2009/07/23

「火星年代記」

Marsbeli Kronikak(1984年)
Solaris(ソラリス)
「Marsbeli Kronikak」(邦題は「火星年代記」)ハンガリー出身の5人組の1984年のデビュー盤。英語タイトルとしては「 The Martian Chronicles」。グループ名はStanisław Lem(スタニスワフ・レム)の小説「Solaris(ソラリスの陽のもとに)」から、そしてアルバムタイトルはRaymond Douglas Bradbury(レイ・ブラッドベリ)の小説「The Martian Chronicles(火星年代記)」から取っていると思われる。

どちらもSFの代表的な小説なので、SF的な作品をイメージさせられるが、オールインストゥルメンタルであるため、歌詞による物語的なトータル性はない。

しかしアルバム収録曲46分のうち、半分の23分がアルバムタイトル曲「Marsbéli Krónikák」のパートI〜VIという大曲となっており、残りの曲のタイトルも含めると、音楽的なトータル性は高いアルバムになっている。

 Istvan Czigman:ギター、シンセサイザー、キーボードイフェクト、
     パーカッション
 Robert Erdesz:ピアノ、オルガン、シンセサイザー、
     キーボードイフェクト
 Laszlo Gomor:ドラムス、パーカッション、シンセサイザー
 Attila Kollar:フルート、リコーダー、シンセサイザー、
     キーボードイフェクト、パーカッション、ボーカル
 Tamas Pocs:ベース
《ゲスト》
 Casaba Bogdan:ギター
 Gabor Kisszabo:ベース
 Ferenc Raus:ドラムス、パーカッション
 Vilmos Toth:パーカッション
まず基本的には、ギター、ベース、ドラムス、キーボード、フルートの5人がメンバーであるが、キーボード奏者以外の3人がシンセサイザーを兼任している。そしてこのシンセサイザーが大きな特徴となっているのだ。

1983年と言えば時代的にはプログレッシヴ・ロックはすでに音楽のメインストリームから離れて苦しい立場に置かれていた。さらに東欧ハンガリーとなれば、自由化前の社会主義体制下。

しかしこのバンドは強烈な個性とテクニックで、アルバムの最初から最後まで、途切れることのない緊張感を持続させながら疾走する。イギリスのポンプ・ロックのラインではない。1970年代の勢いをそのまま1980年代に持ち込んだようなサウンドだ。

特徴となっているシンセサイザーであるが、80年代的に、ポリフォニックなキーボードとして使うというようりは、70年代のモノフォニック的な太い音と極端なビブラートなどを全面に出して、当時心躍った“新しい電子楽器シンセサイザー”の魅力を再現しているところが素晴らしい。

冒頭の曲は、プログラムされたシーケンスをこの力強いシンセサイザーが鳴り響く不気味な曲。ドラマチックでクラシカルなメロディーの繰り返しに、宇宙人のような声がSEとして重なり、何ともいい味を出している。

フロントを担うのは基本的にはこの特徴あるシンセサイザー、そしてハードロック的なギター、さらにカミソリのようなフルート。メロトロンやオルガンなどは聴 こえてこない。しかし混成合唱なども入り、曲はどれも雄大で音の薄さなど微塵もない。むしろ単音シンセの旋律を重ねる(和音ではない)ことで、曲の厚みと ダイナミズムを作り出している。

さらにフルートの鋭さ。トーキング・フルート的な部分は皆無。ひたすら繊細にそして強靭に、美しく力強い音で抜群の存在感を示す。ギターやキーボードをバックにメロディーを歌い上げる。静かでクラシカルなパートだけでなく、ハードな曲でも他のリード楽器に退けを取らない。

そしてキレのあるドラムと細かく動くベースが、疾走感と緊張感を高める。シンセ主体の曲でもフュージョン的にならないのは、このリズム隊の突進力、そして東欧的な暗く叙情的なメロディーによるためだろう。

オール・インストゥルメンタルながら、その後のプログレメタル的なテクニカル至上主義な部分はなく、色彩豊かな世界を描く、まさに1980年代だから生まれたプログレッシヴ・ロックミュージックの傑作。このシンセサイザーとフルートは必聴。。

尚、アルバム最初の曲で聴かれる宇宙人(火星人)のような声は、ハンガリー語で次のように言っている(
Wikipediaの英文より。translated by TAKAMO)。
 割れた鏡
 すすで汚れた鉄の壁
 死んだように動かない大量のゴミ
 そして汚染された湖
 君は、かつて人類がこの地に住んでいたと言うのかい?
 
