2009/07/22

「美狂乱」

美狂乱(1982年)

美狂乱(びきょうらん)


King Crimsonの1970年代前半のパワーと革新性は飛び抜けていたし、ライブでの迫力とインプロヴィゼーションの創造性も圧倒的だった。特に Robert Frippのギターは、何か強大な闇の力と格闘し、ギリギリのところでコントロールしながら音にしているような凄さがあった。

同じように闇の力と格闘しながら、音楽を作り出すグループが日本にもある。“日本のCrimson”と呼ばれることもあったバンド、美狂乱(びきょうらん)である。アルバム「美狂乱」は1982年のデビュー作だ。

 須磨邦雄:ギター、ボイス
 白鳥正英:ベース
 長沢正昭:ドラムス
[ゲスト]
 中西俊博:ヴァイオリン
 中島優貴:キーボード
 小出道也:リコーダー

1曲目の「二重人格」は、まさにKing Crimsonの「Lark's Tongues in Aspic part 1」を思わせるギターとパーカッションによるイントロから始まる。そしてギター、ベース、ドラムスという最小ユニットによる白熱の演奏が繰り広げられる。 ドラムの緊張感あるプレイとベースの一定のリズムを中心に、ギターが荒々しい世界を作り出し、じわじわと彼らの世界が姿を現す。

音程が少々不安定ながら、高音でよく通るボーカルも 存在感があって魅力。しかしやはりFripp的なギターの音がサウンドの核となる。ヴァイオリンの美しい調べに続く、つややかなギターソロはまさに Fripp。しかしそこには美狂乱ならではの日本的な美しさが漂っている。そして縦横無尽なギターソロへ突入。安定したリズム隊に支えられて、ギターが闇の力を導き出す。

キーボードとアコースティックギター、ヴァイオリン、そして多重録音されたリコーダーによるクラシカルで穏やかなインストゥルメンタル曲や、わずか2分に満たないにもかかわらずギターがもの凄い集中力で速いパッセージを弾く密度の濃い曲など、どれも曲の完成度が非常に高い。

「ひとりごと」ではラフでダルな感じのギターリフとつぶやくようなボーカルがまた、ちょっと退廃的な雰囲気を持ち込んでいて、独特な妖しさを醸し出している。

そして最終曲「警告」は14分の大作。美しいヴァイオリンに導かれて始まるこの曲は、前半をボーカルが占める。荒いハーモニーがいい感じだ。合間に入るギター ソロも官能的。曲は一転、ギタートリオによるスリリングなアンサンブルへ。パーカッションのみの幽玄な中間部をはさんで、ギターがテンションの高いソロを 繰り出すクライマックスへ突入。リズム隊の集中力もすばらしい。

美狂乱の音は、 King Crimsonに確かに似ている部分はある。しかしKing Crimsonが壮大な世界を強力なプレイで作り上げていくのとは異なり、美狂乱には、閉ざされた空間の中で強烈なエネルギーの放射を受けるような、別の魅力がある。

ライブのすばらしさで有名なバンドであるが、このアルバムでは、静かなテンションを持続するリズム隊に切り込む熱いギターや、丁寧に構成された他の楽器とのコラボレーションが魅力だ。もちろん傑作。

より白熱した演奏やインプロヴィゼーションを求めるなら「風魔 Live vol. 2」「"乱" Live Vol. 3」。音質に難はあるが、どちらも超強力版。Crimson色を残しながら、他の追随を許さない高レベルな実験的組曲を作り上げたセカンド 「Parallax(パララックス)」も傑作。