2009/10/09

「UT」ニュー・トロルス

原題:UT(1972年)

New Trolls(ニュー・トロスル)


UT」はイタリアのバンド、New Trolls(ニュー・トロスル)が1972年に発表した作品。

New Trollsと言うとまず1971年の「Concerto Grosso Per I(コンチェルト・グロッソ)」が 思い浮かぶが、「Concerto Grosso」は基本的に映画用サウンドトラックとしてLuis Enriquesz Bacalov(ルイス・エンリケ・バカロフ)という映画音楽作家による曲をオーケストラとともに演奏した作品であるという点から見ると、バンドの作品としては異色なものだと言える。

もちろんNew Trollsならではのボーカル・ハーモニーやバンドとしての堅実なアンサンブルが活かされているし、後半に20分に及ぶインワイルドなプロヴィゼーショ ンを含んでいることを考えれば、十分にNew Trolls色が出ていると言える傑作アルバムであることに変わりはない。

しかしNew Trollsというバンド独自の魅力を最大限に表現しているアルバムはと言うと、この「UT」の方に軍配が上がると言えるだろう。本アルバムではキーボード奏者が加わって、5人編成となり、全曲オリジナル曲による多彩な音楽を展開している。

   Nico Di Palo:ギター、リード・ボーカル
   Gianni Belleno:ドラムス、ボーカル
   Frank Laugelli:ベース
   Maurizio Salvi:ピアノ、オルガン、シンセサイザー
   Vittorio De Scalzi:ギター

アルバム冒頭の「Studio」は銅鑼の音から始まるキーボード中心のインストゥルメンタル。流れるようなピアノにストリングス・シンセサイザー、さらに チャーチ・オルガンまで加わってクラシカルなアルペジオを奏でる。そこにも歌心が感じられるところがイタリアらしい。曲はそのまま短いハードインストゥル メンタルナンバー「XII Strada」へ。ここからギターが入り、ハードロック色が加わる。

3曲目「I Cavalieri Del Lago Dell'Ontario」で、New Trolls節全開。不思議な音色のキーボード、ハードロック的なギター、ポップなメロディー、ファルセットを含んだ見事なボーカルハーモニー。やはり 「Concerto Grosso Per I」でも明らかなように、NewTrollsの大きな魅力はこのボーカルとボーカルハーモニーなのだ。


その後、フォーク調の柔らかなボーカルとアコースティックギターが印象的な「Storia Di Una Foglia」、朗々たるボーカルとドラマティックなピアノに導かれ、ジャズロック風ギターソロが聴ける「Nato Adesso」、荒々しいリフから始まり、つぶやくような静かなボーカルをはさんで一気にパワフルなハードロックへと展開する「C'e' Troppa Guerra」と続く。この多彩さ、あるいはごった煮感も「UT」の大きな魅力だ。

ボーカルだけでなくギターも語り合うかのように歌う「Paolo E Francesca」、そしてLPではラストの曲であった「Chi Mi Puo’ Capire」は、まさにイタリアンロックのメロディー&ボーカルの素晴らしさを表現しきった名曲。 壮大なキーボード・オーケストレーションが曲を大いに盛り上げる。

CDでは最後に「Visioni」が収録されているものがあるが、これは1968年夏のディスク・フェスティヴァルへの参加曲(CDのライナーノートよ り)ということなので、言わばボーナストラック。したがって「UT」はLP通りに、ドラマチックなバックに響き渡る素晴らしいボーカル曲「Chi Mi Puo’ Capire」で幕を閉じる。

美しいメロディーと共に、どこか混沌としたパワーをはらんでいて、曲の組み合わせや展開が破天荒気味でも破綻すること無く、アルバム全体として絶妙なバランスでまとめら上げられた作品。

卓越した演奏テクニックとアンサンブルを持ち、ジャズロック的な懐の深さとハードロック的な荒々しさ、そしてクラシカルな流麗さが、バラバラにならずに力強いボーカルの下にまとまった傑作だ。