2011/02/18

「プレイング・ザ・フール」ジェントル・ジャイアント


■Gentle Giant(ジェントル・ジャイアント)
  

英国の技巧派ロック集団Gentle Giantのオフィシャル・ライヴアルバム。LPでは2枚組として発売されたが、CDでは1枚に収まっている。1976年のヨーロッパツアーの模様を記録したものなので、アルバム的にはほとんどが1975年発表の「Free Hand」までの代表曲で占められている。

アルバムごとに少しずつロック色やファンキー色を取込んできたバンドが、まさにそれらを見事に融合させた傑作アルバム「Free Hand」を完成させて、アメリカでも人気が出てきた時期の、まさに日の出の勢いと言える最高のパフォーマンスを聴くことができる。

   Derek Shulman:ボーカル、アルト・サックス、ソプラノ・リコーダー、
          ベース、パーカッション
   Ray Shulman:ベース、ヴァイオリン、アコースティック・ギター、
          ソプラノ・リコーダー、トランペット、ボーカル、パーカッション
   Kerry Minnear:キーボード、チェロ、ビブラフォン、
          テナー・リコーダー、ボーカル、パーカッション
   Gary Green:エレクトリック&アコースティック・12弦ギター、
          アルト&ソプラノ・リコーダー、ボーカル、パーカッション
   John Weathers:ドラムス、ビブラフォン、タンブール(低音の太鼓)、
          ボーカル、パーカッション

左からDerek、Ray、John、Gary、Kerry
   
このメンバーの使用楽器を見ても、Gentle Giantの特徴である“マルチプレーヤーによるマルチプレー”がステージ上で再現されていたのか興味が湧くところだが、驚くべきはライヴ用にさらにアレンジされた楽曲が、一糸乱れぬアンサンブルで演奏されていくことであろう。

演奏の基本フォーマットはDerek:ボーカル、Ray:ベース、Kerry:キーボード、Gary:ギター、John:ドラムスというオーソドックスなものだが、これが曲によって、例えばRayがヴァイオリンやトランペットを担当すると、Derekがベースを弾く、みたいなことが極々自然に行なわれる。しかしながら「Playing the Fool(道化を演じる)」というタイトルとは裏腹に、こうした見た目の奇抜さや面白さが見えなくても、十分魅力的な音楽であることには変わりがない。

つまりこうした「メンバーが複数の楽器を持ち替えて演奏する」とか「全員がパーカッションを叩いたりリコーダーを吹いたりする」とか言った“大道芸的”、あるいは“見せ物的”な部分に話題が行きがちだけれど(それは確かに凄いことなんだけど)、それは単に「道化を演じてみせてるだけさ」とでも言っているようで、むしろ圧倒的な魅力として伝わってくるのは、そのアンサンブルの見事さである。バンドの本質はあくまでそこにあるのだ。

アンサンブルの見事さは、スタジオアルバムですでに折り紙付きである。では既発曲からなるこのライヴ・アルバムの魅力とはなんだろう?

まずそのアンサンブルの魅力が、スタジオアルバムとちょっと違うのだ。スタジオアルバムの場合は、曲やアルバム全体のサウンドをコントロールする上で、様々な楽器や音の定位をバランス良く、ある時には刺激的に配置している。だから複雑なアンサンブルと音の重なりが、聴く者を迷宮に誘い込むような魅力がある。

それに対してこのライヴでは、基本的にメンバーの立ち位置から担当楽器の音が聴こえてくるような、まさにライヴ的な定位で音を聴くことができる。その分各メンバーの役割や演奏の絡み具合がわかり易いのだ。

具体的にはおおまかに向って左からGary(ギター)、Ray(ベース)、Derek(ボーカル)、John(ドラムス)、Kerry(キーボード)という感じで音が定位されている。ベース&ボーカル&ドラムスは、ほとんど中央である。楽器の持ち替えやサウンドのバランスで当然動くんだけれども、比較的この配置が固定されている。ちょうど、驚きの映像が楽しめるDVD「Live: Giant on the Box」などに見られる配置と同じだ。

するとGary(ギター)とKerry(キーボード)のまさに一体となった体位的アンサンブルの見事さが浮き彫りになるのだ。もうその息の合い具合は、ため息が出るほど素晴らしい。特にGentle Giantの場合はソロ回し的なことはやらないので、いかに複雑なことを正確に、そして丁寧に演奏しつつ、流れるようなサウンドを構築しているかが伝わってきて、とてもスリリングなのだ。

このライヴの魅力はもちろんそれだけではない。よりロック色というかライヴ色を強めるためか、線が細く美しい声が魅力のKerryが歌っていたパートを減らし、Derekが全体のリードボーカル的役割を強く担っているのも特徴だ。ボーカルタイプとしてはKerry/Derek=聖/俗みたいな感じがあったが、よりパワフルなサウンドを目指したライヴ用アレンジだと言える。

さらに楽曲的にも「Excerpts from Octopus(アルバム「オクトパス」からの抜粋)」が、リコーダーアンサンブルを含む息をつかせぬ目まぐるしい展開で、既発曲の抜粋を越えた、15分を越える一つの大曲としての魅力をたたえているし、4声のアカペラを含む難曲「On Reflection」完全再現なども、ライヴバンドとしての実力を見せつけてくれる。

スタジオアルバム以上の躍動感で迷宮を疾走する80分。傑作。

ちなみに前述のDVD「Live: Giant on the Box」を見ると、メンバーがこれだけの難曲をとても楽しそうに演奏しているのがわかる。基本をあくまでロックなグルーヴに置いているのだ。
  
楽器の持ち替えも映像的な面白さであるが、個人的にはアクセントをずらしながらパワフルなリズムを叩くJohnの個性的なキャラクターが印象的だった。カメラ目線でひょうきんなところを見せるのも良い、それも曲を演奏しながら。ちょっとGentle Giantのキャラクターにも似てるし…。