2009/07/19

「スタンド・バイ」

STAND BY(1978年)

HELDON(エルドン)


STAND BY(スタンド・バイ)」 はフランスのバンドHELDON(エルドン)が1978年に発表した最終作である。

当時わたしは、エレクトロニクス的な要素の強いのサウンドはドイツのバ ンドというイメージを持っていた。だからこのフランスのバンドであるHELDONが、エレクトロニクス指向の強い音楽をやっているということを耳にした時点でもう興味津々。

さらに、HELDONはエレクトロビートに加え、テクニカルなドラムとKing Crimson的なヘヴィーなギターが入ると言うのである。期待は膨らむばかりであった。そして期待は裏切られなかった。


 Richard Pinhas:ムーグ、ボコーダー、ギター、シーケンサー
 Francois Auger:ドラムス、パーカッション
 Didier Batard:ベース
 Patrick Gauthier:リードムーグ、ピアノ、キーボード
 Klaus Blasquiz:ボイス

オリジナルLPでの曲順は、A面が「BOLERO」という22分近くの組曲、B面が4分の「UNE DROLE DE JOURNEE」と14分の「STAND BY」という流れであった。CD化の際にAB面の曲順が逆になっているようだが、個人的には当時と同じオリジナルの曲順で聴いている。スキャットは入るが 基本的に全曲インストゥルメンタルだ。

その一曲目の大作「BOLERO」。不気味なシンセサイザー音が飛び交う中、まるで巨大な機械がゆっくり動き始めるかのようにシンセビートが動き出す。スネアドラムの規則正しいボレロのリズムが始まり、パーカッションがクサビを打ち込むようにリズムにアクセントを入れる。ドキドキさせる導入部。そしてなだれ込むようにシンセビートが疾走を始め、Francois Auger(フランシス・オージェ)の正確なドラムがリズムを刻む。機械と人間がせめぎ合っているようなサイバーな緊張感。

曲はシンセビートのテンポを落とし、ドラムとパーカッションがリズムを刻む中、Richard Pinhas(リチャード・ピナス)のRobert Fripp風のギターソロが強烈なエネルギーを注ぎ込む。シンセビートの無機質な感じと、情念の固まりのようなギターの対比が刺激的だ。ソロは Patrick Gauthier(パトリック・ゴーティエ)のムーグに引き継がれ、やがてキーボードの織りなす静かな空間が広がり「BOLERO」終わる。永遠に続く音世界の一部を切り取ったような曲だ。

「UNE DROLE DE JOURNEE」はKlaus Blasquiz(クラウス・ブラスキス)のスキャットを入れた速いビートの曲。ここでもシンセシーケンスに同期しているキレのいいドラミングが素晴らしい。

そして最終曲「STAND BY」。シンセビートはイントロで突然途切れ、ギター、ベース、ドラムスの完全なベヴィー・インストゥルメンタルが始まる。リズムが重い。ギターは Robert Fripp的な音を使いながら、意外とハードロック的なフレーズも聴ける。そして途中からそのままスピードアップして、シンセビートが鳴っているかのような緊張感あるれるプレイをはさんで、本物のシンセビートが鳴り出す。この生のプレイとシンセビートとを組み合わせるセンスが絶妙!

クライマックスはシンセ、ベース、ギターのユニゾンによる下降旋律の反復がエネルギーの高まりを見せ、その後、冒頭と同じギター、ベース、ドラムスによる重いリズムが、高まったエネルギーを発散させていく。引きずるようなベースが印象的で、次第に過熱した機械が停止するかのように曲は終わりを告げる。息もつかせぬ14分だ。

デジタルビートをふんだんに使いながら、そこに通常のロックフォーマット楽器が血肉を注ぎ込むことで作り上げた、サイバー感覚と原始的なパワーが融合した独自の世界。傑作。