2010/06/05

「シンフォニック・ピクチャーズ(銀河交響曲)」SFF

原題:Symphonic Pictures(1976年)
  
Schicke, Führs & Fröhling(SFF)


Symphonic Pictures」(邦題「銀河交響曲」)はドイツのバンド、Schicke, Führs & Fröhling(シッケ、フェアーズ&フローリッヒ)、通称SFFによる1976年のデビューアルバムである。スイスのドイツ語圏出身のバンドと言われたりすることもあるが詳細は不明。活動拠点はドイツの置いており、ドイツのBrainレーベルからアルバムを出している。

曲は全てテクニカルなインストゥルメンタルだが、展開の妙と情感豊かな演奏で聴く者を魅了する。タイトな変拍子と大胆なメロトロンの使用も特徴だ。

SFF としては3枚のアルバムを発表しており特にこの1stと2ndの完成度が高いが、両者には若干の違いがある。1977年の2nd「Sunburst(太陽幻想曲)」はMahavishunu Orchestraからの影響の下、当時台頭してきたクロスオーバー/フュージョン的な要素も強まり、テクニカル度が増し内容も多彩になる代わりに、1stの持っていた独特の音空間が減退した。そういう意味では本作が一番SFFの個性が発揮されたアルバムと言えるだろう。

   Eduard Schicke:ドラムス、パーカッション、ムーグ、
                   メタロフォン、シロフォン
   Gerd Führs:グランド・ピアノ、エレクトリック・ピアノ、
                   ムー グ、クラヴィネット、メロトロン、
                   ストリングアンサンブル、ベーセット
   Heinz Fröhling:ベース、アコースティック&エレクトリックギター、
                   メロトロン、クラヴィネット、ストリングアンサンブル

まず編成が変わっている。専任のベース奏者がいない。そのベースパートをギタリストFröhlingがベースを弾いたり、キーボー ドのFührsがベーセット(楽器会社であるHohner製のキーボード・ベース)を用いたりして補っている。

またそのギタリストFröhlingがキーボードも兼任しているので、キーボードによる厚みのある表現が可能になっている。ピアノも実に良く活かされているが、そこに絶妙にストリングアンサンブルやメロトロンが絡み付く。

特にメトロトンは、今でこそサンプリング音源として自由に鳴らすことが可能となったが、楽器の特性として音の立ち上がりが遅いので早いメロディーを弾くのには適していない。ところがこのアルバムではかなりメロディーを奏でさせているのだ。当時このメロトロンの使い方を耳にして、その斬新な使い方に興奮した記憶がある。

さらにドラマーのSchickeもギタリストのFröhlingも、テクニックは一流な上に、ツボを押さえたプレイが素晴らしく、その後に生まれるプログレ・メタル的な弾き倒し系ではない、味のあるテクニカル・アンサンブルを聴かせてくれる。 スムーズな変拍子にあふれた楽曲の完成度も高い。特に旧LPのB面全てを使った16分以上の大作が聞き物だ。

そして本アルバムの最大の特徴と思われるのは、実は専任者不在のベースパートにあると思うのだ。空間を広げる各種キーボード、硬質な音で緊張感をもたらすギター、そしてタイトに引き締まったドラムス。そこにシンセのような厚みと揺れのあるベース音が、ある時はベースの代わりとして、またある時はオーケストレーションのベースパートとして加わる時、独特な電子音楽的空間が立ち上がってくるのである。それが宇宙的なイメージをもかもし出し、「銀河交響曲」なる邦題にもつながったのだろう。

あるミュージシャンが言っていた。テクニックは人を“感心”させるが“感動”させるとは限らないと。テクニカルでマルチなミュージシャンによるトリオながら、テクニックに溺れることなく、この不思議な音響空間を作り上げたことによって、このアルバムは独特の個性を持った作品に仕上がったと言える。

ほぼワン・テイクで録音され、わずか一週間の作業で完成されたというのも信じがたい、非常に高い完成度を誇る。 かのフランク・ザッパが彼らの音に非常に興味を示し、スケジュールの関係でプロディースを断念したという逸話が残っているのもうなずける傑作。

ちなみにFröhlingの、レスポールとリッケン バッカーを組み合わせた、自作のダブルネック ギター&ベースがカッコイイ。これはバンドが畜舎を改造してリハーサルを積んでいた村の職人によって作られたものだとか。ロバート・フリップとクリス・スクワイアが合体したようだ…。ちょっと変な例えかな。