2009/07/27

「トランシルバニアの古城」

トランシルバニアの古城(1973年)

Cosmos Factory
(コスモス・ファクトリー)


Cosmos Factory(コスモス・ファクトリー)は四人囃子とともに、日本のプログレッシヴ・ロック最初期の代表的バンド。これは1973年のファースト・ア ルバム。当時の最新機材だったメロトロン、シンセサイザーを多用しながら、バンドとしての勢い、テクニックともに非常に高い。特にボーカルが“聴かせる”歌を歌 う。四人囃子もそうだったけど、ボーカルが魅力的だと、バンドとしてとても引き締まる好例だ。

 泉つとむ:キーボード、リードボーカル
 滝としかずー:ベース、ボーカル
 水谷ひさし:ギター、ボーカル
 岡本和夫:ドラムス

最初の曲「サウンドトラック 1984」はインストゥルメンタル。ベースの一定のリズムの上を、メロトロンをバックにムーグシンセサイザー全開。古いスパイ映画のようなメロディーにギターが絡んできて怪しい雰囲気。

2曲目「神話」でボーカルの魅力が発揮される。最初のコーラス、そしてGSか歌謡曲風な、じっくり聞かせる歌。後ろで流れるメロトロン。切れのあるギターソロ。どうしてこういう歌心のあるプログレってなかなかないのだろう。

3曲目「めざめ」はピアノと琴だけをバックにしっとりと歌われるシンプルな美しい曲。歌がいいなぁ。いい声だなぁ。4曲目「追憶のファンタジー」は一転してハードロック調ではるが、ボーカルが個性を発揮し、結果的にハードロック演歌風。これがまた日本風でいい。

5曲目、LP時代A面ラストはインストゥルメンタル。ヴァイオリンの入った曲だが途中オルガンソロなども入り曲に変化をつけている。

6曲目、LP時代にB面すべてを使った18分を越える大作「トランスヴァニアの古城」。本アルバムのハイライト。ピアノの、鍵盤をたたき付けるようなイントロか ら緊張感がみなぎる。ドラムとベースがリズムを刻みだすとオルガンが全体を包み込み、ギターがうねる。オルガンの響きが初期のピンクフロイドっぽい感じか。

曲は4部に分かれていて、パート2よりボーカルが入る。スローなテンポで雰囲気が暗く進むのは、ドラマチックなGSか和製ピンク・フロイドという曲調。でも実はそれほど真似た感じはない。テクニックに頼らず音の作り出す世界を大事にするバンドということだろう。

常にギターがよく歌っている。そのままパート3へ進み雰囲気はやや明るめに変わる。しかしやっぱりボーカルが曲を引っ張る。インストパートも雰囲気を大切にしていて個人が表に出過ぎない。クリアーで鋭い感じのギター、くぐもったハモンドオルガンの対比も魅力的だ。最後は嵐のSEで暗いまま曲は幕を閉じる。ひた すら暗いまま、あっという間に過ぎる18分だ。

コスモス・ファクトリーはその後3枚のアルバムを出す。1976年の3rdアルバム「ブ ラック・ホール」では、本作のピンク・フロイド調からキング・クリムゾン的なハードな面が強くなる。しかし共通しているのはボーカルの個性的魅力と、全体 を支配する“昭和の日本”的暗さだ。実はライブを一度見たことがある。「ブラック・ホール」の頃だと思う。非常に引き締まった音で圧倒された。

このアルバムにはそうしたプレーヤーのテクニック的な凄さやバンドアンサンブルの一体感はまだ感じられないが、それが逆に暗く沈んだ曲にマッチし、ボーカルの個性を活かした、極めて日本的な独特の世界を作ることに成功している。

GS時代に培われたドラマチックな世界を残しながら、音を詰め込みすぎない潔さと、それをものともしないボーカルの力を感じさせる傑作。