2009/06/08

「ビトイーン・フレッシュ・アンド・ディヴァイン」

Between Flesh and Divine(1981年)

Asia Minor(アジア・ミノール)

  
Asia Minor(アジア・ミノール)はトルコ系フランス人によるバンドという特異な存在。しかしトルコや中近東色は時折ほのかに香ってくるかどうかぐらいで、英語で歌っていることもありブリティッシュロック、特にCamelあたりに近い音が魅力のバンドだ。

Between Flesh and Divine」(邦題は「ビトゥイーン・フレシュ・アンド・ディヴァイン」)は彼らの1981年のセカンド・アルバムだ。

Setrak Bakirel:ボイス、ギター、ベース
Lionel Beltrami:ドラムス、パーカッション
Robert Kempler:キーボード、ベース
Eri Tekeli:ギター、フルート

バンド名は英語読みだと「エイジア・マイナー」、つまり「小アジア」のこと。別名アナトリアとも呼ばれ、現在のトルコ共和国がある場所である。

タイトルは「人と神の狭間で」というような意味か。あるいはもう一歩踏み込んで「肉体と霊的存在の狭間で」ぐらいでもいい感じ。

ギタリスのとEriが女優のグレタ・ガルボ(Greta Garbo)のファンであり、神秘性と官能性、欲望と精神性の対象という、彼女の持つ女性の二面性を描いたものと言われる。ちなみにグレタ・ガルボの映画 に「Flesh and the Devil(肉体と悪魔)」というタイトルの作品がある。アルバムタイトルにも影響与えているのかも。

ズバリ、音楽的なアンサンブルが絶妙なバンドだ。タイトで曲を熱く引っ張っていきながら、叩き過ぎないドラムス、メロディーを大切に歌うフルート、厚みを抑 えてゆったりと流れるキーボード、シンプルなクセのないボーカル。熱く盛上がるときはドラムとと最高のコンビネーションを見せ、静かなパートで美しいアル ペジオが光るギター。

各パートが自己主張し過ぎずに、全体のアンサンブルとして、美しく叙情的な世界を描いていく。曲の緩急も自然な流れで、Camelの「Mirage(ミラージュ)」やThai Phongのうような、メロディーをとても大切にした曲が続く。

1980 年に制作されているが、当時のイギリスで勃興しつつあり、後に「ポンプ・ロック」と呼ばれるバン ド達を輩出するプログレッシヴ・ロック・リバイバルムーヴメントの流れとは無関係。むしろ遅れてきた1970年代のバンドという趣きである。

確かにそれぞれの音楽歴は1970年代から続いており、Asia Minorとしてのファースト・アルバムは1979年に発表されている。本アルバムは1980年に12日間かけて制作され、

奇をてらったところがなく、安心して聞くことが出来ながら、その叙情性に心奪われ る一枚。ちょっと英語に慣れてない風なボーカルも味がある。

フルートがフロントに立つ曲が多いのが特徴だが、叙情性が、甘ったるさや緊張感のない緩さに流されていかないのは、やはりドラムスが全体をキッチリ引き締めているからだろう。

優しさと悲しさに癒される傑作。

(ギタリストが足下にフルートを置いているのが独特)

ちなみにこのアルバムはローカルなレコード会社で発売されたが、ニュー・ウェーヴ時代の業界からは無視され、それでも何とかアフリカ音楽を専門としていたレーベルを介してフランスでの発売にこぎつけることができたという。

しかしバンドは評価されることもなく、経済的な理由も伴って活動停止。ところが1981年末にイギリスのヨーロピアン・プログレッシヴ・ロック支援者でレコー ドショップオーナーだった人物が、フランスを訪問した際にフランス人の友人にAsia Minorを紹介され、その音楽に夢中になってしまっった。そしてグループと連絡を取った上で、海外、特に日本での販売を行ったという。

プログレッシヴ・ロック・リバイバルムーヴメントは意外なかたちでAsia Minorの「発見」につながったわけだ。さらにAsia Minorの「再評価」には日本が大きな役割を負っていたということになる。確かに、日本人好みの素朴な美しさを持った音である。

やるな、レコードショップオーナー。目の付けどころが良かった。お陰でこうして名盤として生き残ることができたわけだ。