Fireballet(ファイアーバレー)
申し訳ないが今回は反則技である。LPレコードしか手元にはない。LPからの盤起こしで1度CD化されたことがあるらしいが、現在では正規な流通では入手困難である。ダウンロード配信でもないんじゃないかな。少なくともiTunesにはなかった。
だから中古CDか中古LPを探すしかない。誠に不遇な作品である。それでもご紹介したいのが、このFireballet(ファイヤーバレー)というアメリカのバンドの、1975年のデビューアルバムである。
アメリカのバンドでありながら、メンバーにイタリア系と思われる名前が多く入っており、音的にも構築性と叙情性、攻撃的アンサンブルがうまく混ざり合った、とても完成度の高いアルバムでる。
Jim Come:リード・ボーカル、ドラムス、パーカション
Bryan Howe:キーボード、ボーカル
Ryehe Chlands:ギター、ボーカル
Frank Petto:キーボード、ボーカル
Martyin Biglin:ベース、12弦ギター
そ して当時のビルボード誌が「ファイアー・バレー - それはブリティッシュロックへのアメリカからの偉大なる解答である」と書いたほどに、当時アメリカでも、イギリスのニューロックムーヴメンに呼応するよう に、アメリカン・プログレッシヴ・ロックと呼べるような、Kansas、Pavlov's Dog、Leviathanなどがデビューを果たしている。
確かにその演奏力、構成力ともにずば抜けてすばらしいし、アメリカのような土臭さはまったくなく、むしろよりもヨーロッパ的なクラシカルな響きが印象に残る。
そしてなによりも、プロデューサーがあのオリジナル・キングクリムゾンのメンバーにして実質的なリーダーだったと言われるIan McDonald(イアン・マクドナルド)なのだ。そればかりか、ゲストプレーヤーとしても、何とも美しいフルートとアルトサックスを聴かせてくれるのである。
しかし、正直確かにIan McDonaldは非常にオイシイところで入ってきて、その超魅力的なプレイを披露しているが、決して彼のプレイに乗っ取られたり、彼のプレイに頼ったバンドではない。
非常にアグレッシブで構築性の高い楽曲でありながら、Jim Comeの堅実でパワフルなドラミングと、表情豊かなボーカル、さらに全員がボーカルを取れる強みを活かしたハーモニーの美しさは、バンドの強烈なオリジナリティである。
ちなみにハーモニーになる時に、ファルセットの高音が入るあたりが、イタリアのバンドっぽい感じがして面白い。
そして何と言っても聞き物は、旧LPB面で18分を越える組曲「Night On Bold Mountain(禿げ山の一夜)」であろう。冒頭とラストにムソルグスキー作曲のクラシックの名曲「Night On Bold Mountain」の印象的なフレーズを置き、静かなボーカル、激しいボーカルハーモニー、重戦車のように突き進むインストゥルメンタル、そしてここぞとばかりにでてくるIan Macdonaldの見事なサックス。ほれぼれするほどだ。
それだけではない。曲は中間部にドビュッシーの「The Engulfed Cathedral(沈める寺)」をはさみ、神秘的な静と闇の部分を描き出す。全体の構成力も抜群なのだ。クラシックを元にこれだけスマートに、そして緩急豊かな長尺の曲を作り上げる力量と、その演奏力にうなってしまう。
全員がテクニック的に高いものを持っているが、逆に特定のプレーヤーが耳に残るというよりは、全体のアンサンブルの良さが心地よい作品。ボーカルがしっかりしているところが何よりの強みだな。
傑作。絶対正式にCD化して欲しい一品。
ちなみにFireballetという名前は、オリジナルのFireball Kidsというバンド名を改める際に、リーダーのJim Comeが提案したものだが、最初はメンバーの間では不評だったとのこと。それはその名前が“ピンクの網タイツのバレリーナ”を連想させるためだったらしい(LPのライナーノートより)。
しかし彼らはもう一枚アルバムを出すが、そのジャケットは開き直ったかのようにその“ピンクの網タイツのバレリーナ”の格好をしたメンバーの写真であった。オリジナリティーが増したと言われるが未聴。こちらも未CD化。