2011/07/02

「フライ・フロム・ヒア」イエス

原題:Fly From Here(2011)

■Yes(イエス)

 
イギリス最強プログレッシヴ・ロックバンドの一つYesの、10年ぶりのニューアルバムが発売された。

出入りの激しいメンバー交替を続けながらも精力的に活動を続けていたYesであるが、メンバーの年齢的にもバンドとしての創作意欲の面でも、かつての輝きはもはや取り戻せないのかという印象が少なからずあった。
 
しかし、その表看板と言えるボーカルのジョン・アンダーソンの体調不良による不参加すら乗り越えて、全曲新曲というまさに奇跡の新譜を届けてくれたのである。

 Chris Squire:ベース、ボーカル
 Steve Howe:ギター、ボーカル
 Alan White:ドラムス
 Geoff Downes:キーボード
 Benoît David:リード・ボーカル


“全曲新曲”と言っても、実はほとんど1980年発表の「ドラマ(Drama)」期に作られたものが元になっている。この時もジョン・アンダーソンがいない、いわゆるバグルズ(トレヴァー・ホーン&ジェフ・ダウンズ)合体Yes期である。

確かに曲調は「ドラマ」の曲に似ている。そういう意味ではYesのアルバムの中では、メンバー的にも「ドラマ」の続編的なサウンドと言えなくもない。

ところがそのサウンドから受ける印象は「ドラマ」のものとも違うのである。その大きな要因はやはり新加入のリード・ボーカリスト、ベノワ・デイヴィッドによるところが大きいと思うのだ。

「ドラマ」はYesの歴史の中では異色作である。唯一ボーカルがジョン・アンダーソンではない。今回の作品で全面的にプロデュースを行なったトレヴァー・ホー ンが代役を努めている。しかし私的には紛れもなくYesのアルバムであり、それも傑作アルバムである。それはトレヴァーがジョンの世界を壊さないようにし ながら、新しいポップ感覚を持ち込み、もともと持っていたロック的躍動感を取り戻すことに成功していたからだ。

その躍動感や緊張感は、プログレッシヴ・ロックへの批判や否定が強まった当時、インストゥルメンタル・パートの縮小とともにイエスの音楽がジョンのソロアルバム化していく流れを、一瞬断ち切った爽快感だったとも言える。

Yesはそもそも超個性派集団である。そのメンバーが自己主張をぶつけ合うことで、独特の複雑なのにノリの良い音世界が築かれていた。しかし時代的・年齢的な面からそのバランスが崩れ、音楽はジョンのソロアルバムにメンバーがバックバンドとして参加しているような感じになってしまっていた。ジョンのカリスマ的存在感だけは衰えを見せなかったからだ。

その結果新曲はジョン主導、旧曲は往時の勢いは失われ、どこまで近い形で再現できるかが関心の的になることとなった。メンバーを入れ替えたりオーケストラと競演したりしても、基本的にそうした“懐メロ”バンド的な印象は、わたしの中ではぬぐえなかった。

新ボーカリスト、ベノワ・デイヴィッドはジョンほどの存在感はない。声や表現力、立ち居振る舞いにしても、ジョンにはどうしても劣ると言わざるを得ない。しかしである。彼のストレートな声の若々しさや未熟さそのものが魅力的なのだ。ジョン同様にノン・ビブラートで、さらにトレヴァーのようにちょっと高音が辛そうっていう感じを微塵も見せずに、全体の支配者ではなく、一人のリードボーカリストとして非常に爽やかに力強く歌う。一生懸命に歌う。これが良いのだ。

ジョンの呪縛からの解放。これがこのアルバムのキモである。

ジョンのカリスマ性が消え、バンドメンバーの現時点での力量に合ったバランスがここで築き直されたのだ。つまり現役バンドとして再生したのである。クリス・スクワイアもリードボーカルを取る。スティーヴ・ハウも、いつものソロともバックともつかないような演奏を流麗 に聴かせてくれる。今流行のギターやキーボードの超絶ソロなどはない。むしろ全員が一丸となって、Yes的な前向きでカッコイイ音楽を、楽しみながら作り 出している感じがするのだ。

この新鮮さや躍動感は1976年の焼き直しではない、確かに今の音であると共に、 1970年代のロックが持っていた多様性を含む音でもある。あるいはプログレッシヴ・ロックというイメージの中で作られた音ではなく、プログレッシヴ・ ロック世界を広げてきたバンドによる自由な音である。

メンバーのプレイが激突する名作期のYesを期待しても、「ドラマ」の再現を期待しても、肩すかしを食うことになるだろうし、ジョンの声あってこそYesだというのであれば、評価は自ずと厳しいものになるだろう。

しかしそうした思い入れとは別に、このアルバムは現在のYesの魅力を伝えてくれているのだ。力強いメロディー、美しいハーモニー、ドラマチックな楽曲。バンドの歴史が持つ存在感と新鮮さが絶妙に共存している。傑作である。今のわたしのヘビーローテーション・アルバムだ。

ちなみに「Fly From Here」で一瞬リードボーカルを取るのは、トレヴァー・ホーンか?「ドラマ」でジョンの代役という難しい役目をこなした彼が、Yesで再び歌うなんて、なんか感無量な感じである。

