2009/06/27

「冥府宮からの脱出」

Grobschnitt(1972年)

Grobschnitt


ドイツのバンドGrobschnitt(グローブシュニット)の1972年のデビューアルバムである。邦題の「冥府宮からの脱出」が音楽世界を的確に表している。ここで展開されるのはじわじわとしみ入る不気味な狂気と暗黒の迷宮。

バンド編成上の特徴は、ツインドラムであること。そして演奏上もこのツインドラムが大きな特徴であり個性となっている。

 Joachim Ehrig (EROC):ドラムス&パーカッション
 Axel Harlos (FELIX):ドラムス&パーカッション
 Stefan Danielak:リズムギター&ボーカル
 Bernhard Uhlemann (BAR):ベース、フルート、パーカッション
 Gerd-Otto Kuhn (LUPO):リードギター
 Hermann Quetting (QUECKSILBER):オルガン、ピアノ、スピネット、パーカッション

最初の「Symphony」の出だしからすでに異様だ。エコーのかかった雑踏の中の会話から一転、合図とともに男声合唱が始まる。しかしすでにハーモニーが 微妙にズレている。聴いていて感覚が狂ってくる。そして左右に振られたツインドラムがユニゾンのようでユニゾンになりきれていないような、また不思議な音 世界を作り出す。いよいよスピード感あふれるパートが始まり、粘っこいボーカルが歌いだしても、やはりドラムが気になってしまう。どことなくアンサンブル の危うさを感じるのだ。

「Travelling」 はスピード感あふれるハードな曲。なのだが、これまたドラムが気になる。基本的にこのバ ンドのドラムは、いわゆるリズムをしっかりキープし、ボトムを安定させる役割を担っていない。ツインドラムであるにもかかわらず、どちらもパーカッション 的な細かな動きをするため、ロック的ダイナミズムとは違った音楽が出来上がる。そしてリズムがズレる。特にこの曲では疾走感を出すためになり続けているハ イハットが遅れるのだ。聴いていてハラハラする。

不思議な雰囲気を持ったボーカル 主体の「Wonderful Music」をはさんで、大曲「Sun Trip」が始まる。ボーカルの個性爆発、粘っこさ満載だが、演奏面でもギターが活躍し、まさに集大成的な曲だ。どっぷりその世界に浸りたい。がしかし、 ブルース風なスローなパートでもツインドラムが両方パタパタ鳴っている。不思議な世界が広がる。

こ のアルバムに込められた暗黒のイメージ には、曲自体の暗さ、まとわりつくようなボーカルやギターの粘っこさに加え、独特のツインドラムがかなり貢献していると思う。リズムの中に焦燥感、追い立 てられるような不安感が全体を覆っているのだ。技術を問うてはいけない。その危うさが作り出す冥府をさまよい歩くアルバムである。

唯一無二の世界。ジャケットもすばらしい。