2009/07/21

「ファースト」

EL Patio(1975年)

Triana(トリアーナ)


Triana(トリアーナ)はスペインのバンドで、この「EL Patio」(邦題は「ファースト」)は、邦題が示す通り、彼らの1975年のデビューアルバムである。スペインで音楽というと単純に思い浮かぶのはフラメンコ。フラメンコでプログレッシヴ・ロックというと思い出すのが、以前ここでも紹介したCarmen(カルメン)。

Carmenは実はアメリカのバンドだったこともあり、フラメンコを意図的に強調しつつ、曲自体はボーカルを主体としたブリティッシュロックであった。そこがまた魅力的なバランスの良さでもあったのだけど。

しかし本家スペイン出身のTrianaは、自然体でフラメンコの香り満載である。ロックにフラメンコの要素を取り入れたのは、このTrianaが最初であり、“アンダルシア・ロック”などとも呼ばれたらしい。アンダルシア(Andalusia)はスペイン南部にある、フラメンコ音楽発祥の地と言われる場所だ。

 Juan Jose Palacios:ドラムス、パーカッション
 Jesus De La Rosa:キーボード、ボーカル
 Eduardo Rodriguez:フラメンコ・ギター
《ゲスト》
 Manolo Rosa:ベース
 Antonio Perez:エレクトリック・ギター

このファース・トアルバムで聴けるのは、熱く激しいフラメンコと言うよりは、熱き思いを内に秘めた哀愁のフラメンコであり、主役はフラメンコ・ギターとボーカルである。

メンバー構成を見てもわかるように、Trianaは基本的にフラメンコ・ギタートリオであり、フラメンコ・ギターは当然アコースティックなままプレイされる。従ってその音をかき消す程にハードな部分は少ない。しかし盛り上がった時との振幅の大きさも、バンドの魅力だ。

アルバム冒頭「Abre La Puerta(扉を開ける)」から、かき鳴らされるフラメンコ・ギター、ゆったりとメロディーを紡ぐピアノ、後ろで鳴っているメロトロンコーラス。そして哀愁のギターソロ。すでに本家の底力を見る思いだ。

ボー カルが入ってくると、哀愁に熱さが加わる。声質や歌い方がフラメンコ歌手風だが、そこをうまくロック方向に引っ張って来ているところが絶妙なバランス。 シンセサイザーのソロが入ったりもするが、ほぼ全編でフラメンコ・ギターがかき鳴らされている。最後はエレクトリック・ギターソロも入って堂 々と終わる。Trianaを音楽を象徴する一曲。

2曲目「Se De Un Lugar(村にて)」も雄大なシンフォニックなロックなのだが、アコースティック感が残っているところがTrianaらしい。3曲目「Luminosa Manana(輝ける朝)」は、ほぼフラメンコ・ギターとボーカルのみに、鳥の鳴き声などのSEが効果的に使われた、静かな曲。

その後 も、曲調が似てしまう部分も見られるが、Jesus De La Rosa(ヘスス・デ・ラ・ロサ)の歌(カンテ)とEduardo Rodriguez(エデュアルド・ロドリゲス)のフラメンコ・ギターの力が、リスナーをTrianaの世界にぐいぐい引っ張っていく。インストゥルメン タルパートの比重はそれほど高くないし、そこで超絶プレイを披露するわけでもない。しかし静かに血湧き肉踊る曲が目白押し。

様式的なプログレッシヴ・ロックのイメージよりは地味である。このフラメンコ的要素を大胆にロックフィールドに取り込んで、新しい音楽を作り出したという点で実際に“プログレッシヴ”であったし、プログレッシヴ・ロックどうこうよりも、音楽の懐の深さみたいなものを感じてしまう。

ジプシー・ キングス(Gipsy Kings)大好きなわたしであるが、ジプシー・キングスほど洗練されていないところが逆にスペインらしさを醸し出し、また違った哀愁と情熱を伝えてくれ る。2nd、3rdもそれぞれ魅力があるが、次第に洗練されていったのと引き換えに、このアルバムでの土臭さみたいな部分は薄れていく。

Jesus De La Rosaのボーカルが入ると曲調が変わってもやっぱりTrianaっていうところは強力なので甲乙付けがたいけれど、わたしはやっぱりこの1stが一番好きだ。燃える。傑作。

なおCD化の時期により曲順が変わっている。手元には変わった方があるが、わたしはオリジナルの曲順に戻して聴いている。ここで触れた曲順もオリジナルに沿ったものだ。