2010年2月4日木曜日

「ハージェスト・リッジ」マイク・オールドフィールド

原題:Hergest Ridge(1974年)

Mike Oldfield(マイク・オールドフィールド)


Hergest Ridge」(邦題は「ハージェスト・リッジ」)は、「Tublar Bells(チューブラー・ベルズ)」で、劇的なデビューを果たしたイギリスのマルチミュージシャン、マイク・オールドフィールド(Mike Oldfield)のセカンド・アルバムである。

「Tublar Bells」は1973年、ヴァージン・レコードの記念すべき第一弾アーティストとして発売された。しかし多くの人々にとってそれは“マイク・オールド フィールドというミュージシャンのデビューアルバム” ではなく、同年のホラー映画「エクソシスト」のテーマ音楽として、強烈なインパクトを与えられた。

ある意味「エクソシスト」という、ホラー映画でありながらアカデミー脚本賞を取った話題性と完成度を併せ持った作品に飲み込まれたかたちだが、逆に言えばそれが当時無名だったマイク・オールドフィールドが大きく注目されるきっかけになったとも言える。

しかしながら、映画に使われ非常に効果的な音だったにも関わらず、“映画音楽(サウンドトラック)”ではなく純粋な“オリジナルアルバム”の一部であったと いうことが、彼の音楽性の高さや特異性をいみじくも物語っていると言えるし、それだけ強烈な映画に拮抗し、“映画音楽”のイメージの縛りから抜け出て、 「Tublar Bells」という音楽作品への高い評価につなげられたというのは驚異的なことだとしか言い様がない。

それだけ「Tublar Bells」はオリジナリティと完成度の高い音楽であり、アルバムであるということなのだ。

だがしかし、わたしの好きなアルバムは、翌1974年に発表されたこのセカンド・アルバム「Hergest Ridge」なのだ。「Tublar Bells」は確かに素晴らしい。それまでにないオーバーダビングに次ぐオーバーダビングによる壮大な音の構築という手法。そしてその結果作られた、バン ドともオーケストラともプログラミング(当時はなかったが)とも違った、不思議な深みのある音の塊。

しかしアルバム 全体のまとまりや、ノスタルジックなメロディーを活かした牧歌的なサウンドが聴ける「ハージェスト・リッジ」を、わたしは愛聴した。発売時のサブタイトル が「愛と幻の地平線」。もの凄くイマジネーションを刺激する音楽である。まさにアルバムジャケットの写る、大平原の中で孤独を噛みしめながら、過去から未 来へと続く雄大な命の歴史のようなものを感じさせられる音楽。

   Mike Oldfiled:オール・インストゥルメンツ
   June Whiting & Lindsey Cooper:オーボエ
   Ted Hobart:トランペット
   Chili Charles:スネア・ドラム
   Clodagh Simmonds & Sally Oldfield:ヴォイス
  
作品作りの手法は基本的に変わっておらず、ほとんど自 分一人で数多くの楽器を操りオーバーダビングを重ねて、LPでAB面通して一曲という長大な音楽が作られている。しかし「Hergest Ridge」は「Tublar Bells」の精神的な不安定さを感じさせるような印象的な導入部とは大きく異なり、ゆったりとした優しく繊細で、懐かしさを感じさせるようなメロディー で始まる。

曲展開も、同じフレーズを繰り返しつつ楽器が少しずつ加わっていったり、カウンターメロディーが入ってき たりと、次第に音に厚みと深みが与えられていく。しかし基本的にドラムスを使わないので、ロック的にならず、あくまで手作業による繊細さに貫かれているの だ。その素朴さが、職人的な味わいが、このアルバムには見事に活かされている。

そしてそこここで聴かれるギターの美しさ。曲構成の見事さやオーバーダビングの数などに興味が行きがちだが、彼の震えるような繊細なギターの魅力も聴く者を捉えて話さない。さらにここではオーボエやコーラスも聴くものを優しく包んでくれる。

そしてトータルに聴いた時にも、最後に大きく盛上がる計算された楽曲。後半、ラストへ向けて執拗に繰り返される強烈なユニゾンの嵐が凄まじい。マイクが90本 のギターをオーバーダブして作り上げたと言われるギターオーケストレーションによる、あらゆる情感が吐き出され叩き付けられ、発散されるようなパート。そ してその後の、全てが浄化されたような静かなエンディング。

なぜかこの「Hergest Ridge」は、マイクがあるがままの自分を出したアルバムという気がするのだ。その心の弱さや悲しみや不安や、安らぎを求めようとする気持ちが、今でも聴く人の心を打つ。傑作中の傑作である。

ちなみに「Hergest Ridge」とはイギリス田園地方で見られる丘陵地帯の一つの名前。ウェールズとイングランドの境界に広がる丘陵地帯を指す。「Tublar Bells」の成功によるプレッシャーから逃れるようにして、マイクがロンドンを離れて移り住んだヘレフォード州キングトンの近くに、このハージェスト・リッジはあった(下図中央部)。

Google Earthより
  

2 件のコメント:

  1. こんにちは
    マイク記事を検索し、あちらこちら彷徨って辿り着きました。
    私はマイク歴が浅く、数年前にCDを大人買いして
    ゆっくり聴いて楽しんでいる俄です。

    「Hergest Ridge」を聴いているうちに、
    時間の川をたゆたうような気分にさせてくれる
    「Spanish tune」の箇所が大好きになりました。

    こちらさまの「Hergest Ridge」への想いに共感し、
    足跡を残したく思いました。また伺いますね!
    どうもありがとう。

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    1. コメントをありがとうございます!
      わたしはこの頃のアナログ感たっぷりな音が特に大好きです。

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