2009/08/08

「シクロス/組曲“四季”」

Ciclos(1974年)

Los Canarios(ロス・カナリオス)


Ciclos」(邦題は「シクロス」あるいは「組曲“四季”」)は、スペインのLos Canarios(ロス・カナリオス、あるいはカナリオス)が1974年に発表したLP2枚組による大作。イタリアの作曲家ヴィヴァルディ(Vivaldi)のヴァイオリン協奏曲集「四季」をロック化した作品である。

LPでは各面が「春」「夏」「秋」「冬」と原曲の流れ通りに配された、全4曲という構成。しかし最初のパートが「Geneses(起源)」、最終パートが「Apocalipsis(黙示)」に終わる流れは、四季になぞらえて人の一生を描いていると言われる(わたしの持っているCDは輸入版なのでブックレットがスペイン語なため、詳細は不明。う〜むぅ、無念)。

 Alain Richard:ドラムス、パーカッション
 Antonio Garcia De Diego:ギター、ボーカル
 Mathias Sanvellian:ピアノ、オルガン、ヴァイオリン
 Christian Mellies:ベース、テルミン
 Teddy Bautista:シンセサイザー、メロトロン、ボーカル
 Alfred Carrion:コーラスアレンジ

Los Canarios自体は1960年代から活動していたビート・ロックバンドだったらしいが、3rdアルバムである本作において、アレンジに奇才 Aflred Carrionを迎え、スペイン国立歌劇団の全編に渡る協力を得て、類い稀なる作品を産み出すことに成功した。

時は1974年。まだスペイン・プログレッシヴ・ロックの祖的な存在であるTriana(トリアナ)のファーストアルバムが出る前の年である。まさに大冒険にして大いなる偉業であったはずだ。作品にはその熱気や意気込みが溢れている。

まず原曲そのものにミステリアスな雰囲気がある「はげ山の一夜」や「展覧会の絵」などと違い、曲調がロックに馴染みにくい「四季」に挑戦しているところからして違う。それも全曲。曲調から言えば、ちょっと間違うとメロディーだけ浮いた締まりのないロックか、イージーリスニングになりかねないこの曲を、重厚で圧倒的なロック・ミュージックへと昇華させている。

さらに基本的なメロディーはキーボード、ギター、ボーカルなどに置き換えて、かなり原曲に忠実な演奏を聴かせる。つまりテクニック的にも相当凄いことをやっているのだ。有 名なフレーズだけ借りてきて、あとはバンドのフィールド内でロックするのとは訳が違う。複雑な上昇、下降のヴァイオリンフレーズをギターやキーボードが、 ソロやユニゾンで見事に弾きこなす。そしてドラムスが素晴らしいリズム感で全体を引っ張る。各種パーカッションも不思議な味わいをかもし出す。

そしてAlfred Carrion(アルフレッド・カリオン)アレンジによる混声合唱団が、全編で力強い声の威力を見せつける。ヨーロッパの伝統がかいま見える迫力だ。それに対抗しメンバーが聴かせてくれるロックなボーカルも魅力だ。特に前半で聴けるボーカルは、ファルセットに近い高音が実にパワフルで、ぐいぐいと聴く者を引き込んでいく。

また効果的に頻繁に使用されるメロトロン、音の太いアナログ・シンセサイザーが、原曲に新しい息吹きを吹き込む。加えて、赤ん坊の泣き声、せせらぎの音、鳥 の鳴き声など様々な効果音、女性のオペラ風ソロ、アコースティックギターだけを伴奏にしたフラメンコスタイルのボーカル、アメリカンポップス風ボーカル、 グレゴリアン・チャント(Enigmaより17年も前!)、さらにメロトロン・クワイア(合唱団がいるのに敢えて!)など、様々な要素がごった煮のように詰め込まれ、次に何が飛び出すかわからない。

曲調もツインキーボードとギターによるクラシカルなロックアンサンブル、かと思うと思いっきりロックンロール、時にジャズ、はてはミュージック・コンクレート、最後には大爆発まで。

この「何でもアリ」ながら、それぞれをお遊びではなく真剣にプレイしていることが、ある種原始的なパワーをこのアルバムにもたらした。それこそが本作の大きな特徴であり魅力となっているのだ。それは取りも直さず、当時の「何か新しいものを作り出そう」という意欲と熱気が、音にそしてアイデアに込められていることを物語っている。

美しくアレンジされ、緻密に構成されたシンフォニック・ロックではない。雑多で異質なものが同居し合い、それらを力ずくで一つの作品へとまとめ上げ、そこに何とも言えない生命力のようなものを封じ込めた音楽。スパニッシュ・ロック黎明期の奇跡。傑作。

なお、バンドでは各曲に独自のタイトルを冠している。

 タイトル:Ciclos(サイクル・周期、連作歌曲という意味もある)
 第一幕:Paraiso Remoto(遥かなる楽園)
 第二幕:Abysmo Proximo(次なる深淵)
 第三幕:Ciudad Futura(未来都市)
 第四幕:El Eslabon Recorbrado(再生された輪)