには興味がなかったかのように思えるのだ。唯一のアルバムとなったこの「Garden Shed」を聴くと、自分たちが聴いてきたバンドやそのサウンドが、好きで好きでたまらないという思いが伝わってくる。
指摘され易いのはYesとGenesisの影響である。甲高いスネアが特徴のドラムスは一聴するとBill Brufordを思い出させるし(プレイは実は似ていない)、高音でハモルとYesに近づく。叙情的なギター&キーボードやちょっと演劇的なボーカルは確かにGenesis的である。
確かに最初はその部分に違和感や拒否感を感じるかもしれないが、次第に「僕らはこういうバンドが好きで、こういう音楽をやりたいんだ」という強い主張として微笑ましく聴けてしまうのだ。それは何よりも曲がモノマネや寄せ集め的なものではなく、非常に良く出来ていて魅力的なことによる。
スネアの音が個性的なドラムスもプレイはいたって堅実で、細かく展開して行く曲を上手く引き締めているし、ボーカルも良く聴けばポップソングにも向いている甘い声である。そしてメロトロンの劇的な使い方も含めて、曲構成が聴き手を飽きさせないのだ。メロディーも、キャッチーでありながらドラマチックな演奏と違和感なく溶け合っているところが素晴らしい。
そこには1970年代前半の活動でやり尽くした後の、次なる展開を探る迷いもなければ、やりたい事をやり続けるのか“ポップ化”して時代を乗り切るのかというジレンマもなく、また時代に抵抗しようという気負いもない。ただ1970年代前半のシーンへの愛と、そういう音楽を奏でたいという強い思いと、時代がどうであれ自分たちはそれで良いんだという自信が感じられるのである。
それを可能にしているのはやはりそういう思いや姿勢を曲に反映させられるだけの作曲センスと、突出しているプレーヤーはいないけれど、堅実に美しいアンサンブルを聴かせてくれる、各メンバーの技量なんだと思う。
まさに“愛すべき作品”という言葉がぴったりな傑作である。