2009/06/15

「レッド」

Red (1974年)

King Crimson
(キング・クリムゾン)


RED」(邦題は「レッド」)は、1970年代King Crimson(キング・クリムゾン)のラストアルバムである。現在の“メタル・クリムゾン”への布石ともなる、いわゆるヘヴィーメタルとは異なった意味での“へビィー”で“メタリック”な作品だ。当時のCrimsonミュージックの総決算にして、自らの最後を痛むかのような悲しみと荘厳さに彩られたアルバムでもある。

1973年の「Larks' Tongues In Aspic(太陽と戦慄)」から「Starless and Bible Black(暗黒の世界)」を経て本アルバムに至る、この時期同一方向に向かって突進し深化していった三部作の、最終章とも言える。


このアルバムにも一部のスキもなし。ボーカル曲があってもポップさなし。したがって前2作にあった余裕のような部分もなし。息が詰まるような密度。David Cross(デヴィッド・クロス)が、本アルバムレコーディン前のツアーで、「いつもわたしたちの演
奏は、恐怖とパニックから生まれたもののようになっている」(「キング・クリムゾン 至高の音宇宙を求めて」北村昌士、シンコーミュージック、1981年)と言い、精神的な消耗とバンド内での役割の低下への苛立ちから脱退している。

 Robert Fripp:ギター、メロトロン
 John Wetton:ベース、ボイス
 Bill Bruford:パーカッシヴズ
《ゲスト》

 David Cross:ヴァイオリン
 Mel Collins:ソプラノ・サックス
 Ian MacDonald:アルト・サックス
 Robin Miller:オーボエ
 Marc Charing:コルネット



最 小ユニットを核に、ゲストプレーヤーの力を借りて作り上げているが、何と言ってもまず聴くべきは、ビル・ブラッフォードとジョン・ウェットンのリズム隊の 鉄壁さだろう。フリップは「リズム・セクションはより強くなり、本質的にフロント・ラインになったのだ。ギタリストがそれに屈しないほどに張り合うのは難 しい。」(「クリムゾン・キングの宮殿」シド・スミス、ストレンジ・デイズ、2007年)と言ってるくらいだ。

逆にギターのロバート・フリップは、レコーディングの四日前にイギリスの神秘学者JGベネットの作品に出会い、その書物に感銘を受け、バンドの解散を決めていたという。「『レッド』のレコーディング・シッションは、わたしにとってとても苦痛だったんだ。」(「クリムゾン・キングの宮殿」同上)。

そ うしたことからロバートの創作意欲が不十分なまま作品が作られたため、逆にギター以外のリズム隊の凄さが引き出されるかたちとなった。オープニングのアル バムタイトル曲「Red」は、メンバー3人による強力なインストゥルメンタルナンバーだけれど、パワーの中心はギターではなくリズム隊である。

「Fallen Angel」の美しいメロディーとボーカルハーモニー、「One More Red Nightmare」のBrufordの独創的で緻密なドラミング、間奏部のサックスソロと、曲はどれも魅力に溢れ完成度も高い。ただしFrippの空間 をねじ曲げるような強力なギターは聴かれない。

最終曲「Starless」は最高に美しいイントロがメロトロンとFrippのギターで奏 でられる。70年代の黄金期Crimson最後の曲にふさわしい荘厳さと、中間部での壮絶なインストゥルメンタルパートを経て、再び最初のメロディーに戻 る時、全てに終止符を打つような感動的なラストを迎える。

“リズム・セクションが フロント・ラインになった”というFrippの言葉通り、アルバム「Red」はある意味リード楽器不在の作品である。印象的なソロやメロディすらゲストの サックスにゆだねられたりしている。しかし、だからこそ逆に初期の頃のアルバムのムードも散りばめられ、総決算的な作品に仕上がったと言えるだろう。


個人的には70年代Crimson三部作では一番感動的な作品だと思う。完成度も群を抜いている。でも、やはりこの「Red」は終わりのアルバムなのだ。「Larks' Tongues In Aspic」の溌剌としたエネルギー、「Starless and Bible Black」の一体となって突き進んで行くような迫力は、ここにはない。

単体で聴いてももちろん傑作である。しかし三部作の最終作として聴くことで、さらにCrimsonの到達した世界がどれほど凄いものかがわかるのだと思う。