2009/08/04

「ウドゥ・ヴドゥ~未来からの鼓動」

Üdü Wüdü(1976年)

MAGMA(マグマ)


Üdü Wüdü」(邦題は「ウドゥ・ヴドゥ~未来からの鼓動」)はフランスの化け物的ロックグループMAGMA(マグマ)の1976年の作品。

MAGMAは
1975年から1976年にかけてツアーを行い、LIVE」や「Theatre du Taur - Toulouse 1975」という傑作アルバムを残している。ツアーは、直前までリーダーのChristian Vander(クリスチャン・ヴァンデ)と共にMAGMAのリズムを支えていたベーシスト、Janik Top(ヤニック・トップ)から、Bernard Paganotti(ベルナール・パガノッティ)に交替した時期のもの。

そしてそのツアーの勢いを保ちつつ再びJanik Topを迎えて、新たな方向に進み出したアルバムがこの「Üdü Wüdü」である。

 Klaus Blasquisz:ボーカル
 Stella Vander:ボーカル
 Gabriel Federow:ギター
 Tatrick Gauthier:キーボード
 Bernard Paganotti:ベース
 Janik Top:ベース
 Christian Vander:ドラムス

ベースにBernard PaganottiとJanik Topがいるが、Bernard Paganottiは2曲目「Weidorje」でプレイしているのみで、基本的にはJanik Topが復帰したと考えてよい。あるいはJanik Topの全面的な協力を得たChristianのプロジェクト的な状況だったのかもしれない。

そして専任ギタリストがいない。
ライヴで驚異的なヴァイオリンを披露していたDidier Lockwood(ディディエ・ロックウッド)もいない。
アルバムタイトル曲である1曲目「Üdü Wüdü」で、この編成の答えがわかる。何と期待を裏切るかのようにこの曲ではChristian Vanderのドラムが聴けないのだ。

代わりにピアノが中心となって奏でるアフロのリズムがミニマルに続く中、ボーカル、コーラス、そしてブラス(トランペット、サックス)、パーカッションが音を重ねていく。そう、微妙にアフロ・ファンク色が出てきたアルバムなのだ。


ところがこれが良いのだ。正直ライヴを聴くのは至高の体験ではあるが、そのための気力やエネルギーが聴き手にも要求される。しかしこの
曲「Üdü Wüdü」は、MAGMAらしさを残しつつ、聴きやすい。心地よいとさえ言える。同様に2〜4曲の小曲は、ベースとコーラスを中心とした曲が並ぶ。ドラムスも抑えたプレイに徹している。

しかし音は紛れもなくMAGMAの音なのだ。それも余裕と深みのある音。重みは保ちながら分かり易さが増した音。妖しさもしっかり残っている。
異教的不気味さも依然として漂う。そしてJanik Topのベースが次第に存在感を増していく。

そしてついに
Christian Vanderのドラムスが炸裂するのが、旧LPのA面ラストの小曲「Zombies (Ghost dance)」。暗黒重低音リズム隊始動である。

この曲をブリッジにして、1〜4曲までの静かに燃えるマグマから、ライヴを彷彿とさせる、噴出するマグマへとアルバムは転換していく。それが旧LPのB面全てを費やした18分近くに及ぶ大曲「De Futura」だ。


この「De Futura」Christian(ドラムス)、Janik(ベース、シンセサイザー等)Klaus(コーラス)の3人のみで作られている。音数もそれほど多くない。それなのにこの音の厚み、密度の濃さ。そして重たい。とにかく重い。巨大な建造物がゆっくりと動き出すような重量感と驚異。

そして緊張感は途切れることなく、次第にリズムは疾走しプレイは白熱していく。ギター、ヴァイオリンといった高音域の音を配し、重低音高速リズムによるエネルギーの固まりとなり、ライヴに匹敵する高みへと聴く者を引き上げていく。

アフロ・ファンクな新たな魅力と暗黒へヴィネスが同居するアルバム。
バンドとしては過渡期的ではあるが、紛れもない傑作。

ちなみに
「De Futura」はJanikが元々はオーケストラ用に書いた曲だそうで、1975年10月17日に一度だけ大編成で演奏されているらしい(「Marquee 048」(マーキームーン社、1993年)より)。指揮はもちろんJanik Top。しかしアルバム化はされていない…。

 

2009/08/02

「地底探検」

Journey to The Centre Of The Earth(1974年)

Rick Wakeman(リック・ウェイクマン)


Journey to The Centre Of The Earth」(邦題は「地底探検」)は、Yes のメンバーとして「Fragile(こわれもの)」と「Close to the Edge(危機)」という傑作を立て続けに出し、「Tales From Topographic Oceans(海洋地形学の物語」への不満からYes脱退に至る1974年発表のソロ第2作目。

