Grobschnitt(グロープシュニット)
「Rockpommel's Land」(邦題は「御伽の国へ」)は、ドイツのバンドGrobschnitt(グロープシュニット)の第4作目、1977年の作品である。当時のLP時の邦題は「おとぎの国へ/グロープシュニットの幻想飛行」という長いタイトルであった。
「Rockpommel's Land」はオリジナル・ファンタジーによるトータル・アルバムだ。家出をした少年Eanie(アーニー)が、童話の世界Rockpommel's Landへの旅の途中で、巨大な鳥Maraboo(マラブー)に出会う。そしてSeverity Townで、子供好きが理由で幽閉されているMr. Gleeとその他の全ての魂を解放し、最後にRockpommel's Landにたどり着くという物語。
アルバムのカバーアートは、Yesのアルバムなどで有名なRoger Dean(ロジャー・ディーン)を思わせるもので、ヴィジュアル・アーティストHeinz Dofflein(ヘインツ・ドフレイン)によるもの。
Eroc:ドラムス、パーカッション、歌詞
Lupo:リード・ギター、バックボーカル
Mist:キーボード、カバーアートの基本部分と物語のテーマ&コンセプト
Popo:ベース
Wildshgwein:リード・ボーカル、ギター
このGrobschnittは「Grobschnitt(冥府宮からの脱出)」で1972年にアルバム・デビューしている。このアルバムは、シンフォニックな曲調と独特なパーカッションが印象的な大作だったが、何とも言えない不気味さ、暗さがアルバムカバーや曲自体から漂っていて、それがまた大きな魅力となっていた。
しかしこのアルバムでは、別バンドかと思うほどに音は洗練され、美しくファンタジックな音楽が流れてくる。メンバーはニックネームで表記されているが、ボーカルはファーストアルバムと同じで、その ちょっと演出過剰気味なクセのある歌い方が、この作品をただ美しいだけではない不思議な世界に誘ってくれる。やはりまぎれもなくGrobschnittを感じさせる作品となっている。
サウンド的にはゆったりしたリズムに乗ってボーカルが物語を歌っていくというオーソドックスなものだが、まず音が良いこと、そして音を絞り込んだのだろう、とても整理され計算された心地よいサウンドであることが特徴だ。アコースティックパートが効果的に配されている。
結果的に、変幻自在なボーカルが全体を引っ張り、各プレーヤーは自己主張するというよりは、安定した演奏と堅実なアンサンブルに徹しており、細かなところまで神経が行き届いているアレンジ、そして所々で挿入される語りが、トータルな魅力的世界を作っている。
し かしよく聴くと、ドラムがリズムをキープするだけでなく、とても細かな表情を曲に加えていることがわかる。ギターも印象的なメロディーソロからアコース ティック・ギターによる繊細な伴奏まで、丁寧なプレイを聴かせてくれる。そしてファンタジックなアルバムとなると期待が高まるキーボードは、必要以上に音 を重ねて厚みを作ることもなく、美しいピアノを要所にはさみながら、柔らかく優しく全体のムードをサポートしている。
アルバム最後はギターとピアノを中心としたドラマチッックな盛り上がりを見せる。心にしみるメロディーが、解放された魂やEanieたちの喜びを表現し、ファンタジーの大団円であると同時に、Eanieたちの旅の終わり、そして夢の終わりを感じさせる。
ボーカルのちょっとねちっこい歌い方が、好き嫌いを分けそうなことと、ファーストのGrobschnittの“怪しさ”を愛する人には期待に応えられる部分がなくなっていることから、聴く人によってアルバムの評価は分かれるかもしれない。
しかしわたしはファーストの“怪しさ”がなくなったことはとても残念だけれど、それとは違ったGrobschnittのオリジナリティが開花した作品として、その完成度を評価したい。
全4曲、最後の「Rockpommel's Land」は20分の大作。これだけの音楽を美しいメロディーを重ねながら最後までスムースに聴かせる曲構成、演奏、ボーカルはやはり特筆モノ。十分傑作の名に値する作品である。
ちなみにLP時代のA面最後曲である「Severity Town」の最後で語りが入り、疲れたEanieが休息を取る時「レコードを裏返そうか、それとももう一つホット・ドッグを食べようか考え始めた。」とある。シャレてるなぁ。
ただし、Roger Deanを意識したと思われるカバーアートは、逆にRoger Deanには力量が及ばないことを感じさせてしまって残念な気がする。もっとオリジナルに徹した方がよかった気がする。Marabooの柔らかい線なんてとてもきれいなんだから。