2009年9月3日木曜日

「新ノア記」アンジュ

原題:Au Dela Du Delire(1974年)

Ange(アンジュ)

Au Dela Du Delire」(邦題は「新ノア記」)は、フランスを代表するプログレッシヴ・ロックバンドAnge(アンジュ)が1974年に発表した第3作。時空を超えた農夫ゴドウィン(Godevin)の旅を描いたコンセプトアルバムである。

ちなみに「ange」とは英語の「angel(天使)」、原題の「Au Dela Du Delire」は「Beyond the Delirium(錯乱を越えて)」という意味。

Christian Decamps:ボーカル、キーボード
Francis Decamps:キーボード、ボイス
Jean-Michel Brezovar:ギター
Gerad Jelsch:ドラムス、パーカッション
Daniel Haas :ベース

フランスのプログレッシヴ・バンドは、なかなかロックのダイナミズムを前面に出すことが難しいようで、その大きな理由としてフランス語のやわらかさがあるのではないかと思う。フランスのバンドでありながら MAGMA(マグマ)がコバイア語という、ドイツ語風な、歯切れのいい架空の言語でオペラティックな歌を歌ったのも、Tai Phong(タイ・フォン)が英語で歌ったのも、どこかしらフランス語を避けていた部分があるのではないかと思うのだ。

しかしこのAnge(アンジュ)は、逆にそのやわらかなフランス語の特徴を、過度に強調しシアトリカルな味付けをすることで、独自の妖しい世界を築くことに成功した。ロックを奏でる上でマイナスだと思われていた言語的な特徴を、むしろ個性ある音作りに活かしたのだ。

それを可能にしたのはChristian Decamps(クリスチャン・デカン)のボーカルである。冒頭の裏悲しいヴァイオリンの導入部から、Christianの粘っこく表情豊かなボーカルが聴き手を捕らえる。

そして2曲目でそのボーカルの圧倒的なパワーが炸裂する。アコースティック・ギターやメロトロンが印象的な静と、ハードなギターに叫ぶかのようなボーカルの動。

その後「もし僕が救済者だったら」という言葉を繰り返す、まるで朗読劇のような曲や、フォークタッチの曲など様々な面を見せながら、ボーカルが歌と語りを行き来しながら、アルバム全体を引っ張っていく。

しかしもう一つAngeの大きな特徴はキーボードの音色である。特に、ゆったりしたビブラートと霞のかかったような音色のメロトロンが、まさにAngeならでは。全体的にキーボードはもこもこした感じの音で、ちょっとダークで神秘的な雰囲気をかもし出す。

しかしどの曲もメロディーが良い。テクニック的に複雑なことをしているわけではない。しかし音に迷いが無いというか、自分たちの音楽のオリジナリティーに自 信を持っているような、どっしりした安定感がある。自分たちは新しい音楽世界を築いているんだというような自負を感じるのだ。

もちろんハードな展開部での印象的なギターソロやトラッド風アコースティックギター、タイトなドラムス、前述のメロトロンのみならずオルガンやシンセサイザー・ソロも交えたキーボードと、各楽器の演奏もテクニック的に安定しているだけでなく、バランスがとても良い。

強烈なフランスらしさを味わえる作品であるとともに、フランスを越えて他国の名作群に引けを取らない傑作。

ちなみに、その寓話的内容や情景描写的なインストゥルメンタル・パート、独特なキーボードの音色から、わたしはなぜかこのアルバムを聴いていると、イタリア のLe Orme(レ・オルメ)の「Felona e Solona(フェローナとソローナの伝説)」を思い出してしまうのです。

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