2010/04/04

「スリーフレンズ」ジェントル・ジャイアント

原題:Three Friends(1972年)

Gentle Giant

Three Friends」(邦題は「スリーフレンズ」)はイギリスの超技巧派バンドGentle Giant(ジェントル・ジャイアント)が1972年に発表した3rdアルバム。
  
Gentle Giantはアルバムごとに完成度を増していったと言うよりは、King Crimsonのように最初からいきなり高水準なアルバムを出し続けた希有なバンドである。

現在の音楽シーンで“技巧派”=“テクニカル”と言えば、Dream Theater(ドリーム・シアター)的プログレ・メタルなものをイメージしてしまうが、Gentle Giantの技巧派ぶりはそれとは全く異なる。技巧=高速(早弾き)ではないのだ。

   Derek Shulman:ボーカル
   Ray Shulman:ベース、バイオリン、12弦ギター、ボーカル
   Phil Shulman:サックス、ボーカル
   Kerry Minnear:キーボード、ビブラフォン、パーカッション、
                             ムーグ、ボーカル
   Gary Green:ギター、パーカッション
   Malcolm Mortimore:ドラムス

Derek Shulman(デレク・シャルマン)に「ボーカル」しか書かれていないが、他のアルバムではサックスやリコーダーもこなす。Ray Shulmanはギターも一流だ。つまり多彩な楽器を操ることのできるマルチプレーヤー集団なのだ。さらに4人がボーカルを取れる。

そこでその技巧派ぶりは、その多彩な楽器が複雑に入り組んだ曲の構成や展開に現れる。リズムチェンジの多用、変拍子やクロスリズム、唐突な緩急や強弱、そしてグリークラブのように美しく、時に実験的なボーカルハーモニー。それでも基本的にノリを損ねないで、不思議なポップ感覚を保っているという驚くべき音楽。それがGentle Giant的技巧である。

その彼らが珍しくトータルコンセプトに基づいて作ったのが、この 「Three Friends」だ。前作「Acquiring the Taste」までのドラマーからMalcolm Mortimore(マルコム・モルティモア)に交替しているが、繊細で多彩な表現をさりげなく盛り込むドラミングが素晴らしい。一般的に次のアルバムか ら加入するドラマーJohn Weathers(ジョン・ウェザース)により、Gentle Giantサウンドはよりダイナミックさを増し、完成度がさらに高まったと言われる。

しかし2ndに比べトータルアルバムということからか、全体に曲が長めでメロディーが比較的ストレートな印象の強い本アルバムには、 Malcolmの技巧的なドラミングがとてもマッチしている。そういう独特なバランスの上に作られた「Three Friends」は、Gentle Giantの作品群の中でも、独特な魅力を持ったアルバムと言えるだろう。ちなみにアメリカでのデビューアルバムなので、アメリカ盤のジャケットは異なっていた(ファーストアルバムと同じ)。

コンセプトはタイトル通り3人の友だちの物語。仲の良かった学生時代と、それぞれが大人になって、道路工夫、画家、サラリーマンとして働くようになったことで、互いが理解できなくなるというシニカルな内容。

しかしそれを大仰に盛り上げるでもなく、心理を深く掘り下げるでもなく、淡々と複雑怪奇でありながらポップで美しいという、アクロバティックな曲展開で聴かせてしまうところがGentle Giantらしい。そして文字通りトータルイメージとして、そこはかとなく「人生」を感じさせてくれるのだ。

冒頭からメインメロディーを様々な楽器が絡み合いながら繰り返す。そこにKerry Minnear(ケニー・ミネア)の美しいボーカルが静かに入る。そして美しいハーモニー。しかしメロディー進行がすでに変である。どこに飛んでいくか分からない旋律。ボーカルがさらに面白みを見せてくれるのが2曲目。左右のスピーカーから一つのメロディーを二人で分けて歌っている。軽快なエレクトリック ピアノが動き回る。しかし中盤はメロトロンも登場し深く沈んでいくような暗さに覆われていく。

3曲目でパワフルな声の Derek Shulman(デレク・シャルマン)がリードボーカルとしてやっと登場。次作以降ドラムスがロック的なグルーヴを持ち込むことで、サウンドがパワフルになりDerekがボーカルを取ることが多くなる(特にライヴで)が、このアルバムではKerryを核とした美しい声とDerekの荒々しい声がうまく配置されている。

またオルガンソロ、ギターソロなど、凝りに凝ったアンサンブルが持ち味のGentle Giantにしては結構ソロプレイが聴けるのも本作の特徴。スタープレイヤーがいないため個人のプレーよりもアンサンブルに耳が行きがちだが、こうして聴くとソロも魅力的なのだ。

また最後の曲でキーボードが教会風の神聖な雰囲気を持ち込んで、美しいコーラスが響き渡るという、物語の終わりを思わせる流れも珍しい。もちろんギターは相変わらず複雑な動きをし、拍子もところどころ変拍子が入るという“らしさ”は最後まで消えることはない。

複雑なアンサンブルや不思議で唐突な展開を盛り込みながら、決して難解にも暗くもならず、ポップさやハードロック的なノリの良さを失わないというGentle Giantの、傑作群の中の1枚。