2010年8月24日火曜日

「アクワイアリング・ザ・テイスト」ジェントル・ジャイアント

原題:Acquiring the Taste(1971年)

ジェントル・ジャイアント(Gentle Giant)

「アクワイアリング・ザ・テイスト(Acquiring the Taste)」はイギリスのロックバンドの中でも異彩を放ち続けクオリティーの高い作品を出し続けた希有なバンドGentle Giant(ジェントル・ジャイアント)の2ndアルバムである。

まさにその後の方向性を決定づける記念碑的なアルバムであるし、有名な

「It is our goal to expand the frontiers of contemporary popular music at the risk of being unpopular.(現代のポピュラーミュージックの境界を、ポピュラーミュージックとは呼べなくなる危険を冒しつつ押し広げることが、われわれの目指すところなのだ。)」

という文言がジャケットに記されている。

   Gary Green:6弦&12弦ギター、12弦ワウワウギター、
          ロバのあごの骨(キハーダquijadaという打楽器のことか)、
          ネコの鳴き声(をまねたヤジ)、声
   Kerry Minnear:エレクトリック・ピアノ、オルガン、
          メロトロン、ヴィブラフォン、ムーグ、ピアノ、チェレスタ、
          クラヴィコード、ハープシコード、ティンパニ、
          シロフォン(木琴)、マラカス、リードボーカル
   Derek Shulman:アルトサックス、クラヴィコード、カウベル、
          リードボーカル
   Phil Shulman:アルト&テナーサックス、クラリネット、トランペット、
          ピアノ、クラヴェス、マラカス、リードボーカル
   Ray Shulman:ベース、ヴァイオリン、ヴィオラ、
          エレクトリック・ヴァイオリン、スパニッシュ・ギター、
          タンバリン、12元ギター、オルガン・ベース・ペダル、
          頭蓋骨、ボーカル
   Martin Smith:ドラムス、タンバリン、ゴング、サイド・ドラム
 
<ゲスト>
   Paul Cosh:トランペット、オルガン
   Tony Visconti:リコーダー、バス・ドラム、トライアングル
   Chris Thomas:ムーグ・プログラミング
 
(ジャケットにクレジットがなかったので
メンバー及び担当楽器はWikipediaによる)

いつもながらに担当楽器の多彩さに圧倒されるが、ティンパニーやリコーダーなどのロック的ではない楽器が、同じ曲の中でロック的な楽器と違和感なく同居しているのがGentle Giantらしい。

4作目の「Octopus(オクトパス)」でドラムスがJohn Weathersに替わってから、リズムにパワフルなグルーヴが加わり、より洗練された緻密さと大胆さを兼ね備えたサウンドになっていくのだが、このアル バムではむしろ洗練される前の混沌とした薄暗さが大きな魅力となっている。
 
初めて導入されたというシンセサイザーの響きもウネウネと妖しい。全体的にミディアム/スローテンポな曲が多いこともあって、音とコーラスの迷宮に引きずり 込まれていくような独特の魔力を持つ。アレンジ面でもエコーが比較的強調されていることも、幻想性・幻惑性を高めている要因と言える。
 
多彩な楽器の使用法、曲展開、リズムチェンジ、コーラス・ワーク、全てが予想を裏切りつつ曲は進んでいくのに、聴いていると不自然さや無理矢理さがなく、むしろ音やハーモニーの美しさに耳を奪われる。

しかしそこに込められた音楽性の多彩さは、聴き込むほどに深みを増してくる。プログレッシヴ・ロックである以前に、ロックという音楽があらゆるジャンルを取り入れることが可能なミクスチャー・ミュージックとして存在していたことを思い知らされる感じだ。

まさにバンドが宣言するポピュラリティーと実験精神のせめぎ合いが、絶妙なバランスで1枚のアルバムとして結実している。「ポピュラーでない音楽になる危険 を冒してでも…」という意気込みが、Gentle Giantの作品群の中でも特異なミステリアスな雰囲気をこの作品にもたらしたのではないだろうか。

突出した個性的なプレーヤーや強烈な印象を残すソロプレイなどはない。だからこそ、そのサウンド・アンサンブルの暗闇へと知らず知らずに落ちていくのである。こんな強烈な音楽を演奏しながらスタープレーヤーがいないというところがGentle Giantの個性であり、他のバンドとは根本的に音の作り方やバンドの在り方が違っているように思うのだ。あらためて非常に不思議な、まさにプログレッシ ヴなバンドであることを感じさせられる1枚。