追記:ボーナストラックとして入っている「Hour Of Need」(Full Length Version)は、スティーヴ・ハウのエレキギターソロが最初と最後に入り、曲の長さも倍以上の大作になっている。本編収録ヴァージョンより遥かにシンフォニックでドラマチックな曲になっている。掟破りで、わたしは本編と差し替えてこのヴァージョンを9曲目に入れて聴いている。

   

2011/05/16

「クラフト」クラフト

原題:CRAFT(1984)

■CRAFT(クラフト)

  
CRAFT」 はイギリスのプログレッシヴ・ロック・グループCRAFT(クラフト)唯一のアルバム。1970年代にThe Enid(エニド)に在籍していたキーボード奏者ウイリアム・ギルモアが中心になって、やはりThe Enidに参加していた経歴を持つベースのマーチン・ラッセルとともに結成したバンドで、内容は全曲インストゥルメンタルのシンフォニック・ロックだ。

1984年に発表されたものだが当時のプログレッシヴ・ロック・リバイバルとして出てきていたポンプロック的ジェネシス・クローンな音とも、Asiaのようなポップ化したプログレッシヴ・ロックとも異なる、70年代的雰囲気を持った音が特徴だ。

   William Gilmour:キーボード、カバーアート
   Grant Mckay Gilmour:ドラムス、パーカッション
   Martin Russell:ベース、キーボード

メンバーの担当楽器だけ見ると、EL&PやRefugeeのようなギターレスなキーボード・トリオということになるが、その音は全く異なる。まさにThe Enid直系な音である。

The Enidが1980年代に入って、ちょうど同時期に版権の関係から1970年代の初期作品の再録を行なうのだが、好き嫌いは別としてその音は、より洗練されより豪華に雄大になり、曲の尺も平均して長くなった。同時に1970年代のオリジナル・アルバムに感じられたアコースティックな感覚が持つ魅力が薄れてしまっていた。

アコースティックな感覚とは例えばアナログ・シンセの音だったり、打楽器やフルート、トランペット、オーボエといった生の楽器だったり、デジタル・プログラミングのない時代に、少ない音でいかに情感豊かな世界を描こうとしているかという努力や工夫や、思い入れの強さだったりするのだが、このCRAFTのアルバムはThe Enidの再録時の音に違和感を感じて、そうした1970年代の手作り感を取り戻そうとしているかのような音なのだ。

と言ってもThe Enidのクラシカルで複雑に入り組んだ楽曲とも違う。軽やかに、そして甘美に疾走するロック色の濃い音になっている。リズム隊が常にしっかりボトムを キープするため、The Enidの持つ異形さは薄れたが、シンフォニック・ロック的な部分がストレートに前面に出た感じであり、そういう意味ではThe Enidの音より聴き易くなったとも言える。
 
にも関わらずフュージョンやニュー・エイジ的な方向とも違う、イギリス然とした格調のようなものを保っているところが大きな魅力でもある。

各曲は決してテクニカルな演奏に傾くことなく、クラシカルに優雅に、そしてダイナミックに進んでいく。そしてここぞというところでエモーショナルなギターソロが入るのだ、ギタリストはいないのに。

アルバムのインナースリーブに書かれた説明によると、そのギターソロにあたる演奏は実はいわゆる普通の「ギター」によるものではなく、「ベースギター」の音にカスタム・ペダルによるエフェクター処理をかけることで、「ギター」の音を作り出しているとのこと。ベースで魅いたソロなのでテクニカルさとは無縁な大きく包み込むような叙情性が、曲調ととてもマッチしていて感動的ですらある。

1980年代的な軽やかさを取込みつつも、1970年代への強い思いが込められている点では、昨今のヴィンテージ楽器を多用した70年代回帰型バンドに近いとも言 える。時代の流れの中では流行とは無縁なある意味“無謀”な音楽だったろうけれど、そこがThe Enidゆずりの大きな魅力でもあるのだ。

The Enidが「Journey's End」で2010年に復活し、ウイリアム・ギルモアも音楽学校で教鞭をとりつつSecret GreenというThe Enid的なバンドを立ち上げている。ぜひ再評価したい傑作アルバムである。

なおアルバムは黄道12宮(twelve signs of Zodiac)の中の6つの星座名を曲タイトルとしている。当時は普通のLPとして売られていたが、収録時間35分弱ということもあり、今の感覚で言えばミニアルバムとなるだろうか。

残り6つの曲を含む2ndが出て初めて完結するアルバムであったのかもしれないが、残念ながらそれは果たされなかった。

 

2011/05/02

「イエスソングズ」イエス

原題:Yessongs(1973)

■Yes(イエス)

イギリスの孤高のバンドYesの6作目にして初のライブアルバム。1972年から1973年にかけてのツアーから、まさにバンドの絶頂期を記録した作品だ。

 ビル・ブラッフォード脱退、そしてアラン・ホワイト加入というバンド的には転機にあったに違いないのだが、そんなことは微塵も感じさせないLPではなんと3枚組という堂々たるボリューム。しかし予約段階で早々とゴールドディスク獲得。

