2009年8月15日土曜日

「恐怖の頭脳改革」

原題:Brain Salad Surgery(1973年)

Emerson Lake & Palmer(エマーソン、レイク&パーマー)


Brain Salad Surgery」(邦題は「恐怖の頭脳改革」)は、イギリスが誇るキーボード・トリオ、Emerson Lake & Palmer(エマーソン、レイク&パーマー)の1973年の作品。

3人のプレーヤーがそれまで築き上げてきたキーボード・ロックの手法に自信を得て、持てる力を注ぎ込んだで作り上げた、彼らの到達点だ。

 Keith Emerson:オルガン、ピアノ、ハープシコード、
        アコーディオン、ムーグシンセサイザー
 Greg Lake:ボーカル、ベース、ギター
 Carl Palmer:パーカッション、パーカッション・シンセサイザー

アルバムは荘厳な「Jerusalem(聖地エルサレム)」で幕を開ける。EL&PというとどうしてもKeith Emersonの派手なアクションと高度なキーボード・プレイに目や耳が行きがちだが、EL&Pの音楽は、この3人でなければ出来上がらなかった ものだ。

Greg Lake(グレッグ・レイク)のボーカルの美しさ。Carl Palmer(カール・パーマー)の手数が多く、変化に富んだドラミングは、ともにEL&Pには欠かせないものだ。

そもそもGregはギタリストとしても非凡な才能を持っている。「クリムゾン・キングの宮殿」(シド・スミス、ストレンジデイズ、2007年)によれば、若 きRobert Frippと同じギター教師からギターを習い、その後Gregは地元ではギタリストとして有名であったという。

ボーカル曲が充実しているとインストゥルメンタル部分が映える。2曲目の「Toccata(トッカータ)」のパーカッシヴなオルガン、激しくうなるムーグ。ゾクゾクするほど素晴らしい。

そして再び「Still...You Turn Me On(スティス…ユー・ターン・ミー・オン)」で、よりマイルドなGregの歌が響く。彼の弾く、粒立ちのはっきりした力強いアコースティック・ギターが印象的だ。

そして超大作である「悪の教典#9」。ここでも彼のエレクトリック・ギターが所々で活躍している。Gregはボーカリスト&ベーシスト&ギタリストなのだ。 それも一流の。そこが他のEL&Pフォロワーと決定的に違う。Keithのキーボード超絶技巧だけがEL&Pではないのだ。

さらにKeithのキーボードも、近年見られるプログレ・メタルなどで聴かれるような弾き倒し系超絶プレイとは異なる。彼は流麗さを避けるかのように、複雑 なメロディー、パーカッシヴなリズムの多様、ムーグやオルガンなどのより歪んだ音を選ぶ。Keithはパフォーマンスとは別の意味で格闘しているのだ。

いやそのパフォーマンス自体、最初は、音楽と、そして己の技量とギリギリのところで格闘することから自然に出てきた行為だったのかもしれない。特に「悪の教典#9 第2印象」におけるピアノ・プレイには鬼気迫るものがある。

人ができないテクニックを聴かせるというよりは、人がやらないことを己のテクニックを用いて全力で追い求めていくような迫力。

同じキーボード・トリオと言われるバンドで言うと、例えばドイツのTriumvirat(トリアンヴィラート)などは、かなりKeith的フレーズや音色を 使うが、印象的なメロディーが多い。オランダのTrace(トレース)は、クラシカルで華麗な指さばきを平然と聴かせてくれる。

しかしKeithは格闘する。心地よいメロディーや音色に落ち着こうとはしない。それはRobert Frippが、未知なる巨大なエネルギーをギターという楽器によって、暴走寸前のギリギリのところでコントロールしているような緊張感に似ている。

そしてそれに拍車をかけているのが、手数が多く、ありきたりなリズムキープで良しとしないCarlのドラミングだ。様々な表現を使うがグルーヴしない。オーケストラのパーカッショニストのようなそのプレイは、Keithとも格闘しているかのように突進していく。

まさに3者が持てる力をぶつけ合った結果生まれた傑作。
なおアルバムタイトル「Brain Salad Surgery」についての考察は次回行う予定。
 

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