 
Megrepedt tükrök (Cracked mirrors)
 Kormos acélfalak (Sooty steel walls)
 Halott szeméthegyek (Dead piles of garbage)
 És szennyes tavak (And polluted lakes)
 Azt mondod, itt élt valaha az ember?
(You say mankind used to live here?)

バンドは1999年、なんと15年ぶりに「Nostradamus」という作品を出している。こちらも混声合唱をメインとした20分を越える大作「Book Of Prophecies」を中心とした傑作である。


「秘なる海」

Enigmatic Ocean(1977年)

Jean-Luc Ponty(ジャン・リュック・ポンティ)


「Enigmatic Ocean」(邦題は「秘なる海」)はフランス人のヴァイオリニストJean-Luc Ponty(ジャン・リュック・ポンティ)による1977年の作品である。

Jeanはクラシックの素養を持ちながらジャズ・ヴァイオリスととしてデビューし、1960年代はジャズ・ヴァイオリニストとして活躍。

1970年代、Frank Zappa(フランク・ザッパ)のバンドやJohn McLaughlin(ジョン・マクラフリン)のマハビシュヌ・オーケストラへの参加を経てソロ活動を開始し、エレクトリック・ヴァイオリンをメインに置いた独自のジャズ、ジャズロック、フュージョン関連のアルバムを出していく。その中でも充実した共演者もあって、最高のジャズ・ロックアルバムとなったのが本作。

 Jean-Luc Ponty:エレクトリック・ヴァイオリン、ヴァイオリン
         ヴィオレクトラ、ベル、ピアノ
<参加ミュージシャン>
 Allan Holdsworth:リード・エレクトリック・ギター  
 Daryl Stuermer:リード&リズム・エレクトリック・ギター  
 Ralphe Armstron:エレクトリック・ベース  
 Allan Zavod:オルガン、シンセサイザー、エレクトリック・ピアノ、
       グランド・ピアノ、クラヴィネット
 Steve Smith:ドラムス、パーカッション


ヴァイオリンはエレクトリック主体で、いわゆる生ヴァイオリンのキュッキュッというようなアコースティックさはない。むしろ逆に一聴するとキーボードに似ている音色。ただやはりヴァイオリン的な柔らかさは残っており、ソロでの艶やかさもさることながら、硬派のDariyl Stuemer(ダリル・ステューマー)のテクニカルなギターや、Allan Holdsworth(アラン・ホールズワース)のタメの効いた独特なギターと対等に張り合うテクニカルなプレイは圧巻。

構築された曲と して、決められた基本メロディーとリズムの上で、ソロ回しをしたり、その延長でインタープレイがあったりという構成なので、曲としても分かり易く取っ付き易い。その分、インタープレイでの壮絶なテクニカル合戦が実にスリリング。リズム隊もタイトながら重く、ロック色が濃い。

組曲は2つあり旧LP時代A面最後の「Enigmatic Ocean」、そしてB面最後の「The Struggle Of The Turtle To The Sea」。それぞれ10分を越える曲だ。まず「Enigmatic Ocean」は、PART I の雄大なイントロに導かれてスタート、PART IIは非常にスピーディーな曲。リズム隊の安定した気持ちいいノリの上をヴァイオリン、ギター、キーボードが次々とソロを展開する。そしてここでAllan Holdsworthの粘っこいギターが初登場し、強烈な個性を披露する。

PART IIIはテンポを抑えて、各プレーヤーのソロプレイをじっくり聴かせる。まずAllanが弾きまくる。そしてJanのヴァイオリンが後を受け伸びやかなソロを展開。PART IVで曲は再びPART IIをリプライズ。

「Nostalgic Lady」はJanのメロディックなプレイを堪能できるゆっくりめの曲。ここでもAllanのスローなテンポに乗せた、滑らかな早弾きソロが聴ける。

1977年という、時期的にはプログレッシヴ・ロックは曲がり角に来ていて、パンク・ロック、ニューウェーヴへとロック界の興味が移り変わるところ。本作はそのプログレッシ ヴ・ロックの流れから出てきたものではなく、ジャズが70年代に入ってエレクトリック・ジャズへと広がりを見せ、やがてフュージョンへと変化していく過程で生み出されたものと言える。

