2009/07/04

「アット・ザ・レインボー」

At The Rainbow(1973年)

Focus(フォーカス)


Focus(フォーカス)はオランダのグループ。「At The Rainbow」は、同年ロンドンのレインボー・シアターでの公演を収録したライブアルバムである。作品としては3作目にあたり、選曲もベスト版的な内容になっている。しかし、確かにスタジオアルバムもすばらしい作品であったが、このライブにはなんと言うか、ミュージシャンとしての凄みみたいなものが感じられて、ただただ圧倒されてしまうのだ。

 Jan Akkerman:ギター
 Thijs Van Leer:オルガン、フルート、ボイス、口笛
 Bert Ruiter:ベース
 Pierre Van Der Linden:ドラムス

Focus は基本的にはインストゥルメンタル・グループである。そこにThijs Van Leer(タイス・ヴァン・レアー)の声が使われることがある。このアルバムでも彼はいわゆる歌は歌っていない。その代わりにヨーデル唄法による強烈な声 を、楽器のように使っている。しかし
インストゥルメンタル・グループだからと言って誤解してはいけない。テクニカルなインストバトルとは対局にある、非常に豊潤な音楽がここには詰まっている。

まずThijs Van Leer。音楽的な才能とか素養とはこういうことを言うのかと思い知らされる。 あらゆる手段で音楽表現したいというような熱い思いが、プレイに感じられるのだ。また、オルガンの演奏技術が高度なだけでなく、ギターがリードを取った時にとても厚みのあるオルガンワークでベースの上の中音域を流れるようにサポートするセンスの良さ。

クラシックを基礎に持っているプレーヤーだから、フルー トも、そして口笛さえも、非常に丁寧に美しい演奏を行う。ヨーデルボイスも最初聞くと戸惑うかもしれないが、非常に広い音域で圧倒的な声のパワーを見せつ ける。特に「Hocus Pocus」が圧巻。オレのすべてのプレイを楽しんでくれ〜ぐらいの勢いだ。


この強烈な自己表現大好きプレーヤーに一歩も引く事なく、静かに、しかし熱く存在感を見せつけるのがギターのJan Akkerman(ヤン・アッカーマン)だ。単なる速弾きではなく、ジャズ的なメロディーセンスあふれる音の流れ、ハードロック的なザクザクと刻まれるリフ、そして「Sylvia」のような甘美なメロディーソロなど、Thijsのクラシカルな整然とした空間に鋭く切り込んでいく。加えて、彼もキーボードのバックに回った時に、非常に美しいサポートをしているのも見逃せない。

クラシックの端正さ、ジャズの奔放さ、ロックのダイナミズム、そして2人のプレーヤーの際立った個性が、みごとに融合した一枚。傑作。