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2009/10/18

「アーサー王と円卓の騎士たち」リック・ウェイクマン

原題:Myths & Legends Of King Arthur & The Knights Of The Round Table (1975年)

Rick Wakeman(リック・ウェイクマン)


Myths & Legends Of King Arthur & The Knights Of The Round Table」(邦題は「アーサー王と円卓の騎士たち」)は、Yes全盛期のキーボード奏者Rick Wakeman(リック・ウェイクマン)のソロ3作目として1975年に発表されたアルバム。

ソロ1作目の「ヘンリー8世と6人の妻」は、かつてのバンド仲間であったStrawbs(ストローブス)や、当時在籍していたYesのメンバーの協力を得て、バンド形式のスリリングな内容であったが、2作目「地底探検」では一転、自身のバンドとともにオーケストラと合唱団を伴った壮大なスケールの音楽を、なんとライヴで作り上げた。

そしてこの3作目は「アーサー王」伝説をテーマに、2作目での試みをスタジオでじっくりと練り上げて完成させた、まさに渾身の1枚になった。

 <バンド>
  Ashley Hold:ボーカル
  Gary Pickford Hopkins:ボーカル
  Jeffery Crampton:リード&アコースティックギター
  Roger Newell:ベース・ギター
  Barney James:ドラムス

<競演>
  Teryy Taplin:ナレーション
  オーケストラ
  イングリッシュ・チェンバー・クワイア

当時、1作目の「ヘンリー8世」は歴史上の人物とは言え、作品の中心はその6人の妻を音楽的に表現するというものだったので、特別「ヘンリー8世」に興味を 抱いたりすることはなかった。2作目の「地底探検」は有名なSF小説としてすでに読んでいたので、あの奇想天外な物語がどんな音になるのかワクワクしたことを覚えている。

しかしこの3作目。何よりもまずわたしはこのアルバムで初めて「アーサー王」と彼に使えた精鋭の「円卓の騎士」たちの伝説というものが存在することを知ったのであった。中世初期の5世紀から6世紀頃のイギリス(当時のブリテン)の伝説的王であり英雄。そして数々のアーサー王物語。

海外の情報が少なかった当時、わたしはこのアルバムからイギリスには「アーサー王」という伝説上の英雄を持つ文化があるのだということを知った。現在の文化の違いではなく、過去に渡って違う文化と歴史を持っているということを、初めて実感したのだと思う。

そしてアルバムの音楽は、そんなわたしの興味と中世という未知なる過去のイメージを大いに刺激し膨らませてくれる、ドラマチックでロマンチックで、壮大なものだったのだ。

曲はアーサー王伝説の有名な場面を全7曲の中で表現している。「これを引き抜いたものは王となるであろう」と書かれた台座から剣を引き抜き、予言通りに王となるアーサー(「Arthur」)、彼を助ける魔法使いマーリン (「Merlin The Magician」)、アーサー王の妻ながら、円卓の騎士の1人サー・ランスロットと禁断の恋に落ちる王妃グィネヴィア(「Guinevere」)、そして誉れ高き最高の騎士であるランスロットの息子で聖杯の神秘を体験した騎士ギャラハド(「Sir Galahad」)、毒殺の汚名を着せられ命を奪われそうになったグィネヴィアを黒騎士となって救ったランスロット(「Sir Lancelot And The Black Night」)、そして最後の戦いで傷つき、台座から引き抜いた聖剣エクスカリバーを湖から現れた手に返し、アヴァロンの島へと傷を癒しに行くアーサー王(「The Last Battle」)。

音楽的にも多彩であり密度が濃い。そして重い。オーケストラと合唱団、そしてバンドの一体感も前作以上である。 間奏曲のように歌われる男性アカペラ合唱の低音部が凄い。これも当時、強烈なインパクトだった。

メロディーはクラシカルと言うよりはロマンティックな感じで、“ロックとクラシックの融合”というよりは、オーケストラと合唱団と綿密な共同作業の上に出来上がったスペクタクルなロックという感じ。

メロディーはわかりやすく、リック・ウェイクマンの弾く様々なキーボードは音楽の一部として溶け込んでいる。決して表立って弾き倒すような無茶なことや攻撃 的なプレーはしていない。あくまで優雅に華麗に、そして歌うようなアナログ・シンセサイザーがここでも聴くことができる。特に「Merlin The Magician」では珍しく、かなり低音のアナログ・シンセサイザー音を聴くことができる。

