The Beyond
「Crawl」 は1991年に発表されたイギリス出身のバンドThe Beyond(ザ・ビヨンド)のデビューアルバム。プログレッシヴ・ロックには通常含まれない。メタルではなく、1970年代につながるような暗さを持つヘビィ・ロック。その実、非常にプログレっぽいサウンドである。
Neil Cooper:ドラムス
Andy Gatford:ギター
Jim Kersey:ベース
John Whitby:ボーカル
80年代から台頭しはじめたポンプ・ロックにかつてのプログレッシヴ・ロックの魅力は感じられなかったし、Dream Theaterが「Images and Words」を発表するのは1992年、King Crimsonの「Thrak」までは1995年まで待たなければならないという、海外プログレ不毛時代にプログレ然とした音が刺激的だった。
本人達はプログレを意識していなかったと思う。大曲はなく長くて5分、全13曲の歌ものである。ボーカルはシャウト型ではなくストレートなロックっぽい歌い 方で、少しくぐもった声質が魅力。彼の表情豊かな歌のバックで、ベース、ドラムス、ギターが凄まじいテンションで走る。
速い曲ばかりというわけではないのだが、サウンド的に最大の特徴であるドラムの極端な手数の多さと、スカーンスカーンというスネアの高い音が、追い詰められたような緊張感と疾走感を生み出す。非常に固い音。このバンドの強烈な個性だ。
ギターの音もメタル系の低音を強調したものではなく、中音域でザクザクとリフを刻む。そしてリズムと一体となって独特のちょっとねじれたソロを披露する。
つまり極端に言えば、中高音域をギターとドラムが、中音域をボーカルが、低音域をベースが担当しているという、不思議なバランスの個性的なサウンドなのだ。The Mars Voltaに似た部分もあるが、基本的にもっとシンプルでストレート。
キーボードもいない。ギターオーケストレーションもない。華やかなハーモニーもない。ドラマチックな曲展開もない。しかしギターとドラムのスリリングで焦燥感を煽るようなプレイは、ヘヴィーなプログレ的インストゥルメンタルに通じる。
そして Dream Theaterのようにテクニカル・インストゥルメンタルを強く意識していないことが、逆にこのバンドの一つの型にはまりきらないミクスチャー的魅力を高めていると言える。
とにかく、このハイスピードドラミングの切れと音のインパクトを味わってもらいたい90年代の傑作。