2011/03/05

「イン・ザ・ミスト・オブ・モーニング」ノルダガスト

原題:In the Mist of Morning(2010)

■Nordagust(ノルダガスト:ノルファグスト)

ノルウェーの新鋭バンドNordagustのデビューアルバムである。オリジナルは2007年にデモCDとして制作されたもので、その後契約することになったカリスマ・レーベルによってリミックスとマスタリングをし直して、2010年に正式に発表された。クオリティー的にはデモだったことが信じられないくらい、完成された音である。いかにも北欧らしさに溢れた、バンドの強烈な個性が感じられる作品なのだ。

   Daniel "Solur" Solheim:リード・ボーカル、ギター、キーボード、
        サンプリング
   Ketil Armand "Bergur" Berg:ドラムス、カンテレ
   Knud Jarle "Strandur" Strand:ベース、ビジネス
<ゲスト>
   Agnethe Kirkevaag:ボイス

バンドのサイトを見ると、さらにダルシマーやマンドリン、サローフルート(ウィローフルートとも呼ばれるスカンジナビア半島で使われる民族楽器)はては斧、ハンマー、石臼、やかん、樽なんてものまで“担当楽器”の欄に書かれている。その他水の音、風の音などの自然音も効果的に使われている。

  
そのサウンドであるが、同じ北欧のAnekdotenが“暗鬱”であるならば、このNordagustは“悲壮”、あるいは“絶望”と言えるんじゃないかと言うほどに、サウンドも歌詞も暗いのが特徴だ。もう相当暗い。落ちるところまで落ちてしまいそうに暗い。

悲壮感あふれるボーカルが曲を引っ張っているため、スウェーデンのAnekdotenやAnglagardなどと比べメロディーが明確で、「歌」として聴くことができる。しかしバックを埋め尽くすメロトロン系サウンドの悲壮さ。ある意味メロトロンオーケストラが通奏低音のように流れ続ける。Anekdotenのように、ここぞとばかりに理想的な使われ方がされるのとは違い、全編を暗く覆い尽くす。

そこにロバート・フリップが叙情的な表現で使うような、硬質ながら流れるような美しいギターが被さっていく。表面的な荒々しさやアナーキーさはないが、ちょっと胸が苦しくなるほどのドラマチックな悲壮感が、アルバムに満ちているのだ。

その暗さや悲壮さは、インナースリーヴに見られる北欧の凍てつく風景に良く似合う。雪と霧に覆われたモノクロームな大自然。その神秘性や人知を越えた存在感の強烈さ。Nordagustの音には、そうした畏怖される北欧の大自然が息づいているかのようだ。特殊な楽器や身近な道具類は、土着的フォークソングの流れを感じさせ、音楽に幅と深みを与えている。

しかしこの悲壮感はタダモノではない。ある意味強烈な個性で最前線へ躍り出た、プログレッシヴ・ロックバンドじゃないだろうか。好き嫌いは別にして。傑作である。

なお現在は女性2人を含む3人を新たに加え、6人編成で活動しているようである。新しい編成により音がどう変化していくのか、とても楽しみなバンドだ。