2010年3月4日木曜日

「ナーサリー・クライム/怪奇骨董音楽箱」ジェネシス

Nursery Cryme(1971年)

Genesis(ジェネシス)


Nursery Cryme」(邦題は「ナーサリー・クライム/怪奇骨董音楽箱」)はイギリスを代表するバンド、Genesis(ジェネシス)が1971年に発表したサード・アルバム。まさにGenesisのイメージとサウンドを決定づけた1枚。

このアルバムからドラムスのPhil CollinsとギターのSteve Hackettが加入し、いわゆる名作群を排出する最強メンバーが揃うことになる。2人とも公募によるオーディションで選ばれたという。

   Tony Banks:オルガン、メロトロン、ピアノ、12弦ギター、ボーカル
   Michael Rutherford:ベース、ベース・ペダル、12弦ギター、ボーカル
   Peter Gabriel:リードボーカル、フルート、バスドラム、タンバリン
   Steve Hackett:エレクトリック・ギター、12弦ギター
   Phil Collins:ドラムス、ボーカル、パーカッション

アルバム・タイトルはnursery rhyme(ナーサリー・ライム:伝承童謡としての歌や詩で、“マザーグース”童謡とも呼ばれる)のrhyme(詩歌)にcry(泣く、叫ぶ)と crime(犯罪、反道徳的行為)を掛け合わせた造語だと思われるが、Genesisのオリジナリティを決定的なものにしたのは、Paul Whitehead(ポール・ホワイトヘッド)による妖しいジャケットデザインの元となった一曲目の「ミュージカル・ボックス」。まさに恐ろしく不気味なnursery rhymeから作られた、非常にドラマチックな曲だ。

ここにGenesisの全てが集約されてい る。Peterの少ししわがれたような個性的で変幻自在なボーカルを中心に、12弦ギターアンサンブル、フルートによるフォーク的味付け、一転してハード なアンサンブルを聴かせるテクニカルなドラムと荒々しいエレキギター、オルガンを中心とした厚みのあるキーボード。それらが一体となって作り出される、緩急の激しい妖しくも魅惑的な亡霊潭物語(ProgLyricsに訳詞あり)。

当時はPeter Gabrielのボーカルを中心としたバンドで、その他のメンバーは皆イスに座って演奏に専念していたと言われるが、そうした生真面目さや偏執狂的作り込みが尋常ではない。ボーカルをサポートする様々な楽器の使われ方が絶妙。 特にアルバム全体で印象的なのがギター、あるいはキーボードによるアルペジオの多用だ。このアルペジオが曲に深みと叙情性を加えていく。

演奏面ではこの時期スタープレイヤーにあたるメンバーはまだいない。テクニック的には皆まだ発展途上といった感じであり、リズムが微妙にずれたり、ちょっとコンビネーションがギクシャクしたりする部分もわずかにある。

けれどもそれがこのアルバムの大きな魅力だと言ってもいいのだ。不思議なことだが演奏力が高まり全体が余裕で流れるようになるその後のアルバムにはない、意気込みのような熱意のようなものが、ここにはうずまいている。

もちろんPhil Collinsのドラムはすでに多彩な表現とダイナミックさを持っているし、Tony Banksのキーボードは、オルガンやピアノによる細やかなメロディーからKing Crimsonから譲り受けたメロトロンによる雄大な世界まで縦横に描き出す。
 
Steve Hackettのギターに多少ぎこちなさが残るが、時にぶち切れたようなソロを聴かせる彼のギターが独特の緊張感をもたらしていることは見逃せない。 ちなみにこのアルバムでSteveは世界初と言われるライトハンド奏法を駆使していると言われる。

ボーカルもPeterの独特な歌唱法が注目されがちだが、かなりの部分でハーモニーが加わり、それがまたこのアルバムの魅力を増している。

どの曲もよく練られており、アンサンブルで聴かせるGenesisの魅力満載だが、ギリシャ神話を題材にしたメロトロンが響き渡るシンフォニック大曲 「The Fountain of Salmacis」でアルバムを締めくくる流れは、トータルな完成度をさらに高める構成となっている。

 1980年代のプログレッシヴ・ロック・リバイバルの動き以来、Genesisフォロワーは現在に至るまで多数生まれてきた。それはGenesisの描き出した世界が魅惑的なものであったことに加え、他のバンドに比べそれほどテクニックに依存していないように聴こえるGenesis的な音が、再現しやすいと思われ たからかもしれない。

しかしこのアルバムを聴いてしまうと、Genesisの音楽は唯一無二、フォロワーには決して真似できない絶妙なバランスとアンサンブルが結実したものであることが分かる。

Genesisのアルバムの中でも妖しさでは突出した1枚。サウンド的にも未完成な荒々しさが、逆に抜群のコンビネーションの中に個性のせめぎ合いのような緊張感を生んでいる、この時期だからこそ生まれ得た傑作。

 



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