後期のロック色が増し、整然と複雑なことをやってのけるGentle Giantとも、楽器を取り替えながら観ているものを唖然とさせながら楽しそうに演奏するアクロバティックなGentle Giantとも違った魅力がここにはある。1971年の作品とは思えない、まったく古さを感じさせない初期の大傑作。
  
ちなみに「aquire the taste」は、「美味しさを堪能する」、あるいは「鑑賞力・審美眼を獲得する」というような意味かな。つまり「オレたちの音楽の奥深さが君たちにわかるかい?」っていう挑戦的・挑発的な含みのあるタイトルなのかもしれない。やっぱり自信と意気込みが違う。
 
 

2010年8月8日日曜日

「ウインドウズ」タイ・フォン

原題:Windows

タイ・フォン(Thai Phong)
 
ウィンドウズ(Windows)」はフランスのタイ・フォン(Tai Phong)が1976年に発表した2ndアルバム。約3週間で作り上げたと言われる傑作1stアルバム「恐るべき静寂(TAI PHONG)」の成功、特に「Sister Jane」のシングルヒットを受け、時間をかけて丁寧に作り込んだ見事な作品である。

   KHANH:ボーカル、ギター
   TAI:ボーカル、ベース、アコースティック・ギター、ムーグ
   J.J.GOLDMAN:ボーカル、ギター
   Jean-Alain GARDET:キーボード
   Stephan CAUSSARIEU:ドラムス、パーカッション

まず気づかされるのがタイトになったリズム。特にドラムスが全体に引き締まった演奏を聴かせる。そして重ねられた音が厚くなったこと。このあたりは1stに比べ、じっくり腰を据えてアルバム制作に取り組んだ成果ではないかと思う。

しかし本質的な魅力は微塵も変わらない。エレクトリック楽器とアコースティック楽器のバランスの良さ、甘く切ないメロディー、ハイトーンなボーカルを軸にした美しいハーモニー、泣きまくるギター。それらが一体となって夢見るような世界を描き出す。


メロディーが魅力的なのだが、安易にシングルヒットを狙ったような軽い曲は一曲も無い。切々と歌うボーカル、ドラマティックに胸に迫る音の波、そしてまたインス トゥルメンタル・パートの表現力の高さと、ボーカルとシームレスに繋がる曲の展開の妙。

ちょっと聴くと素朴な印象すら受けるけれど、聴き込むほどに見事にバラン スが取れた各楽器のコンビネーション。それも無理なく自然な流れ。

リズムがタイトになっても、音の厚みが増しても、決してテクニックに走ることもなく、「Sister Jane」のシングル・ヒットを受けても、決してポップスに日和ることも無い。そこにこのバンドの実力を見る思いがする。世界観とそこに向う思いが強固なのだ。

ドリーミーだがひ弱な音ではない。スタープレーヤーがいるタイプのバンドではない。華麗なソロで聴く者を圧倒させようという作風でもない。丁寧に丁寧に必要な音を重ねて、メンバー全員が作り上げた珠玉の作品。

CamelやPink FloydやGenesisなどが引き合いに出されやすいかもしれないけれど、実はそのどのバンドとも印象は異なる。それはメランコリック度が格段に高いことによるからと言えるかもしれない。

最終曲ではアルペジオをバックにアコースティック・ギターやドラムスがフリーフォームな演奏を繰り広げる。曲が終わると鳥の泣き声が響き渡る。おそらくメン バーが鳥の声を奏でる笛を全員で吹いているのだろう。一人が咳き込んで笑い声が響く。温かく幸せに満ちた雰囲気。まさに桃源郷に達した瞬間である。

1993年のCD付属のライナーノートによれば、Khanhは「Rock & Folk」誌のインタビューで次のように答えたという。

「我々はフランス人のグループではない。フランス出身のグループであり、イギリスのYes、イタリアのP.F.M.、ギリシャにおけるAphrodite's Child等と同じジャンルの音楽を演奏している。」

英語で歌いフランス的サウンドにこだわること無く、インターナショナルでプログレッシヴな音楽を求めていたことがわかるコメントだ。

そして出来上がったのは、一聴してのシンプルな印象とは異なり、他のどのバンドも到達できなかった緻密で甘美な究極の音。1stに劣らぬ傑作である。

タイ・フォンはその後3rdアルバムを出して解散。しかし2000年に突如アルバム「Sun」を発表。そして2010年現在も、ギター&ボーカルのKhanh Maiを中心に活動を行なっている模様である。