2009/07/26

「妖精の森」

A Story Of Mysterious Forest(1980年)

Ain Soph(アイン・ソフ

 
「妖精の森(A Story Of Mysterious Forest)」は日本が生み出したプログレッシヴ・ロック作品の中でもトップクラスに入る名盤。バンド名はアイン・ソフ。1980年発表のファーストアルバムだ。

内容的には曲によってジャズ・ロックとシンフォニック・ロックを行き来する感じ。すべてインストゥルメンタルだが、どの曲もとても表情豊かな印象を残す。

バンド本来の音は実はCaravan、Camel、Soft Machine、Hatfield and the Northなどの英国バンド、取り分けカンタベリーミュージックとしてくくられるジャズ・ロックを目指していたようだ。しかしこのアルバム制作時にキー ボード奏者が替わり、結果的にそうしたジャンルに単純に分類できない、非常にオリジナルなアルバムができあがった。

 山本要三:ギター
 服部眞誠:キーボード
 鳥垣正裕:ベース
 名取 寛:ドラムス

収録曲は全5曲。1〜4曲はジャズ・ロック指向の強い作品で、5曲目が18分の大作「組曲:妖精の森」というシンフォニック色の濃い曲だ。

最初の曲「クロスファイア」から演奏の集中力が凄い。7拍子で突っ走るリズム隊の上でギターとキーボードが恐ろしく密度の高いソロを展開する。もちろん速弾きなら他にもたくさんギタリストはいるだろう。しかし思わず魅き込まれるスキのないギターだ。そしてそれに臆することなく対抗するキーボード。3分にも満 たない曲だが圧倒される。

2曲目のアコースティック・ギターによる間奏曲をはさんで、3曲目、4曲目。スピード感、緊張感の中にも、ア コースティック&エレクトリックピアノが美しく、ギターも速弾きだけでない味のあるソロを聴かせてくれる。何と言ってもバンド全体のアンサンブルがカチッとまとまっている。ギターもキーボードも攻撃的で野性的な演奏をするわけではない。スムーズでテクニカルなインタープレイが聴きどころだ。

そして「組曲:妖精の森」。1〜4曲を聴いたところからも分かるのだが、こうしたシンフォニックな曲はこのバンドの本来の姿とは少し違う。しかしだからこそジャズ・ロック的な疾走感があったり、クラシカルなメロディーが顔を出したりと、変化に富んだ曲作りがなされている。

そのため、曲の1/3あたりから始まる、Pink Floyd的なメロディアスでメランコリックなギターソロが活きてくる。メロトロンソロも登場する叙情的なパートであるが、必要以上に音を厚くしないことで、思った以上にクールに進行し、組曲の他のパートと違和感なくつながっていく。こうして、ジャズ・ロック的なバンドによるシンフォニック組曲という、不思議な魅力に満ちた音楽となった。録音時、メンバー間では一触即発状態が続いていたというが、だからこそ作れた音だと言える。

本アルバムのキーボード奏者は、アルバム発表後脱退する。したがってこのメンバーでの演奏が聴けるのは、このアルバムだけだ。カンタベリーミュージック系ジャズ・ロックだけでも日本のバンドとしては珍しいのに加えて、クラシカルなキーボード奏者が加入していた本作は、さらにヒネリがあって独特なサウンドが 出来上がった。

演奏力、楽曲の魅力ともに世界レベルの傑作。
なおアイン・ソフは今でもバリバリの現役バンドであります。