ただ、キーボードプレーヤーのソロアルバムとしては、思ったほどにキーボードがフロントで弾きまくらないので、期待するものと違う音かもしれない。しかし良 く聴くと様々な音色のキーボードが随所で活躍しており、あらためてリック・ウェイクマンという人は天才的バイ・プレーヤーだったのかという気がする。

逆にこのアルバムで聴けるこの独特で濃密な世界は、リックのロマンチシズムや音楽作りへのこだわりと、オーケストラや合唱団を見事にロックに溶け込ませたプロデューサー的才能を感じさせるものだ。

アルバム全体が醸し出す独特の世界観が見事である。これもまた傑作。


2009/08/02

「地底探検」

Journey to The Centre Of The Earth(1974年)

Rick Wakeman(リック・ウェイクマン)


Journey to The Centre Of The Earth」(邦題は「地底探検」)は、Yes のメンバーとして「Fragile(こわれもの)」と「Close to the Edge(危機)」という傑作を立て続けに出し、「Tales From Topographic Oceans(海洋地形学の物語」への不満からYes脱退に至る1974年発表のソロ第2作目。

1st ソロアルバムの「The Six Wives of Henry VIII(ヘンリー8世と6人の妻)」(1973年)が、バンド形式のコンパクトな編成で、Rick Wakeman(リック・ウェイクマン)の多彩なキーボードプレイを堪能できたのとは、全く違ったコンセプトで作られた大作。

ジュールベルヌのSF小説「地底探検」を元に、ストーリーに沿って音楽化したもの。ロック色の強い交響的物語だ。

Rickのキーボードは魅力的なソロを取るが、朗々と歌うメイン歌手のようで、役割としては全体の一部をなすに過ぎない。それでもRick Wakemanの作品と思えるほどに全体のRick色は強い。まさにカリスマ的な勢いを感じさせる作品。

 Rick Wakman:キーボード、作詞、作曲
<バックバンド>
 Mike Egan:ギター
 Ashley Holt:ボーカル
 Garry Hopkins:ボーカル
 Roger Newell:ベース
 Barney James:ドラムス

 David Hemmings:ナレーション
 ロンドン・シンフォニー・オーケストラ
 イングリッシュ・チェンバー・クワイアー(室内合唱団)

これだけの大所帯でのドラマティックなサウンドを、なんとロイヤル・フェスティバル・ホールでのライヴ録音というかたちで完成させたのだ。

プログレッシヴ・ロックの大仰さや冗長さが批判されることがある。ある意味、そういったターゲットになりやすい作品とも言える。なぜこんな豪華な顔ぶれを集める必要があったのか。あるいはなぜオリジナルストーリーではなく「地底探検」というSFを使う必要があったのか。

しかし音を聴けばそうした表面的な批判や疑問は吹っ飛んでしまうだろう。わたしはまずRick Wakemanのムーグの音にやられた。深く太く、他を圧倒する音で、甘美なメロディーを奏でたときのスゴさ。それはテクニックとかを通り越したキーボー ド体験、というかシンセサイザー体験であった。わたしは思った。「全てはこの雄大で神秘的な音を出すためだったんだ、きっと…。」

Rick のキーボードを主役にしながら、フロントに立つのはフルオーケストラだったり、合唱団だったり、そしてRickのサポートバンドであったりと、展開も目まぐるしく、それでもとても自然に各パートがつながっていく。もちろん所々に挿入されるナレーションも良い味を出しているし、物語の進行にも大きく役立って いる。

バンドメンバーもタイトな演奏を聴かせ、中でもツインボーカルがそれぞれ甘い声と固めの声という特徴を活かして、曲の緩急を上手く歌い分けて表現している。このボーカルも作品への貢献度が高い。

恐らくライブ録音ということもあり、かなりの緊張と意気込みを持って作品は作られたであろう。そのために多くの時間と労力が費やされたはずだ。このアルバムには表面的な華麗さ、豪華さの陰に、そうした本来異質な集団が一つのものを作り上げようとする情熱を感じる。

そのせいか、同じようにオーケストラや合唱団を使ったロックとクラシックの融合的作品の中では、異質さがそのままぶつかっているような、ザラついた感じが残っている。そこがいいのだ。

オーケストラを前にキーボードの要塞の中で長髪に銀色のマントを身にまとい、支配者のように全体を仕切りながら次々とメロディーを紡ぎ出す姿。それが決してコミカルでも時代錯誤でもなく、神秘さとして感じられるだけの存在感を、当時の彼は持っていた。この時期のRickだからこそ作れた希有な作品。「Battle」でのキーボードソロなんかもうたまりません。傑作。