したがって組曲形式などをとっていても、基本的に難解なところはなく、美しいメロディー、タイトなリズム、 テクニカルなソロ回しが基本である。アルバム最後の組曲「The Struggle Of The Turtle To The Sea」でも、わかりやすいメインテーマを軸に、Zavodのシンセソロ、Janのテクニカルなヴァイオリンソロ、Ralpheのファズの掛かったベースソロ、Darylのロック的なギターソロ、そしてAllanの硬質でなめらかなギターソロが次々と展開していく。ところどころで聴かれるユニゾンも光る。

全員十分なテクニックと歌心を持っているから、曲の出来のよさと相まってとても魅力的な内容になった。リードを取れるメンバーが多いが、バランス良くプレーヤーの良さが引き出されている。ただフロントでソロが始まると、他のメンバーはバックにまわってしまうので、複雑なインタープレイやヒネリやクセのある楽曲ではないところはプログレッシヴ・ロック的に見ると少し物足りないか。

でもやはりJanの正確で卓越したプレイと、Allanの独特なギターが持ち込んだ緊張感が、アルバム全体を引き締めている。ジャズロックの傑作。


2009/07/22

「美狂乱」

美狂乱(1982年)

美狂乱(びきょうらん)


King Crimsonの1970年代前半のパワーと革新性は飛び抜けていたし、ライブでの迫力とインプロヴィゼーションの創造性も圧倒的だった。特に Robert Frippのギターは、何か強大な闇の力と格闘し、ギリギリのところでコントロールしながら音にしているような凄さがあった。

同じように闇の力と格闘しながら、音楽を作り出すグループが日本にもある。“日本のCrimson”と呼ばれることもあったバンド、美狂乱(びきょうらん)である。アルバム「美狂乱」は1982年のデビュー作だ。

 須磨邦雄:ギター、ボイス
 白鳥正英:ベース
 長沢正昭:ドラムス
[ゲスト]
 中西俊博:ヴァイオリン
 中島優貴:キーボード
 小出道也:リコーダー

1曲目の「二重人格」は、まさにKing Crimsonの「Lark's Tongues in Aspic part 1」を思わせるギターとパーカッションによるイントロから始まる。そしてギター、ベース、ドラムスという最小ユニットによる白熱の演奏が繰り広げられる。 ドラムの緊張感あるプレイとベースの一定のリズムを中心に、ギターが荒々しい世界を作り出し、じわじわと彼らの世界が姿を現す。

音程が少々不安定ながら、高音でよく通るボーカルも 存在感があって魅力。しかしやはりFripp的なギターの音がサウンドの核となる。ヴァイオリンの美しい調べに続く、つややかなギターソロはまさに Fripp。しかしそこには美狂乱ならではの日本的な美しさが漂っている。そして縦横無尽なギターソロへ突入。安定したリズム隊に支えられて、ギターが闇の力を導き出す。

キーボードとアコースティックギター、ヴァイオリン、そして多重録音されたリコーダーによるクラシカルで穏やかなインストゥルメンタル曲や、わずか2分に満たないにもかかわらずギターがもの凄い集中力で速いパッセージを弾く密度の濃い曲など、どれも曲の完成度が非常に高い。

「ひとりごと」ではラフでダルな感じのギターリフとつぶやくようなボーカルがまた、ちょっと退廃的な雰囲気を持ち込んでいて、独特な妖しさを醸し出している。

そして最終曲「警告」は14分の大作。美しいヴァイオリンに導かれて始まるこの曲は、前半をボーカルが占める。荒いハーモニーがいい感じだ。合間に入るギター ソロも官能的。曲は一転、ギタートリオによるスリリングなアンサンブルへ。パーカッションのみの幽玄な中間部をはさんで、ギターがテンションの高いソロを 繰り出すクライマックスへ突入。リズム隊の集中力もすばらしい。

美狂乱の音は、 King Crimsonに確かに似ている部分はある。しかしKing Crimsonが壮大な世界を強力なプレイで作り上げていくのとは異なり、美狂乱には、閉ざされた空間の中で強烈なエネルギーの放射を受けるような、別の魅力がある。

ライブのすばらしさで有名なバンドであるが、このアルバムでは、静かなテンションを持続するリズム隊に切り込む熱いギターや、丁寧に構成された他の楽器とのコラボレーションが魅力だ。もちろん傑作。

より白熱した演奏やインプロヴィゼーションを求めるなら「風魔 Live vol. 2」「"乱" Live Vol. 3」。音質に難はあるが、どちらも超強力版。Crimson色を残しながら、他の追随を許さない高レベルな実験的組曲を作り上げたセカンド 「Parallax(パララックス)」も傑作。