当時の人気の凄さもさることながら、内容も素晴らしい。ライブでは再現不可能と思われていたアンサンブルを、寸分違わず、さらにパワーアップしてこなしていることに、このアルバムを聴いた誰もが驚いた。

 Jon Anderson:ボーカル
 Chris Squiere:ベース、ボーカル
 Steve Howe:ギター、ボーカル
 Rick Wakeman:キーボード
 Alan White:ドラムス
 Bill Bruford:ドラムス(2曲のみ)


ギターのスティーヴ・ハウが加入した3rdの「Yes Album(イエス・アルバム)、キーボードのリック・ウェイクマンが加入した4thの「Fragile(こわれもの)、そしてその“黄金のラインアップ”により前人未到の音世界に到達した「Close to the Edge(危機)」と、テクニック・楽曲のクオリティーとオリジナリティーが急速に登り詰めようとする時期のアルバムから、言わばベストと言って良い選曲。

加えてリック・ウェイクマンのアルバム「ヘンリー八世と六人の妻」からも選曲がされていて、良いアクセントになっている。キーボードに囲まれて銀色のマントを羽織って長髪をなびかせつつ弾く姿が目に浮かぶ。と言うか、彼やスティーブ・ハウのソロパフォーマンスは、すでにYesワールドに欠かせないものになっていたのだ。

こうしたメンバーによるソロパフォーマンス・コーナーは、PFMやKansasのライブアルバムでも聴けるけど、始めたのはYesだろう。ライブ構成上と言うより、自己主張の強さの現れじゃないかという気がするほど、それぞれ気合いの入ったケレン味たっぷりな演奏だ。

ライブアルバムとしてまず驚くべきは、なんと言ってもそのスタジオ作の再現性の高さである。複雑な楽曲を流れるように演奏していくだけではない。アルバムで聴ける繊細さが見事に残されているのだ。その上で、ライヴならではのドライブ感がや緊張感が加わっている。

その後各プレーヤーの演奏は一種のお家芸的な、お決まりなものとなっていくが、このアルバムでは確かなテクニックをギリギリまで駆使して繰り広げられる、必然性のあるプレイとして初々しくも熱いエネルギーを感じることが出来るのだ。

聴き所が多くて困ってしまうくらいだが、特に2つの点を強調したい。一つはスティーヴ・ハウのギター。クラシックやカントリーなど、様々な音楽の影響を受け、多種多様なギター類を弾きこなす一方で、かなりクセのあるギターサウンドとフレージングで、独特の存在感を持つ彼のギター。

しかしここではロックしているのだ。それも全アルバム中最高のプレーじゃないかというほど、弾き倒しているのである。それは次作「海洋地形学の物語」のバイオリン奏法を多様した印象的なプレイや、次次作「リレイヤー」での怒濤のサウンドとも違う。3rdアルバムあたりに濃厚な、Yes流ハードロックとも言うべきプレイなのだ。とにかく凄い。

もう一つこのアルバムで注目したいのが新加入直後のアラン・ホワイトである。彼もまた後のアルバムとは別人のように、“ロック”なドラミングでパワフルに曲を引っ張っているのだ。ビルと交替した後の2回のツアーを経て、ようやくバンドの曲を彼なりに叩けるようになったと言われる(「イエスストーリー 形而上学の物語」、ティム・モーズ著、シンコーミュージック、1998年)。

人気急上昇という時期に後から加入して、それまで同様なアンサンブルを短期間に作らなければ成らない立場にあった彼の、意欲や気合いや、時には焦りや気負いまでもが、エネルギッシュなドラミングとして現れているのだ。その彼の「とにかくやるしかない!」みたいな勢いが、異様な雰囲気と特別な緊張感を、このアルバムにもたらしていると言える。

もちろんロジャー・ディーンによる豪華なジャケットデザインが、Yesの視覚的世界を決定的なものにした点でも、この3枚組LPの存在は大きかった。その絵を見ながらどっぷりと浸る目と耳によるイエス・ワールドであった。
 

近年のテンポやキーを落とした「再現ライブ」とは全く異なる、奇跡のような演奏が詰まった傑作アルバム。

ちなみにLP3枚組での各盤面の収録曲は以下の通り。LP時の曲の配置に従って全体の流れを意識して聴いてみるのも、当時の制作意図や構成に思いをはせることが出来て面白いのではないだろうか。

・A面(ディスク1表)
     オープニング(ストラヴィンスキー作曲:組曲・火の鳥より)
     シベリアン・カートゥル
     燃える朝焼け
・B面(ディスク1裏)
     パーペチュアル・チェンジ
     同志
・C面(ディスク2表)
     ムード・フォー・ア・デイ
     ヘンリー8世の6人の妻より
     ラウンド・アバウト
・D面(ディスク2裏)
     オール・グッド・ピープル
     遥かなる思い出 / ザ・フィッシュ
・E面(ディスク3表)
     危機
・F面(ディスク3裏)
     ユアズ・イズ・ノー・ディスグレイス
     スターシップ・トゥルーパー