当時ラジオを聴いていたら、日本の有名なキーボード奏者がこの作品への感想を聞かれて「できることなら1度で良いからやってみたいですよね」というような発言をしていたのを思い出す。キーボード奏者的な視点からみたら、演奏するのは気持ち良さそうだけれども作品としてはどうなのっていう感じだったのだろう。

このアルバムは確かにRick Wakemanのソロアルバムではあるけれど、キーボードプレイだけ聴いていたのではダメなのだ。全体のアンサンブルとして聴かないと面白みは伝わらない。その中で彼の音に酔う。絶妙な音色に酔う。これが聴き方だ。

おまけは、当時持っていた「地底旅行」(創元推理文庫)です。この作品を聴くといつも思い出してしまう表紙(右図)。これまたインパクト強し。

 

2009/06/29

「ヘンリー8世の6人の妻」

The Six Wives of Henry VIII (1973年)

Rick Wakeman(リック・ウェイクマン)


The Six Wives of Henry VIII」(邦題は「ヘンリー8世の6人の妻」)は、当時Yesのキーボード奏者だったRick Wakeman(リック・ウェイクマン)が1973年に発表したファースト・ソロアルバムである。ゲストとして元在籍していたStrawbs(ストローブス)やYesのメンバーが顔を揃え、バックをガッチリサポートした上で、Rickが様々なキーボード を縦横無尽に使ってクラシカルにして英国的な世界を描き出している。いわゆるバンド的な演奏だ。

Yesのバンド活動との関係で言えば「Close To The Edge」(1972年)と「Tales From Topographic Oceans(海洋地形学の物語)」(1973年)の間に作られた作品となる。

1972年のYesへの加入以後、、「Fragile(こわれもの)」(1972年)、「Close To The Edge(危機)」(1972年)という傑作アルバムへの多大な貢献度とステージでの派手なパフォーマンスから俄然注目を浴び、Yesとともに日の出の勢いであっ た時期の作品だ。

ヘンリー8世は16世紀前半の英国王。英国国教会を設立しローマ教会から独立したことでも有名。アルバムはこのヘンリー8世の8人の妻をタイトルとした、インストゥルメンタル中心の曲が8曲並ぶ。

「このアルバムはヘンリー8世の妻たちの、音楽的な性格を自分なりに解釈したものを基本としている。しかしながらそのスタイルは必ずしも個々の歴史に沿ったものではないかもしれない。これはキーボード楽器との関係で彼らの性格について私が個人的に考えたものなのだ。」

(アルバム・ジャケット内のコメントより)

音楽は気負ったところがなくストレートにRickのクラシカルな部分とヨーロッパ(特にイギリス)の歴史を感じさせる優雅で多彩な音色のキーボードを主体としたもので、ロマンティックさとドラマティクさが魅力。

テクニックでグイグイ押していくようなアルバムではなく、あくまで優雅に全体のアンサンブルの中で安定したキーボードプレイを聴かせていく。


当時はEL&PのKeith Emerson(キース・エマーソン)とどちらの方がテクニックが上かなどと比較されたりもした。

しかしこうして改めてRick Wakemanのソロを聴いてみると、もともとセッション・プレーヤーから出発したためか、強い自己主張とか新しいものを作り出していくような強烈な個性よりも、クラシックを基本にした確かなテクニックを元に、聴き易く心に残るメロディーや、ポルタメントを活かした厚みのあるムーグの音など、様々なキーボードの音色の絶妙な組み合わせが彼の本領かと思う。

その独特な装飾音の多い華麗な弾き方や、古風で優雅なメロディーの美しさ、時折挿まれるコミカルな雰囲気や、クラシックそのままのフレーズの挿入など、聴く者を飽きさせない。そういう点では非常によく構成された魅力的な曲が詰まった作品である。

そして、後のPatrick Morazのような自己主張の強さがない分、Yesの中で外見的に目立っていた(ライヴでは銀ラメのマントを羽織っていた)割りに、自己主張の強いメン バー全体をまとめる役として重要だったのかという気がする。あくまで弾くべきところでは華麗なソロを披露するが、その他の部分では出しゃばらずにきっちり 全体をサポートし、クラシカルな味付けをしつつ曲の厚みや曲の雄大さを広げていくという役割。

安心して聴くことが出来、余裕のある華麗な指さばきを堪能できる一枚。曲や構成のバランス感覚の良さがないと作れない、彼ならではの傑作。