2009/08/10

「S.U.S.A.R.」

S.U.S.A.R. (2004年)

Indukti(インダクティ)


S.U.S.A.R. 」はポーランドのIndukti(インダクティ)が2004年に発表したデビュー・アルバムである。

個人的なヨーロッパのバンドに対する印象として、クラシックの伝統に裏付けられたプレーの堅実さと、各楽器のバランス感覚、アンサンブルの安定感が高いと感じていた。

加えて、中でも旧東欧諸国は、1970年前後のロック・ミュージック大変革期の頃の熱を、その後のパンク、ニューウェイヴ、フュージョン、テクノなど次々と移り変わるブームに振り回されることなく持ち続けているような気がしていた。

例えばハンガリーのSolaris(ソラリス)の「Marsbeli Kronikak(火星年代記)」(1984)なども、1980年頃英国で興ったプログレッシヴ・ロック・リヴァイヴァルの流れとは異なり、80年的なキ レのある音でありながら、ムーグ・シンセサイザーを活かした
70年的なパワーを持ったバンドであった。

そして2004年に本作で登場したInduktiも、サウンド的にはプログレッシヴ・メタル風な重くテクニカルなものであるが、明らかに1970年代のKing Crimsonを意識したヘヴィなロックを奏でる。

 Ewa Jablonska:ヴァイオリン、チェロ
 Piotr Kocimski:ギター
 Maciej Jaskiewicz:ギター
 Maciek Adamczyk:ベース

 Wawrzyniec Dramowicz:ドラムス
<ゲスト>

 Mariusz Duda:ボーカル(from Riverside)
 Anna Faber:ハープ


ツインギターにヴァイオリンという特異な編成。ヴァイオリン奏者は女性でチェロも弾く。

アルバムは、ハープの音が美しくも不穏な雰囲気を生み出し、静かに始まる変拍子に乗せて
ヴァイオリンの物悲し気で神経質そうな音が被さる。ハープはこの後もと要所で効果的に使用される。

そして始まる変拍子リフの嵐。タイトでパワフルなドラムスと重低音ベースに支えられて、凶暴なツインギターとベースのユニゾン変拍子リフが重く重く襲いかか る。高音部で妖しくうごめくヴァイオリンは、まさに1970年代King CrimsonのDavid Cross(デヴィッド・クロス)を思わせる。

彼らの特徴は、とにかく全員一丸となって疾走するヘヴィな変拍子リフにある。この
執拗に繰り返えされるスピード感あふれるヘビィなリフに、次第に聴き手は高揚させられて、その心地よさに酔わされる。

ヴァイオリンもメインメロディを奏でるというよりは、リフの重さを際立たせるかのような動きをする。ヴァイオリンはアコースティック&エレクトリック両方を弾 き分けており、特に6曲目「No. 11811」では、アコースティックからエレクトリックへ変わる瞬間の衝撃が凄い。

ヴォーカルは同じポーランドのRiverside(リヴァーサイド)からゲストで参加しているが、歌詞は英語。しかしその暗く湿り気のる声は、サウンドの中にみごとに溶け込んでいる。

超絶ギターソロがあるわけではない。エキセントリックなヴァイオリンプレイがあるわけでもない。しかしスネアがスコーン、スコーンと良い音を鳴らしながら安 定した変拍子を叩き出し、ロックなギターリフの上でCrimson的なねじれたギターソロやヴァイオリンソロが飛び出す。

同じようにCrimson的なイディオムから独自の世界を作り出したスウェーデンのAnekdotenと比べると、ヘヴィなリフの部分だけ抽出し、よりメタリックにした感じか。もちろんメロトロン的叙情もない。そのかわりDavid Crossヴァイオリン的叙情がある。

リフを重視するというのは、King Crimsonの1980年以降の大きなテーマである。そういう意味では「Starless And Bible Black(暗黒の世界)」期のCrimsonが、当時のギター、ベース、ドラムス、ヴァイオリンという編成で今音を出したらこうなっていたかもしれない と思わせるようなサウンド。ヘヴィリフ主体の超絶アンサンブル。そして間違いなくロックしている音。

これは傑作。
そしてこの夏、待望の2ndアルバムが発売される。超期待です。

 

2009/08/08

「シクロス/組曲“四季”」

Ciclos(1974年)