1st ソロアルバムの「The Six Wives of Henry VIII(ヘンリー8世と6人の妻)」(1973年)が、バンド形式のコンパクトな編成で、Rick Wakeman(リック・ウェイクマン)の多彩なキーボードプレイを堪能できたのとは、全く違ったコンセプトで作られた大作。

ジュールベルヌのSF小説「地底探検」を元に、ストーリーに沿って音楽化したもの。ロック色の強い交響的物語だ。

Rickのキーボードは魅力的なソロを取るが、朗々と歌うメイン歌手のようで、役割としては全体の一部をなすに過ぎない。それでもRick Wakemanの作品と思えるほどに全体のRick色は強い。まさにカリスマ的な勢いを感じさせる作品。

 Rick Wakman:キーボード、作詞、作曲
<バックバンド>
 Mike Egan:ギター
 Ashley Holt:ボーカル
 Garry Hopkins:ボーカル
 Roger Newell:ベース
 Barney James:ドラムス

 David Hemmings:ナレーション
 ロンドン・シンフォニー・オーケストラ
 イングリッシュ・チェンバー・クワイアー(室内合唱団)

これだけの大所帯でのドラマティックなサウンドを、なんとロイヤル・フェスティバル・ホールでのライヴ録音というかたちで完成させたのだ。

プログレッシヴ・ロックの大仰さや冗長さが批判されることがある。ある意味、そういったターゲットになりやすい作品とも言える。なぜこんな豪華な顔ぶれを集める必要があったのか。あるいはなぜオリジナルストーリーではなく「地底探検」というSFを使う必要があったのか。

しかし音を聴けばそうした表面的な批判や疑問は吹っ飛んでしまうだろう。わたしはまずRick Wakemanのムーグの音にやられた。深く太く、他を圧倒する音で、甘美なメロディーを奏でたときのスゴさ。それはテクニックとかを通り越したキーボー ド体験、というかシンセサイザー体験であった。わたしは思った。「全てはこの雄大で神秘的な音を出すためだったんだ、きっと…。」

Rick のキーボードを主役にしながら、フロントに立つのはフルオーケストラだったり、合唱団だったり、そしてRickのサポートバンドであったりと、展開も目まぐるしく、それでもとても自然に各パートがつながっていく。もちろん所々に挿入されるナレーションも良い味を出しているし、物語の進行にも大きく役立って いる。

バンドメンバーもタイトな演奏を聴かせ、中でもツインボーカルがそれぞれ甘い声と固めの声という特徴を活かして、曲の緩急を上手く歌い分けて表現している。このボーカルも作品への貢献度が高い。

恐らくライブ録音ということもあり、かなりの緊張と意気込みを持って作品は作られたであろう。そのために多くの時間と労力が費やされたはずだ。このアルバムには表面的な華麗さ、豪華さの陰に、そうした本来異質な集団が一つのものを作り上げようとする情熱を感じる。

そのせいか、同じようにオーケストラや合唱団を使ったロックとクラシックの融合的作品の中では、異質さがそのままぶつかっているような、ザラついた感じが残っている。そこがいいのだ。

オーケストラを前にキーボードの要塞の中で長髪に銀色のマントを身にまとい、支配者のように全体を仕切りながら次々とメロディーを紡ぎ出す姿。それが決してコミカルでも時代錯誤でもなく、神秘さとして感じられるだけの存在感を、当時の彼は持っていた。この時期のRickだからこそ作れた希有な作品。「Battle」でのキーボードソロなんかもうたまりません。傑作。

当時ラジオを聴いていたら、日本の有名なキーボード奏者がこの作品への感想を聞かれて「できることなら1度で良いからやってみたいですよね」というような発言をしていたのを思い出す。キーボード奏者的な視点からみたら、演奏するのは気持ち良さそうだけれども作品としてはどうなのっていう感じだったのだろう。

このアルバムは確かにRick Wakemanのソロアルバムではあるけれど、キーボードプレイだけ聴いていたのではダメなのだ。全体のアンサンブルとして聴かないと面白みは伝わらない。その中で彼の音に酔う。絶妙な音色に酔う。これが聴き方だ。

おまけは、当時持っていた「地底旅行」(創元推理文庫)です。この作品を聴くといつも思い出してしまう表紙(右図)。これまたインパクト強し。

 

2009/08/01

「鳥人王国」

Birds(1975年)

Trace(トレース)


