Il Paese Dei Palocchi
(イル・パエーゼ・デイ・バロッキ)
「Il Paese Dei Balocchi」(邦題は「子供達の国」)は、イタリアのナポリ出身のバンド、Il Paese Dei Balocchi(イル・パエーゼ・デイ・バロッキ)が1972年に発表した唯一の作品。
原題の意味は「The Country of the Toys(おもちゃの国)」。
Fabio Fabiani:ギター
Marcello Martorelli:ベース
Sandro Laudadio:ドラムス、ボーカル
Armando Paone:キーボード、ボーカル
メンバー以外に、Claudie Gizzi(クラウディ・ジッツィ)という人物のアレンジによる、美しいバロック風管弦楽が効果的に使用されている。
1曲目「夢の国へ」はキーボードとギターのユニゾンが力強いハードなロックアンサンブルで幕を開ける。しかし曲調にはクラシカルな端正さが宿っている。
そしてそのリズムを引き継いで、演奏は突如バンドから管弦楽団にバトンタッチする。この瞬間の美しさは感動的である。弦が同じリズムを刻む。そして同じメロディーを歌う。すでにクラシック音楽と化している。わずか2分半の曲。しかし強烈な印象を残す曲だ。
このアルバムはこうした短い曲が10曲並び、ロック的な荒々しさと管弦楽団によるクラシカルな美しさとが混在しつつ進んでいく。
しかしロックアンサンブルに感じられる荒々しさにもかかわらず、アルバム全体は奇妙な静けさに満ちている。音に埋め尽くされたサウンドではなく、音の隙間の多い、情感の詰まった音楽なのだ。
特にアコースティックな音が響くと、まさに夢の国を思われる穏やかで幻を見るような情景が広がる。2曲目のハードな展開に続く3曲目「希望の歌」の美しさも素晴らしい。悲しみに満ちたメロディー、静かに歌い上げるボーカル。サポートするストリングス。
そして4曲目「逃亡」。バンドの、そしてアルバムの特色が一番現れているといえるこの曲は、雄大でありながら、何とも言えないひなびた田舎道を行くような独 特な世界を描き出す。淡々としたバンドの演奏に静かな波のように被さってくるストリングス。どこか懐かしい空気を感じさせる、とても繊細な感情を捉えた曲 である。
ひなびた空気、悲しみをたたえた感情は5曲目の「子供達の国」のファゴット独奏へと引き継がれ、キーボードとフルート(ピッコ ロ)のアンサンブルが繰り返され、幻想的な世界へと引き込まれていく。6曲目「子供達との出会い」では後半、ざわめきの中からアカペラが始まる。素朴さと 美しさは7曲目の管弦楽パートへつながっていく。
こうして細かく分けられた曲が、実に良くつながり、全体として何とも言えないミステリアスさとのどかさが同居するような雰囲気を作り出す。テクニカルで熱い典型的なクラシカルロックスタイルとも、暗く荒々しい音に満ちたヘヴィロックスタイルとも異なる、唯一無二の世界だ。
一聴した印象は地味なものだと思う。しかし聴けば聴くほどその内省的な世界の深さが味わえる傑作。