2010年4月21日水曜日

「ハマースミス 1979(ライヴDVD)」エニド

原題:The Enid Hammersmith Odeon
             Friday 2nd March 1979

The Enid(エニド/イーニッド)
 
  
今回は特別にDVDの紹介である。

エニド(The Enid:正式な発音は“ズィ・イーニッド”)は1976年というパンク・ロックが雄叫びを上げた年にレコード・デビューした。
  
いわゆるプログレッシヴ・ロックのビッグバンド達は、最高傑作となる作品を発表した後に、解散あるいは迷走し始めた時期であり、パンク・ロック・ムーヴメン トからはその複雑で長大で思わせぶりな楽曲が絶好の批判の的となっていた時期。

しかしエニドだけは違った。本国イギリスで「パンクを聴いている若者もエニドのコンサートには行っていた」と言われるほど、今プログレッシヴ・ロックと一括りにされるバンドの中では別格であり、カルト的な人気を誇ったバンドだったのだ。

このDVD「ハマースミス1979」は、そんなエニドの絶頂期、初期の傑作3枚の3枚目「Touch Me(タッチ・ミー)」のレコード発売記念ツアーから、ロンドンのロックの殿堂、ハマースミス・オデオンでの貴重なライヴ映像である。ハマースミス・オデ オンは、スタンディングで5,000人、シートで3600人という大きなライブ会場である。しかし客席も映されるがスタンディングで満杯状態。

その音楽はまさに6人のミュージシャンによるロック・シンフォニー。80年代以降の再録や新作にはない、分厚く繊細なアナログキーボードの波と、情感豊かなギターの音色、そしてパーカッションやオーボエ、トランペットなどが自然に溶け込んだロマンティックでダイナミックなクラシカル・ロック。唯一無二な音楽である。 

このハマースミス・オデオンのライヴはライヴCD化されており、日本でも「ライヴ・アット・ハマースミス vol.1」と「同 vol.2」として紙ジャケットで2006年に発売された。

CDは1997年3月3日のライヴ・ステージを完全収録したもの。しかし今回のDVDパッケージの表には3月2日(金)に収録されたものと書かれている。日付が正しければ内容も別物ということになる。以前 YouTubeに一部がアップされていて度肝を抜かれたが、これはその完全版である。

   Robert John Godfrey:キーボード
   William Gilmour:キーボード
   Francis Lickerish:ギター
   Stephen Stewart:ギター、パーカッション、キーボード
   David Storey:ドラムス、パーカッション
   Terry Pack:ベース
   Tony Freer:オーボエ、キーボード

Tonyはアルバム「Touch Me」では「Special Thanks」とゲスト扱いであったので、ここでもツアー用ゲストメンバーなのかもしれない。しかし美しいオーボエが見事にエニドのサウンドにマッチし、 さらにキーボード、パーカッションと大活躍する。

さて、何よりもエニドがライヴであの緻密で表情豊かなインストゥル メンタル楽曲を、キーボードをどう駆使して再現するのかに興味津々だったのだが、これが見ていて震えるほど素晴らしかったのだ。というよりスゴいと言った 方がいいかもしれない。

ステージは中央にベースのTerry、その左右にFrancis とStephenの二人のギタリストが並ぶ。その左手にドラムのDavid、逆側右手にキーボードが山のように2列に詰まれ、その間の通路にRobert とWilliamがいるという配置だ。ステージ後方には「Touch Me」のジャケットの3本指を示した手のアートワークとアンプの山!

中央にギタリストが二人いるが、決して派手なアクションはない。しかし思いのほかノリノリでプレイするので地味ながら、やっぱりエニドはロックだなぁと思ってしまう。

そして驚愕のキーボード・プレイ。なんとプレーヤーによって楽器を分けるなどということをしていないの だ。つまり二人が一体となって、“通路”の両側にセッティングされたキーボードを前後左右に動きながら弾く。時に連弾のように、時に素早く担当楽器をスイッチしながら。それはもうそれ自体でマジックである。4本の手が交錯する。このような演奏方法は他のバンドでは見たことがない。

それはまるで一流シェフの厨房のようだ。絶妙なタイミングで作業を交代し、弾いているそばから別の手が音色を変化させ、あうんの呼吸で二人が流れるように動きながら、キーボード群を操って美しいキーボードアンサンブルを紡ぎ出して いく。それもリズムに乗ってカラダを揺らせながら。

そしてあの繊細でダイナミックなシンセサイザー・オーケストレー ションが作られていくのだ。極めてアナログな職人技的世界。

さらに圧巻なのは中盤からオーボエのTonyもキーボー ドに加わり、3人が入り乱れてのプレイ。さらにさらに、名曲「Fand」後半のスローに盛り上がっていく叙情的なパートでは、ギタリストのStephen Stewartも加わって、4人によるコンビネーションプレイ。意外にもメインメロディーを、そのStephenが弾いていたりしてビックリ。

残念ながら「Touch Me」ツアーながら肝心の「Touch Me」収録の大作「Albion Fair」は“technical reasons(技術的な問題)”で収録されていないのが惜しいが、それ以外はほぼフルステージ収録という、内容的には大満足な1枚である。

ジェントル・ジャイアント(Gentle Giant)のライヴDVDも凄かったが、それとは違った凄さを感じたライヴDVDであった。バンドサイトあるいは Garden Shedで購入可能である。