Birds」(邦題は「鳥人王国」)は、オランダのキーボード・トリオ、Trace(トレース)が1975年に発表した2ndアルバムである。

キーボードをメインとしたトリオと言えばEL&P(エマーソン、レイク&パーマー)、あるいはYesの「Relayer」にのみ参加したPatric Moraz(パトリック・モラーツ)を擁するRefugee(レフュジー)などが思い浮かぶ。

しかしそのクラシカルな曲調と、それを支える高度なプレイは“武闘派”EL&Pとも、ボーカルも重要な役割を果たし、全体としてロック色の強い Refugeeとも異なる。Focus(フォーカス)を生み出した国オランダである。非常にクラシカルな香り漂うキーボード・ロックが堪能できる。

 Rick Van Der Linden:キーボード
 Jaap Van Eik:ベース、ギター、ボーカル
 Ian Mosley:ドラムス、ティンパニー、ゴング、タンバリン
<ゲスト>
 Darry Way:アコースティック&エレクトリック・ヴァイオリン

Darry Way(ダリル・ウェイ)はWolf(ウルフ)やCurved Air(カーヴド・エア)などで活躍していたロック・ヴァイオリニストの第一人者。1曲のみでの参加で、残りは全てトリオによる演奏。旧LPのA面を占める小曲群は全てインストゥルメンタルだ。

何と言ってもRick Van Der Linden(リック・ヴァン・ダー・リンデン)のプレイが素晴らしい。ピアノ、ハープシコード、クラヴィネット、ハモンド・オルガン、チャーチ・オルガ ン、A.R.P.シンセサイザー、ソリーナ、メロトロンと、実に多彩なキーボードをセンスよく織り交ぜて、分厚い音の嵐というよりは、バロック的室内音楽 のような、スリリングな中にも端正な落ち着きのある世界を作り出す。

最初の曲はバッハの「イギリス組曲:第2番イ短調」の一部を採用した「Bourrée」。曲の始まりとともに走り出すオルガンとハープシコードの正確で余裕さえ感じられる高速ユニゾンに、Rickの力量の高さがうかがわれる。

Rick のプレイはクラシカルなテクニックを基礎にしてはいるが、テクニック優先で弾き倒すというより、とてもバランスよく様々な楽器を使い分け、クラシックのみならずジャズ的なプレイも混ぜながら、多彩で意外な曲展開を作っていくことが特徴。全体的にはクラシカルな印象が強いが、「Janny」は ジャズピアノ・ソロだし、「Penny」なんてメランコリックなフレーズが印象的なジャズ・ピアノトリオだ。懐の深さがわかる。

「Opus 1065」では、静かに鳴り響くメロトロンをバック夢見るような奏でられるピアノ、そして不思議なメロディーのシンセサイザーと、次々と多様な音色が登場 する。Darry Wayがプレイに参加すると、突然ピアノとバイオリンによるクラシックになったりと、次の展開が予測できない。

Rick の多彩な演奏を支えているのは、ロックにもジャズにも、そしてクラシックにも対応するベースとドラムス。特にロック的な部分を担うのはIan Mosley(イアン・モズレー)の、ロールを多様しながらの力強く表情豊かなドラミングだ。

しかしIanのドラミングは音色的には低音部が薄いこともあり、ベースのJaap Van Eik(ヤープ・ヴァン・エイク)の動きが尋常ではない。低音部でリズムを支えるだけでなく、クラシカルな場面では 低音部のカウンターメロディーを高速で奏でることもしばしば。彼のプレイが曲に厚みと奥行きを与えていると言えるだろう。

そして3者の個性が最大限に発揮されるのが、旧LPB面を占める22分に渡る組曲「King-bird(組曲:鳥人王国)」だ。いくつものパートに分かれ、次々とリズムチェンジ を繰り返しながら、ロック、ジャズ、クラシックのそれぞれの要素が現れては消えていく。しかし全体は実にスムーズに流れ、Jaapが担当する最初と最後の ギター、中間部のボーカルがよいアクセントとなっている。

Rick Wakemanのようなケレン味たっぷりなソロはないし、Keith Emersonのような攻撃的な音も複雑な変拍子もない。華麗なパート、スリリングなパートも含めて、多様な要素を織り込み個性的に構成された曲が、とてもコントロールされたプレイで丹念に演奏されていく感じ。

しかしそこに見られる余裕のような部分に、音楽的な豊かさを感じるのだ。そして3人の醸し出す静かな緊張感と、時折聴かれるハッとするような美しいフレーズ。

タイプは異なるが、やはりオランダのFocusに通じるRickの音楽的素養の深さを感じる。しかしRickの独り舞台ではなく、3人のメンバーが揃ったからこそ作り上げることができたと言えるキーボード・ロックの傑作。

“シンフォニック”ではなく“クラシカル”な点がポイントです。