2010年9月16日木曜日

「サック・オン・ディス」プライマス

原題: Suck on This(1990年)

プライマス(Primus)

 
「サック・オン・ディス(Suck on This)」はアメリカのバンドPrimus(プライマス)の1990年発売の1stアルバムだ。しかしデビューアルバムにしてライヴ。それもすでに演奏面でも個性の点でもすでに完成されているという素晴らしい作品。
  
ギター、ベース、ドラムスのスリーピースバンドでありながら、演奏は時としてクリムゾン級のアンサンブルと集中力を見せる。しかしながら恐らくプログレッシヴ・ロックとして位置づけられることは、ほとんどないと思われる。

それは、いわゆるプログレッシヴ・ロックの“様式”的側面をはからずも浮き彫りにさせてしまうことになるのだが、彼らの音楽のサウンド面には“ファンキー”さが含まれているのだ。そしてスラップ(チョッパー)・ベースを操るレス・クレイプールのノリノリのリズムと、ひょうひょうとしたボーカル、単調なメロディーと予測できないねじれた曲展開。深遠なような下品なような、不思議でユーモラスで、饒舌なわりに良くわからない歌詞。

そう、いわゆる“プログレッシヴ・ロック”が持つ生真面目さと重厚さに欠けるのである。そのあたりはフランク・ザッパの置かれている立場に近いかもしれない。クラシカルさもない、シンセサイザーやメロトロンも登場しない。

しかし“ファンク”さもどこか奇妙な味わいがあり、いわゆるファンク・バンドとも異なる。ミクスチャーと言えばミクスチャーなのだが、“ノリ”だけで突っ走るわけではなく、むしろ“ノリ”をも対象化して、複雑なスラップ・ベースの反復リズムの世界にはまり込んでいくような、実は一筋縄ではいかない迷宮的魅力があるのだ。

   Tim Alexander:ドラムス
   Larry Llonde:ギター
   Les Claypool:ベース、ボーカル

1曲目冒頭から変拍子である。途中からリズムチェンジする。驚くほどキレの良い演奏と一糸乱れぬアンサンブルに度肝を抜かれる。ドラムスがまた良い。以降のスタジオ盤にはない勢いと、スネアのピッチの高い「カーン」という感じの音が心地よいのだ。手数足数も多く、リズム隊の2人による演奏は音の薄さを微塵も感じさせない。

しかし低音から中音域までカバーし動き回るベースと、ピッチを高めにしたパーカッション的ドラムスのコンビは、メタリックな音圧は作り出さない。ビンビン、パタパタ、タカタカとノリノリに放たれるその宙に浮いたようなサウンドがまた異様な世界を作り出す。

そしてその上にメロディーともノイズともつかないようなギターが乗る。1stアルバムだけに、まだメタル的なソロや早弾きも時折見せるが、すでにかなり不可思議な音を連発している。

この3者が暴れ出すと、凄まじいパワーを発揮するのだ。ある意味全員がリード楽器。そして複雑なのにグルーヴ感のあるリズムがクセになる。鼻にかかった脱力系のボーカルもクセになる。異様な音色で切り込んでくるギターもクセになる。それはどこか狂気じみた世界なのだ。

曲はどれも短めで使われているコードも少ない。そういう点ではパンクっぽさもある。しかしパンクはプログレッシヴ・ロックの重厚長大さやテクニック至上主義を批判したが、彼らの音楽は非常に高度なテクニックとオリジナリティあふれる音楽性に支えられている。

そういう意味ではプログレッシヴ×パンクとも呼べそうだし、ファンク・メタルと呼ばれることもあるようだ。彼ら自身は自分たちのサウンドを“サイケデリック・ポルカ”と呼んでいたそうな。

要するに既成の枠にはめることのできない音楽。つまり本来の意味で“プログレッシヴ”なのである。アメリカからしか出て来れないであろう傑作だ。

ちなみに「suck」とは「吸う」という意味で、タイトルは「こいつを吸いな」って感じ。それで哺乳瓶が描かれているわけだが、「オレたちの音楽を味わってみな」というメーッセージとも取れる。

また「suck」には「最低である、最悪である」という意味もあり、彼らは自分たちのことを「Primus Sucks!(プライマスは最低!)」と言っていた。アルバム中のMCでも「We promise we suck!(もちろんオレたちは最低さ!)」とか、聴衆にたいして「You are bastards. (お前らも最低!)」などと言っている。まぁ「bastard」は親しみを込めた表現だけど。さらに「suck」にはセクシャルな意味もある。
 
タイトルの「suck」にはそういった言葉の様々なイメージが込められているのだ。
 

0 件のコメント:

コメントを投稿