2010年5月4日火曜日

「組曲『夢魔』」アトール

原題:L'araignee-mal(1975年)

Atoll(アトール)


組曲「夢魔」」(L'araignee-mal)はフランスのバンドアトール(Atoll)が1975年に発表したセカンド・アルバ ムである。
  
当時日本では異例の高セールスになりながらも、「フランスのイエス」という紹介のされ方が大きな誤解を生むことになったと言われる作品だ。確かにイギリスのイエス(Yes)とはサウンド的には大きく異なる。と言うかイエスが特異過ぎるので、サウンドを似せること自体不可能なのだ。

では「フランスのイエス」などという謳い文句が全く間違っているかというと、そうとも言い切れないように思う。それは何かと言うと、混沌とした中でも音世界が持ち続けている肯定感じゃないかと思う。ちなみにAtollとは珊瑚礁のこと。

   Richard Aubert:ヴァイオリン
   Andre Balzer:リードボーカル、パーカッション
   Christian Beya:ギター
   Alain Gozzo:ドラムス
   Michel Taillet:キーボード
   Jean Luc Thillot:ベース

ヴァイオリンのRichardは他の5人のメンバーとは少し立場が異なり、このアルバムのみのゲスト参加的な存在だったようだが、その貢献度は大きく、サウン ドに広がりと深みを与えている。

一曲目から各メンバーのテクニックの高さに耳を奪われる。特にドラムスのAlainのキレの良いプレイは全体の緊張感を見事に高めている。そしてフランス語ながら、もたもたした感じを排し、力強い声と発音で引き締まったボーカルを聞かせるAndreの存在も大きい。そしてキーボードのMichelの澄んだストリングス系の音やエレクトリック・ピアノも、アトールサウンドの特徴になっている。

そこに切り込んでくるヴァイオリンは、楽曲がジャズロック的にまとまろうとするのを拒むかのように時折妖しく絡み付くが、全体としては非常にクリアで力強い音楽なのだ。そこにイエス的な肯定感、前向きさを感じることは可能かもしれない。

2曲目などはマハヴィシュヌ・オーケストラ的ジャズ・ロックである。ここでもドラムスのプレイが素晴らしい。リズムチェンジを繰り返しながら、ソロをギター、キーボード、ヴァイオリンで回して行くが、非常に密度の濃い演奏が続く。

3曲目は一転して叙情的なシンフォニック大曲である。1曲目で登場したボーカルは語りの域を出ていたかったし、2曲目ではオールインストゥルメンタルだったので、ここで初めてAndreの歌を聞くことができる。フランス語なのにブリティッシュ・ロック的な美しく力強い声。そして続く後半は、Christian Beyaのギターソロを中心としたインストゥルメンタル・パート。

そして4部からなる トータル22分近い組曲「L'araignee-mal(夢魔)」。妖しいヴァイオリンとパーカッションによる導入部は、キング・クリムゾンの「太陽と戦慄パートI」を思い起こさせる。そして前半はヴァイオリンがメロディーを引っ張って行く。エレクトリック・ピアノに導かれて叙情的な盛り上がりを見せる中盤以降では、Andre のボーカルの魅力が炸裂する。

マハヴィシュヌ・オーケストラ並の演奏能力を持ちながら、テクニックではなく楽曲主体に聴かせる音楽性は、まさに高次元で完成されたシンフォニック・ジャズロックである。そして次第に高揚して行く組曲後半。22分間に一部のスキもない、手に汗握る曲展開が素晴らしい。

表現力豊かながら沈み込まずにストレートに響くヴォーカル、時折現れるヴァイオリンのキレたような演奏やロバート・フリップ風なギターサウンドなど、高度なテクニックに裏打ちされた構築性と、それをはみ出す暴力的な意外性が同居している。

フランスが生んだ奇跡の1枚。

余談だが組曲「L'araignee-mal(夢魔)」のラストは、フランス・オリジナル盤LPでは、現在のものとは異なるらしい。ラストのキメのフレーズは繰り返さず1回で終わり、アタック部分のないエコーのような音は、原盤には入っていないのだそうだ。それが編集ミスなのか、あるいはメンバーの納得の下に変えられたエンディングなのかは不明である。

私的には最後のエコー音は好きですけれど。

 

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