Los Canarios(ロス・カナリオス)


Ciclos」(邦題は「シクロス」あるいは「組曲“四季”」)は、スペインのLos Canarios(ロス・カナリオス、あるいはカナリオス)が1974年に発表したLP2枚組による大作。イタリアの作曲家ヴィヴァルディ(Vivaldi)のヴァイオリン協奏曲集「四季」をロック化した作品である。

LPでは各面が「春」「夏」「秋」「冬」と原曲の流れ通りに配された、全4曲という構成。しかし最初のパートが「Geneses(起源)」、最終パートが「Apocalipsis(黙示)」に終わる流れは、四季になぞらえて人の一生を描いていると言われる(わたしの持っているCDは輸入版なのでブックレットがスペイン語なため、詳細は不明。う〜むぅ、無念)。

 Alain Richard:ドラムス、パーカッション
 Antonio Garcia De Diego:ギター、ボーカル
 Mathias Sanvellian:ピアノ、オルガン、ヴァイオリン
 Christian Mellies:ベース、テルミン
 Teddy Bautista:シンセサイザー、メロトロン、ボーカル
 Alfred Carrion:コーラスアレンジ

Los Canarios自体は1960年代から活動していたビート・ロックバンドだったらしいが、3rdアルバムである本作において、アレンジに奇才 Aflred Carrionを迎え、スペイン国立歌劇団の全編に渡る協力を得て、類い稀なる作品を産み出すことに成功した。

時は1974年。まだスペイン・プログレッシヴ・ロックの祖的な存在であるTriana(トリアナ)のファーストアルバムが出る前の年である。まさに大冒険にして大いなる偉業であったはずだ。作品にはその熱気や意気込みが溢れている。

まず原曲そのものにミステリアスな雰囲気がある「はげ山の一夜」や「展覧会の絵」などと違い、曲調がロックに馴染みにくい「四季」に挑戦しているところからして違う。それも全曲。曲調から言えば、ちょっと間違うとメロディーだけ浮いた締まりのないロックか、イージーリスニングになりかねないこの曲を、重厚で圧倒的なロック・ミュージックへと昇華させている。

さらに基本的なメロディーはキーボード、ギター、ボーカルなどに置き換えて、かなり原曲に忠実な演奏を聴かせる。つまりテクニック的にも相当凄いことをやっているのだ。有 名なフレーズだけ借りてきて、あとはバンドのフィールド内でロックするのとは訳が違う。複雑な上昇、下降のヴァイオリンフレーズをギターやキーボードが、 ソロやユニゾンで見事に弾きこなす。そしてドラムスが素晴らしいリズム感で全体を引っ張る。各種パーカッションも不思議な味わいをかもし出す。

そしてAlfred Carrion(アルフレッド・カリオン)アレンジによる混声合唱団が、全編で力強い声の威力を見せつける。ヨーロッパの伝統がかいま見える迫力だ。それに対抗しメンバーが聴かせてくれるロックなボーカルも魅力だ。特に前半で聴けるボーカルは、ファルセットに近い高音が実にパワフルで、ぐいぐいと聴く者を引き込んでいく。

また効果的に頻繁に使用されるメロトロン、音の太いアナログ・シンセサイザーが、原曲に新しい息吹きを吹き込む。加えて、赤ん坊の泣き声、せせらぎの音、鳥 の鳴き声など様々な効果音、女性のオペラ風ソロ、アコースティックギターだけを伴奏にしたフラメンコスタイルのボーカル、アメリカンポップス風ボーカル、 グレゴリアン・チャント(Enigmaより17年も前!)、さらにメロトロン・クワイア(合唱団がいるのに敢えて!)など、様々な要素がごった煮のように詰め込まれ、次に何が飛び出すかわからない。

曲調もツインキーボードとギターによるクラシカルなロックアンサンブル、かと思うと思いっきりロックンロール、時にジャズ、はてはミュージック・コンクレート、最後には大爆発まで。

この「何でもアリ」ながら、それぞれをお遊びではなく真剣にプレイしていることが、ある種原始的なパワーをこのアルバムにもたらした。それこそが本作の大きな特徴であり魅力となっているのだ。それは取りも直さず、当時の「何か新しいものを作り出そう」という意欲と熱気が、音にそしてアイデアに込められていることを物語っている。

