2009/10/26

「タイム・オヴ・デイ」アネクドテン

原題:A Time Of Day (2007年)

Anekdoten(アネクドテン)


A Time Of Day」(邦題は「タイム・オヴ・デ」)は、2009年にベストアルバム「チャプターズ」を発表したスウェーデンのバンドAnekdoten(アネクドテン)の2007年作。完全オリジナルとしては現在のところ最新アルバムにあたる。

1993 年のデビュー以来、King Crimsonの影響の下にありながら、メロトロンの魅力を最大限に引き出し、メロディー楽器、フロント楽器としてメロトロンを使用するという、当時とし ては画期的な手法を駆使し、激しくドラマチックな世界を作り出してきたAnekdoten。

初期には荒涼とした風景を荒々しいサウンドで表現し、次第にギターリフ中心の曲が増えヘヴィーさが増し、さらにKing Crimsonの影から抜け出すように、凶暴なインストゥルメンタル中心の曲からボーカル主体へと変貌を遂げながら、独特の叙情性を広げてきた彼らの、一 つの到達点が本作であろう。

    Peter Nordins:ドラムス、シンバル、パーカッション、ビブラフォン
    Anna Sofi Dahlberg:メロトロン、オルガン、ムーグ、ローズ、
                                       ピアノ、ヴォイス
    Nicklas Barker:ヴォイス、ギター、メロトロン、ビブラフォン
    Jan Erik Liljestrom:ヴォイス、ベース
 <ゲスト>
    Cunnar Bergstn:フルート

破壊的なバワーを持った音のぶつかり合いや、必要に繰り返される重いリフなどといった初期のAnekdotenの特徴は若干薄れ、一曲一曲がまとまりのある、ある意味聴き易い作りになっているところが特徴である。

しかし各所で使用されるメロトロンは相変わらず非常に巧みで、曲に大きな効果を与えている。すでにAnekdotenでなければ出せないメロトロン・サウンドを確立している感じだ。

特に今回は生楽器としてゲストのフルートが実に良い雰囲気を醸し出している。温かみがあり、懐かしさがあり、人間味に溢れた音だ。従来のAnekdotenがどちらかというと凍てつくサウンドだったことを考えると、見事なコラボレーションだと言える。

さらにハモンド・オルガン、ARPシンセサイザー、フェンダー・ローズ、ムーグ・シンセサイザーなどのヴィンテージ楽器が使用されていることも、サウンドに深みと広がりと味わいをもたらすことに成功している。Annaも久しぶりにチェロを披露しているし。

ということは、サウンドは変化に富み、多彩でポップになったのではないかと思われるかもしれない。いやいや、Anekdotenは前作「グラヴィティー」から、それまでの曲にあったような、ヒリヒリするような緊張感からの解放を、より洗練させた形でここに完成させたのだ。

だから従来のAnekdotenさも十分に秘めた上で、曲は自由に作られている。例えば冒頭の曲「The Great Unknown」の凶暴なリフと圧倒的なメロトロンは、インストゥルメンタル作ではないにしても、これまでのAnekdoten的な十分なパワーと魅力に溢れていることがわかるだろう。

様々な楽器を取り入れ、新しい世界を広げつつ、基本のヘヴィーさと暗鬱さは揺るぎもしない。むしろ揺るぎない自信に満ちている。そこがこのアルバムの凄いところだ。

もう一つ特筆すべきところは、その冒頭の曲から顕著なように、ドラムスとベースのリズム隊の一体感、重量感、突進力が、今までに無く凄まじいことである。

もともとドラムスのテクニックには定評があったが、個人的なテクニカルな演奏に走るというよりは、轟音ベースと共に、強烈なリズムアンサンブルを完成させたと言えるだろう。

ある意味普通の演奏である。奇をてらったり超絶ソロ回しとかではない。しかし唸ってしまう素晴らしさ。このリズム隊を聴くだけで血湧き肉踊るのだ。

曲は静かな曲、激しい曲とも、おしなべて叙情的であり暗い。暗く妖しく哀しく美しい。この暗さの深度の振幅の広さこそが、今Anekdotenしか表現できない世界なのかもしれない。

異様な緊張に満ちた過去の作品も傑作であったが、そこに安住せず、自己模倣を繰り返すことを避け、新しい音楽を作り上げた彼らの、これもまた傑作。