 

2010年4月4日日曜日

「スリーフレンズ」ジェントル・ジャイアント

原題:Three Friends(1972年)

Gentle Giant

Three Friends」(邦題は「スリーフレンズ」)はイギリスの超技巧派バンドGentle Giant(ジェントル・ジャイアント)が1972年に発表した3rdアルバム。
  
Gentle Giantはアルバムごとに完成度を増していったと言うよりは、King Crimsonのように最初からいきなり高水準なアルバムを出し続けた希有なバンドである。

現在の音楽シーンで“技巧派”=“テクニカル”と言えば、Dream Theater(ドリーム・シアター)的プログレ・メタルなものをイメージしてしまうが、Gentle Giantの技巧派ぶりはそれとは全く異なる。技巧=高速(早弾き)ではないのだ。

   Derek Shulman:ボーカル
   Ray Shulman:ベース、バイオリン、12弦ギター、ボーカル
   Phil Shulman:サックス、ボーカル
   Kerry Minnear:キーボード、ビブラフォン、パーカッション、
                             ムーグ、ボーカル
   Gary Green:ギター、パーカッション
   Malcolm Mortimore:ドラムス

Derek Shulman(デレク・シャルマン)に「ボーカル」しか書かれていないが、他のアルバムではサックスやリコーダーもこなす。Ray Shulmanはギターも一流だ。つまり多彩な楽器を操ることのできるマルチプレーヤー集団なのだ。さらに4人がボーカルを取れる。

そこでその技巧派ぶりは、その多彩な楽器が複雑に入り組んだ曲の構成や展開に現れる。リズムチェンジの多用、変拍子やクロスリズム、唐突な緩急や強弱、そしてグリークラブのように美しく、時に実験的なボーカルハーモニー。それでも基本的にノリを損ねないで、不思議なポップ感覚を保っているという驚くべき音楽。それがGentle Giant的技巧である。

その彼らが珍しくトータルコンセプトに基づいて作ったのが、この 「Three Friends」だ。前作「Acquiring the Taste」までのドラマーからMalcolm Mortimore(マルコム・モルティモア)に交替しているが、繊細で多彩な表現をさりげなく盛り込むドラミングが素晴らしい。一般的に次のアルバムか ら加入するドラマーJohn Weathers(ジョン・ウェザース)により、Gentle Giantサウンドはよりダイナミックさを増し、完成度がさらに高まったと言われる。

しかし2ndに比べトータルアルバムということからか、全体に曲が長めでメロディーが比較的ストレートな印象の強い本アルバムには、 Malcolmの技巧的なドラミングがとてもマッチしている。そういう独特なバランスの上に作られた「Three Friends」は、Gentle Giantの作品群の中でも、独特な魅力を持ったアルバムと言えるだろう。ちなみにアメリカでのデビューアルバムなので、アメリカ盤のジャケットは異なっていた(ファーストアルバムと同じ)。

コンセプトはタイトル通り3人の友だちの物語。仲の良かった学生時代と、それぞれが大人になって、道路工夫、画家、サラリーマンとして働くようになったことで、互いが理解できなくなるというシニカルな内容。

しかしそれを大仰に盛り上げるでもなく、心理を深く掘り下げるでもなく、淡々と複雑怪奇でありながらポップで美しいという、アクロバティックな曲展開で聴かせてしまうところがGentle Giantらしい。そして文字通りトータルイメージとして、そこはかとなく「人生」を感じさせてくれるのだ。

冒頭からメインメロディーを様々な楽器が絡み合いながら繰り返す。そこにKerry Minnear(ケニー・ミネア)の美しいボーカルが静かに入る。そして美しいハーモニー。しかしメロディー進行がすでに変である。どこに飛んでいくか分からない旋律。ボーカルがさらに面白みを見せてくれるのが2曲目。左右のスピーカーから一つのメロディーを二人で分けて歌っている。軽快なエレクトリック ピアノが動き回る。しかし中盤はメロトロンも登場し深く沈んでいくような暗さに覆われていく。

3曲目でパワフルな声の Derek Shulman(デレク・シャルマン)がリードボーカルとしてやっと登場。次作以降ドラムスがロック的なグルーヴを持ち込むことで、サウンドがパワフルになりDerekがボーカルを取ることが多くなる(特にライヴで)が、このアルバムではKerryを核とした美しい声とDerekの荒々しい声がうまく配置されている。

またオルガンソロ、ギターソロなど、凝りに凝ったアンサンブルが持ち味のGentle Giantにしては結構ソロプレイが聴けるのも本作の特徴。スタープレイヤーがいないため個人のプレーよりもアンサンブルに耳が行きがちだが、こうして聴くとソロも魅力的なのだ。

また最後の曲でキーボードが教会風の神聖な雰囲気を持ち込んで、美しいコーラスが響き渡るという、物語の終わりを思わせる流れも珍しい。もちろんギターは相変わらず複雑な動きをし、拍子もところどころ変拍子が入るという“らしさ”は最後まで消えることはない。

複雑なアンサンブルや不思議で唐突な展開を盛り込みながら、決して難解にも暗くもならず、ポップさやハードロック的なノリの良さを失わないというGentle Giantの、傑作群の中の1枚。