2009/08/18

「ザ・シンフォニック組曲」

原題:Hybris(1992年)

Änglagård(アングラガルド)


Hybris」(邦題は「ザ・シンフォニック組曲」または「ヒブリス」)は、1990年代に入り、まさに彗星のごとくスウェーデンから登場した90年代屈指のシンフォニック・ロックグループÄnglagård(アングラガルド:正しい発音は“エングラゴー”)の、1992年のデビューアルバム。

2ndアルバムと、もう1枚ライヴアルバムを残して解散するが、その後現在に至る北欧プログレッシヴ・ロック、あるいは世界的な新しいタイプのプログレッシヴ・ロック興隆の狼煙を上げた作品と言ってもいいかもしれない。

Thomas Jonson:キーボード
Jonas Engdegard:エレクトリック&アコースティックギター
Tord Lindman:ボーカル、エレクトリック&アコースティックギター
Johan Hogberg:ベース、メロトロン
Anna Holmgren:フルート
Mattias Olsson:ドラムス、パーカッション

彼らが新しかったのは、1980年頃にイギリスで興ったプログレッシヴ・ロック・リヴァイヴァル・ムーヴメンにおいて、ポンプ・ロック(pomp rock:華麗なロック、仰々しいロック)と、半ば揶揄されながら、オリジナリティに欠けるジェネシスタイプのバンドを多数輩出した流れとは異なり、北欧という離れた場所から、90年代的オリジナリティーを打ち出しつつ、1970年代の息吹きを直接引き継ぎついだ音を作り出した点にある。

まず第一に、ハモンド・オルガンやソリーナ、メロトロンなど、1970年代のヴィンテージ楽器への強い思い入れと深い愛情がある。それらの楽器の持つ魅力を1990年という時代に甦らせ、現代でも十分に楽器としてのパワーを持っていることを再認識させてくれたのだ。

しかし、その曲調にはポンプ・ロックが持っていた甘ったるさ、ヌルさを微塵も感じられない。むしろリスナーを突き放すような冷徹さ。それはKENSOから ロックの熱さを抜き取ったような潔い音のぶつかり合いと、先の読めない、全体像が掴みにくい曲展開。しかしそこに宿る幽玄な叙情。そこに第二の、まさに 90年代ならではの特徴があるのだ。

ボーカルパートは少ないが、貴重な清涼剤的役割を担い、インストゥルメンタル・パートはグルーヴしない律儀でテクニカルなドラムスの上で、ギターやハモンド・オルガンが力強く歌い、メロトロンが神秘のベールをかける。

一聴すると聴く者を拒絶するかのような展開も、聴き慣れるに従ってグッとリズムやメロディーが浮き出て感じられるのが不思議だ。翌年スウェーデンからデ ビューするAnekdoten(アネクドテン)ほどギターリフを多用したラフでラウドなパワーで押していくタイプではなく、複雑に構築された曲を気合いで 演奏しているようなイメージ。

このパーカッション的でグルーヴしない、メリハリのはっきりしたドラミングには好き嫌いが分かれるかもしれないが、1970年代のドラマーの多くがジャズのプレイに影響されていたのとは異なる、90年代的な潔さを感じる。それでいてプログレ・メタル的なツーバス叩きまくりではない、表情をしっかり持ったプレイであるところに、独特な魅力があるように思う。

メンバーは皆テクニシャンである。しかし時にキング・クリムゾン的なパワーで押しまくりながら、ふっとフルートやメロ トロンなどが醸し出すフォーク・トラッド的な面も大きな魅力だ。曲展開の強引さと静と動の極端な落差は、このバンドが作り出す曲の大きな特徴である。スウェーデン語のボーカルも良い味を出している。

1970年代のプログレッシヴ・ロックの影響を受け、あふれる愛情に満ちあふれながら、情や雰囲気に流されない独自の孤高なる世界を描いた傑作。音に込められたエネルギーはロック的な熱さとも異なるオリジナルな音だ。

ちなみにオリジナルタイトルの「Hybris(“ハイブリス”と発音するようだ)」は英語の「hubris」、つまり「自信過剰、ごう慢」という意味。確かにリスナーに媚びず、メンバー同士も自信を持って個性をぶつけ合い作り上げられたであろう傑作。さらに付け加えるとÄnglagårdとはHouse of Angels(天使達の家)という意味である。