美しくアレンジされ、緻密に構成されたシンフォニック・ロックではない。雑多で異質なものが同居し合い、それらを力ずくで一つの作品へとまとめ上げ、そこに何とも言えない生命力のようなものを封じ込めた音楽。スパニッシュ・ロック黎明期の奇跡。傑作。

なお、バンドでは各曲に独自のタイトルを冠している。

 タイトル:Ciclos(サイクル・周期、連作歌曲という意味もある)
 第一幕:Paraiso Remoto(遥かなる楽園)
 第二幕:Abysmo Proximo(次なる深淵)
 第三幕:Ciudad Futura(未来都市)
 第四幕:El Eslabon Recorbrado(再生された輪)

 

2009/08/06

「夢の丘」


夢の丘(1991年)

KENSO(ケンソー)


夢の丘」は日本が世界に誇るプログレッシヴ・ロック・バンドKENSO(ケンソー)による1991年発表の6枚目のアルバム。前作「スパルタ」制作途中からベースとドラムスのリズム陣が交代し、新たな布陣で作り上げた渾身の一作。

清水義央:ギター
小口健一:キーボード
光田健一:キーボード
三枝俊治:ベース
村石雅行:ドラムス

オールインストゥルメンタルである。しかしフュージョンのように耳にすんなりと入ってこない。ジャズロックというほどジャズの色合いは感じられない。そこには緻密に計算された変拍子と、細かなリズムチェンジがあるからだ。これにより一聴した時に曲の全体像を掴みにくい。一つの明確なメインメロディーであるとか、曲のサビの部分であるとかいった捉え方がしにくい。

ここで聴くのを止めてしまうと、KENSOは曲が複雑過ぎて良くわからないバンドということになってしまうかもしれない。

ところが聴き込んで行くと、実に良くギター、ツイン・キーボードのアンサンブルが考えられていることがわかってくる。さらにベースのうねるようなプレイ、ドラムスのテクニカルながら表情豊かなプレイも聴こえてくるようになる。

そして効果音を含めて、音色にもこだわっていることも見えてくる。二人のキーボード奏者が効果的にピアノ、シンセ、オルガンなどを弾き分け、そこにリーダー である清水のエレキギターやアコースティックギター(ブズーキ、ポルトガルギター)が切り込んでくるという、音色の絶妙なアンサンブル。

すると、せわしく細かに変化する変拍子の曲が、複雑で分かりづらい印象からじわじわと変わり出し、次第に心のひだを追って行くようにして、自分の中にしみ込んでくる音楽である事に気づいてくるのだ。

その音には、Gentle Giantのような複雑なアンサンブルの妙や、PFMのような大らかなメロディー、そして日本を感じさせるどこか懐かしい情景が潜んでいる。雄大なメロト ロンが鳴り響くわけではない。かなり複雑でテクニカルなアンサンブルに熱いロックを感じさせるギターが織りなす音楽なのに、出てきた音から大きな叙情が広がってくる。

そしてメンバー全員がまさに世界レベルの素晴らしいテクニックを持ちながら、それを自分たちが表現したい音を目指して駆使し、その結果出てきた音楽。そんな深い感動に包まれるのだ。

テクニカルな演奏&ロック魂&叙情。
安易さのかけらもない。
細部にまで丁寧に気を配った音。
しかしロックのパワーも渦巻いている音。
まさに様式的な「プログレッシヴ・ロック」の範疇を越えた、“プログレッシヴ”なロックとしか言い様のない音楽。

長めな曲になりがちな近年のプログレッシヴ・ロックバンドからは考えられない全11曲。5分前後の曲に、間奏曲のような短めな曲を挿む構成。しかし各曲の完成度の高さ、そして全体として聴いた時のアルバムのトータル性の高さも素晴らしいの一語に尽きる。ジャケットのアートワークも作品の一部として味わいたい。

すでに世界的にも高い評価を得ている日本の至宝。1991年の傑作。
もちろん傑作は本作だけではない。

ちなみにバンド名は、リーダーの清水が神奈川県立相模原高等学校に通っていた時に作ったハードロックバンド名に由来する。学校名を縮めた愛称が「県相」、そこから「喧騒」というバンド名にしたのだが、それがそのままKENSOとして残ったとのこと。